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7 秘密組織-4-

 そこにいたのは、あの男だった。


 ハイモルデトーチを追い払った、あの一団の。


 あの時は暗がりで分からなかった姿が、昼間の光の中ではっきりと見て取れた。


 褐色の肌に、とがった耳。


 背丈も年齢も、アナグマとそう変わらない。


「警告は無駄だったか」


 視界に映るものすべてを敵と見定めるような鋭い双眸が、三人を睥睨する。


「あの時の奴か――」


 ダージが前に出る。


 だがそれをさえぎるようにアナグマがさらに進み出た。


 ――こいつは何かを隠している。


 というより、何かを知っている。


 そしてそれはおそらく自分たちにとって都合の悪いものであろう、と。


 彼は直感した。


 少なくとも友好的な相手とは思えない。


 何度か口にしている”警告”という言葉も、こちらの身を案じてのことではないだろう。


 そこまで思考が至ったアナグマは、いつの間にか短剣を相手に向けていた。


「兵団のはみだし者か? それとも誰かに雇われたならず者か?」


 調査団や兵団は正規の組織として国からさまざまな権限を与えられている。


 今でこそその地位や権能は危ういものになっているが、少なくとも調査団の活動を妨害する輩を捕縛――場合によっては排除――することは認められている。


「…………」


 男は憐れむような笑みを浮かべた。


「何も知らない愚か者め」


 男は剣を抜いた。


「いま退けば見逃してやる」


「なんだと――?」


「もう一度……これが最後の警告だ。引き返せ。そして調査団だか兵団だかのつまらない仕事からも手を引くんだ」


「ふざけるな!!」


 アナグマは短剣をかまえた。


 もとより退くつもりなどない。


 カイロウの捜索をこんなならず者に邪魔されてたまるか!


 この程度の脅しに屈するようでは調査団など務まらない! 


「面倒ごとを増やしやがって……」


 憐れむような、呆れるような声でつぶやき――。


 男は地を蹴って躍りかかった。


 まばゆい銀光が袈裟がけに振り下ろされる。


 アナグマは上体を反らせてそれを躱すと、逆手に持ち替えた短剣を力まかせに振るった。


「…………!!」


 切っ先は男の咽喉を――捉えることはできなかった。


 紙一重で空を切った短剣を追いかけるように、再び男の刃が迫る!


 しかしそれはアナグマには読めていた。


 大振りの隙を突き、無防備も同然の腹部めがけて蹴りを見舞う。


 手ごたえはあった。


 だが、浅い。


 男は宙返りを打って後方に飛び下がった。


「…………」


 厄介な相手だった。


 調査団にとっての天敵は巨獣だが、彼らの動きは予測がつきやすい。


 何度も遭遇すれば生息地や習性などのデータが集まり、その情報は調査団間で共有されている。


 結果、対処法も確立されるようになり、いざ対峙しても手を打つことができる。


 つまり調査団が想定している相手は巨獣なのだ。


 小柄で、縦横無尽に飛び回る同族ではない。


「アナグマ、下がれ!」


 ダージがアナグマの頭上を飛び越えつつ、弓を引き絞った。


 放たれた矢は男の右足をかすめた。


「次はそのスカした面に当ててやろうか!?」


 多勢に無勢。


 三対一ではアナグマたちに分があるハズだった。


 にもかかわらず男は微塵も動じない。


 命乞いをする代わりに彼が発したのは、


「真実を知りたいか? それとも真実を知らないまま悪に加担し続けるか?」


 という問いかけだった。


「なにをワケの分からな――」


 ダージがつがえようとした時、周囲の空気が一変した。


 まるで何もない空間から突然現れたかのように、白いローブの集団が場を取り囲んでいた。


 ――少なくとも二十人はいる。


「どうする?」


 多勢に無勢。


 四方を囲まれているこの状況では勝ち目はうすい。


 おまけに彼らは退路を断っている。


 つまり”引き返す”という選択肢は残されていない。


 手に手に銃を持っている彼らを見て、アナグマはかまえを解いた。


 三人のうち、ひとりでも戦意を失くしたのでは戦況は覆せない。


 ダージ、キンケルも忌々しげに交戦の意思がないことを示した。


 数名の白ローブが銃口を向けつつ包囲網を狭めていく。


「…………」


 アナグマはどうにか隙を突くことはできないかと窺ったが、眼前の男の鋭い視線は一分の隙さえも見せなかった。


 まもなく三人は後ろ手に縛られ、頭から袋をかぶせられた。




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