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6 枢へ-3-

 金銀珠玉をちりばめた廊下が続く。


 地下世界には不釣り合いな高い天井と無駄に広い通路は、その構造自体が富と権威の象徴である。


 ソブレロはギトーの横に並んだ。


「さっきみたいなことは慎んでくれよ? これだよ?」


 役人に聞こえないようにささやくと、彼は自分の首にあてがった手刀を横に引いた。


「分かッてるよ。オレだってバカじゃネエ」


 重厚な扉をふたつくぐる。


 はたして広がる光景はアナグマの想像どおりだった。


 深い赤のカーペットが敷かれている以外には何もない空闊な部屋。


 いたるところに衛兵が立っており、華やかな空間にもかかわらず殺気が満ちている。


「…………」


 アナグマはその理由をすぐに理解した。


 衛兵たちが剣を抜き、かまえていたからだ。


(どういうことだ……?)


 ここに来る際、当然ながら武具の類は取り上げられている。


(まさか僕たちをここで……!?)


 目の前には天井まで届きそうな背もたれのイス――に腰かけている王の姿がある。


 装飾ばかりの動きにくい服装だが、あれを脱げば自分たちと変わらない姿のハズだ。


 いざとなったらあの王を人質にとってやろう、とアナグマは思った。


「カイロウ隊および捜索に同行していた兵士らを連れて参りました」


 役人は深く頭を垂れた。


「ご苦労である。そのほうは下がってよい……さて――」


 案内役が消えたのを確かめてから、


「諸君の長は誰であるかな?」


 王はきわめて柔和な顔で問うた。


 ズィロはアナグマを見た。


「僕じゃないですよ」


 アナグマはソブレロを見た。


「いやいや」


 ソブレロはギトーを見やった。


「オレじゃない」


 ギトーはソブレロを見返した。


「古参だから」


「でも長じゃねエ」


「副隊長じゃないか」


「いつ決まったンだよ」


 ギトーが頑として前に出ようとしなかったため、しかたなくソブレロが進み出た。


「申し訳ありません。この隊を束ねる者は不在であります」


 それを聞いて王は深く嘆息した。


「そうか……では仕方あるまい」


 彼はしばらく何事かを考えていたが、やがて観念したように顔を上げた。


「長がおらぬのなら諸君に訊く。一人ずつ答えてもらおう」


「どのようなことでありますか?」


 ソブレロは恭順に振る舞う。


(普段の様子もだけど、この人はずいぶんと落ち着いているな)


 アナグマは舌を巻いた。


「大したことではない。諸君が先日、地上に出たことは知っておる」


「それが我々の仕事ですので、仰せのとおり地上に出ておりました」


「地上にはおそろしい生物がおる。巨獣に怪鳥、怪魚……おそろしいことだ」


 言葉とは裏腹に王の口調はきわめて単調だった。


 為政者ゆえの落ち着きぶりとはちがう、超然とした静かさだ。


「ところで諸君はそれら以外に何かを見なかったか?」


「……おっしゃる意味が……」


 分からない、という言葉をソブレロは濁すことで返した。


「つまりだ。諸君が普段、地上で遭遇している生物とは異なる――異なる何かを認知したかどうか、ということだ」


 王は言葉を変えて同じことを問いなおした。


「きわめて凶暴な巨獣に遭遇しました。我々はハイモルデトーチと呼んでおります。目撃例が少なく……いえ、実際は多いハズですが――」


「それとて巨獣であろう。それ以外には?」


 平静な王の口調にわずかうねりが生じた。


 答えを促すような声の強弱に、ソブレロはゆっくりとかぶりを振った。


「他には何もありません。ただ――その巨獣に襲われた直後、大きな地震がありました。ただならぬ空気を感じ、ただちに撤退したのであります」


 王は小さくうなずく。


「それから、これは既に調査団からご報告申し上げておりますのでお聞き及びかと存じますが、所属不明の集団と遭遇しました」


「聞いておる。賊徒のたぐいであろう。他には?」


「以上です。他には何もありません」


「そこの者はどうであるか?」


「ン? オレも何も見てね――見て……見て……おりません」


 ソブレロに小突かれ、ギトーは記憶の底からどうにか丁寧な言葉を引っ張り出した。


 王は全員に問うたが、みな一様に首を横に振るばかりだった。


「その者もか?」


 最後に訊かれたアナグマも同じ答えを返そうとした。


 が、はたと思い出し、


「何か――得体の知れないものを見た気がします」


 確かめるように言った。


 瞬間、王の顔つきが変わった。


 それを悟った全員がアナグマに注目する。

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