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39. 発覚

そうだ、それだ。

さっきから気になってたけど聞けずにいたんだった。


「私がレイの妹に、ですか?」


というと、レイの家に養子に入るということなんだろうけど、言わずもがな私は平民で、レイは貴族。そう簡単にことが運ぶものだろうか。


それに、そういった手続きには親のサインや了承がいるんじゃないかな。


いや、そもそもレイの家には私を迎え入れるメリットがないはずだ。

レイの話を聞くかぎり、仲のいい家族みたいだし、そんなところに私が入ってしまったら、もとの家族での扱いと同じようにはならないかな。


でも、これから学園に入ってからも今のように保護者不在では何か不都合なことも出てくるんだろうか。


ぐるぐると考え込んでいると、レイが心配そうに顔を覗き込んだ。


「いきなりのことで混乱させてすまない。色々と不安になる気持ちもあるだろうが、うちの家族にはすでに話をして了承も得ている。なんなら、乗り気だ。」


「えっ」


予想外な言葉に顔を上げると、レイは少し言いづらそうに続ける。


「実は、勘づいていたかもしれないが、俺には魔法がほとんど使えない。魔力がないわけではなくて、"魔力抵抗"が高すぎるせいだ。」


そう言われてみれば確かに、一緒に過ごしたこの期間で、レイが魔法を使っているところは見たことがない。


「魔力抵抗って、確か魔法を使ううえでの、魔力や、それを魔法に変換できる割合の変換率と同じ、魔力効率を決める大切な要素でしたよね。」


「その通り。しっかり覚えてたね。」


ヒスイが嬉しそうに話の後を継ぐ。


「基本的には魔力量と魔力変換率、魔力抵抗の3つのバランスで使える魔法や威力に個人差が生じる。人間は動物に比べて魔力抵抗が高い生き物だから、平均して大体2~3程度の抵抗力が働いていると言われている。加えて魔力の変換率や魔力量が訓練やリザドールで多少引き上げられるのに対し、魔力抵抗は生まれつきだから努力ではどうにもならない。」


「ちなみに俺の魔力抵抗は8だ。」


「それって…」

確か完全に使えなくなる数字が10だったはずだ。


「うん。普通ならまったく使えないレベルだね。だけどレイの場合はもとの魔力量が多くてね。もし平均的な魔力抵抗だったら火魔法だって余裕で扱えたはずだよ。逆に僕なんかは魔力量はレイより大分少ないけど、人より魔力効率がいいおかげで火魔法までは無理でも氷魔法が扱える。」


「それだけ魔力効率が重要だってことだ。」


と、頷いたレイに、キョウが補足する。


「ちなみに、魔力抵抗が高いのも実はデメリットだけではないんですよ。」


「ああ、魔法の影響を受けにくいんだ。例えば精神系の魔法や魔法を使った攻撃だ。要するに魔力による干渉を受けにくい。その分、治癒魔法なんかも効きづらいのが難点だが。」


そう言ってレイがカップを持ち上げると、中のハーブティーがくるくると渦を巻きながら上昇した。水魔法だ。


(レイの魔法、初めて見た。

いや、それより、まだ雨が降っているのに…)


「元々がたいした魔法を使えないからあまり役には立たないが、雨の魔女が活動していても、俺にはいつもとほとんど変わらない感覚だ。」


次の瞬間、ハーブティーの小さな柱はふっとほどけて、ちゃぱん、と音を立ててカップの中に収まった。


「それは…すごいですね。」


「話を戻すと、そんなわけで俺に魔法が使えない以上、現状では妹が家の後を継ぐか、婿を取るかする必要があるんだが、いかんせんうちの妹はこだわりの強い性格でな。」


「だね。」


事情を知るらしいヒスイが苦笑する。


「ここ数年は持ち直しているが、もともと体が弱かったこともあって、友人も少ない。最近は魔法学園への入学にも消極的でな。」


「妹さん、来年入学だっけ?」


「ああ。うちの両親としては、妹と歳の近いエマが仲良くなって、先に学園に入学してくれれば、妹も入学を嫌がらないだろうと考えているらしい。まあ最悪、妹が入学や縁談を嫌がったとしても、魔法を使えるエマが家にいてくれれば、俺が当主になっても不足を補える。勿論エマが結びたい縁談があっても、うち相手なら大体は婿入りさせられる。同時進行で俺も相手は探すが。」


「レイの縁談は、なかなかまとまりませんからね。」


困った顔で笑うキョウに、レイは堂々と頷いた。


「そうだ。」


「何ひらきなおってんのさ。」


(そういうことなら、向こうにもメリットはあるのかな。

妹さんと仲良くなれるかが鍵みたいだけど、それは少し自信がないな。)


「あの、ちなみにもし、私が何か、卒業後働くとして、王族になりたいって言ったら...その時はどうなりますか。」


考えていたのはキョウと約束した護衛魔法席のことで、今のところ分不相応なのはわかっているけれど、先にはっきりさせておいた方がいいと思ったのだ。


「エマ、王族入りを目指してたの?」


「いえ、まだ具体的にどうとまでは…」


ヒスイが驚いている横でレイは少し考えていたが、


「もしそうなれば、名誉なことだ。当然誰も反対しないだろう。が、家族になる以上、危ない道に進もうとしたら俺は遠慮なく口を出すつもりだから、そこはよろしく頼む。」


と、腕を組んだ。


(護衛魔法席になりたいなんて言ったら絶対反対されるんだろうな…)


いずれにしてもまだ先の話だ。


「レイの心配性がさっそく始まった。エマ、これから覚悟した方がいいよ~。」


「まだ決まったわけじゃない。エマの意志が最優先だ。もし今回の件を見送ったとしても、学園で必要なサポートは必ずすると約束する。だから、嫌なら断ってもいいんだ。返事もすぐにとは…」


「いえ、」


今さら、もとの家族のところに戻れるわけもない。

どのみち学園のためのサポートをしてもらうなら、きっと、提案に乗った方が私が役に立てることも多いんだろう。だったら。


「このお話、お受けします。レイ、ありがとうございます。」


頭を下げて再び上げると、レイが嬉しそうに笑って手を伸ばしていたので、おずおずとその手を取る。

力強い握手だった。


「ありがとう、エマ。これからよろしく頼む。」


そうしていると、隣でヒスイが口を尖らせた。


「いいなぁ、レイ。」


「私も羨ましいです。」と、キョウ。


「いいだろう。」

レイはなぜかしたり顔で2人に挑発的な笑みを向けている。


何にせよ、本当にありがたいことだ。


「そういえば、手続きや書類なんかは…その、私の両親がいなくても問題なく行えるものなんでしょうか?」


「ああ、それなら…」


そう言ってレイがキョウに目をやると、キョウが頷いて続ける。


「ちょうど王城に用がありましたから、必要なものは揃えて来ました。エマの家があるシュダスタ地域管轄の戸籍など必要書類も、当日中に送っていただけましたので、あとはいくつかエマに署名をいただければ。」


(さすがに手際がいい。

本当にあとは私の了承だけが必要だったんだな。)


なんて呑気に感心していると、


「「シュダスタ!?」」


ヒスイとレイが揃って大きな声を出した。


「って、エマの住んでたところ…?」


ヒスイが恐る恐るといった感じで首をこちらへ向ける。


「え? はい。」

(何をそんなに驚いてるんだろう?)


今度はレイの盛大なため息。

ヒスイも黙って眉間を揉んでいるし。


「あの、どうしたんですか?二人とも。」


助けを求めてキョウに問いかけると、キョウはにこにこしながら答えた。


「ここがフェナスコだからですね。」


「フェナスコ…」


本で目にした地図を思い浮かべる。

エントレ地方は、この国と隣国ティグレドの国境に位置する山脈と、その裾野に広がる広大な森、さらにその周辺の村や町を指している細長い土地だったはずだ。

正三角の形をしたこの国の、底辺を海とした時の左辺がそれに当たる。

そして私の住んでいたシュダスタは海にもほど近い、左の頂点に位置する辺りで今いるフェナスコは…


「フェナスコ!?」


思わず大きな声を出してしまい、咳払いをした。


フェナスコは、ちょうど上の頂点に当たる部分だ。

つまり、自分でも知らないうちに国の端から端へと大移動していたことになる。


「どうりで追っ手が来ないわけだ。」


「私はてっきり眩ましの術のお陰なのかと…」


「それも勿論ありますよ。」


色々と言いたいことはあるけど、と前置きしてヒスイが目を細めてキョウの方を向く。


「どうしてそんな離れた場所でエマと出会えたのさ。」


「国境にかけた魔法に異常がないかの確認と、情報収集のための見回りで偶然あの辺りにいたんですよ。いえ、偶然と言っても一応行き当たりばったりではなくて、何か強い魔法使いの気配があの辺りであったからなのですが。」


「なる、ほど...」


きっと望遠の魔女のことだ。

いたずらが成功した子供のようにどこか満足げなキョウと対照的に、ヒスイとレイは低い声で文句を言っている。


「どうりで見回りのあと やたら疲れて帰って来ると思ったんだよ…」


「お前の言う"森"は範囲が広すぎる…」


(キョウの従者って大変なんだろうなぁ…)


しかしそうか、さっきレイも言っていたけれど、だから追っ手がここまで来ていないんだ。

考えて、何かが引っ掛かった。何か忘れていないか。

嫌な違和感があって記憶を探ると、すぐにその正体に思い至った。



…違う。もう来てる。





「じゃあ、あの狼は…?」




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