第43話 『謎の破裂音』
プリシラたち3人は燃え盛る街中を目的の場所に向けて最短距離で駆け抜ける。
住民たちが避難して、すっかり人通りの絶えた街並みで、先頭を行くのはジャスティーナだ。
そして度重なる疾走でエミルが疲れ果てているため、プリシラは彼を背負ったままジャスティーナを追う。
姉の背でエミルは申し訳なさそうに言った。
「姉様。ごめん」
「いいから。舌を噛むから黙っていなさい」
プリシラも疲れがたまりつつあったが、それでも弟を背負って懸命に走り続けた。
鍛え上げられた彼女の体はこんなことではへこたれない。
やがて前方に背の高い建物が見え始めるとジャスティーナが声を上げる。
「あそこだ! あの教会の聖堂だ! そこの角を曲がれば……」
だがそこでジャスティーナは不意に足を止める。
聖堂の中から大きな破裂音が立て続けに二度、三度と聞こえてきたのだ。
プリシラも驚いてその場で立ち止まる。
「あの音は……」
「分からない。ジュードが何者かに襲われているのかもしれない。私が突入する。プリシラはエミルの保護を最優先にしな」
そう言うとジャスティーナは再び走り出そうとして怪訝な表情を見せた。
その理由がプリシラにもすぐに分かった。
前方に見えてきた教会の聖堂の入口近くに1人の人影があったのだ。
それは黒い髪を持つ女性だった。
「あ、あの人……黒髪術者だ」
エミルが背中でそう言うのを聞いたプリシラは彼をその場で下ろした。
「エミル。黒髪術者の力は閉じたままでいなさい」
「う、うん……」
息を飲むエミルの隣でジャスティーナは声を殺して言う。
「あの女は見張りだ。近付いたら中にいる者に知らせるつもりだろう。慎重にいくぞ」
「正面から突っ込んで一気に倒せば……」
「いや。ダメだ。ジュードが誰かに襲われているとして、正面突破だとジュードが人質に取られるかもしれない」
そう言うとジャスティーナはプリシラに言う。
「プリシラ。あんた屋根伝いに聖堂までいけるかい?」
幸いにしてこの辺りは建物が密集しており、屋根から屋根へと伝っていくのはプリシラの身軽さと身体能力を考えれば難しくない。
「もちろん行けるけれど、こっそり近付いても相手は黒髪術者だから勘付かれてしまうんじゃ……」
「そこでエミルの出番だ。エミルが黒髪術者の力で逆にあの女の気を引くんだ。その隙にプリシラがあの女を縛り上げてくれ」
そう言うとジャスティーナは背負っている袋の中から縄を取り出してプリシラに手渡した。
「私はここでエミルを守る。おまえがあの黒髪女を無力化したら、エミルを連れてそちらに向かう」
「分かったわ」
そう言って女たちが頷き合うのを見て、エミルも緊張の面持ちで頷くのだった。
☆☆☆☆☆☆
プリシラは屋根から屋根へと足音も立てずに身軽に移動していく。
相手の黒髪術者に気付かれぬよう、息を切らさず、気持ちも出来る限り平坦に保つようにする。
もし相手が自分の父のように優秀な黒髪術者であれば、こちらの感情の乱れを感じ取られてしまうかもしれないからだ。
ほどなくしてプリシラは聖堂の隣の民家に到達して、その屋根の上で慎重に這いつくばる。
そこから相手をこっそり窺い見ると、黒髪術者の女は何やらキョロキョロと周囲を見回し、落ち着かない様子だった。
(エミルが力を開放して相手を戸惑わせているんだ)
プリシラは黒髪術者の死角を突くように屋根から降りると聖堂の壁に沿ってゆっくりと歩を進めた。
そして黒髪術者の女が背を向けたその時、一気に大地を駆け抜けて彼女に近付く。
足音に気付いたその女はハッと振り向いたが、その瞬間にはプリシラがすでに間合いを詰めていた。
プリシラが拳で鋭く女の腹を突き上げると、女は息を漏らし、白目を剥いたまま地面に倒れ込んであっけなく失神する。
「ふぅ……うまくいった」
プリシラは腕に巻き付けていた縄を解いて手早く女の手足を縛りあげていく。
少し離れた場所でそれを見ていたジャスティーナがエミルを連れてこちらに向かって来るのが見えた。
聖堂の中からは相変わらず謎の破裂音が響いて来ている。
(一体何なの……あの音は?)
そう訝しむプリシラの元にジャスティーナとエミルが駆け寄って来た。
「私が先に行く。万が一、私がやられたらプリシラはエミルと一緒に逃げろ」
有無を言わさずそう言うとジャスティーナはすぐに駆け出し、聖堂の入口に立つ。
そして彼女は腰帯から抜いた短剣を、聖堂の中に向かって鋭く投げつけたのだ。
「悪いね。そいつは私の相棒なんだ。むざむざ殺させるわけにはいかないんだよ」
ジャスティーナがその言葉を誰に向けているのか、プリシラのいる位置からは聖堂の中を見ることは出来ないから分からなかった。
だが次の瞬間、再び破裂音が響き渡ると同時に、鮮血をまき散らしてジャスティーナが仰向けに倒れたのだ。
思わずエミルは短く悲鳴を漏らし、プリシラは叫び声を上げていた。
「ジャ……ジャスティーナ!」




