表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(旧)流星の料理人  作者: 紅樹 樹《アカギ イツキ》
14/35

【二十皿目】休息

一連の事件が終わり家に帰ると、明日馬あすまは私服に着替えてベッドに身を放り投げた。

 暫く顔を布団に埋めていると、そういえば、とあることが脳裏をよぎる。

 部屋の片隅に乱雑に置かれた、木枠を作る為の資材達。


 返品すると言う選択肢もあったが、申し訳なくなって取っておいたのだ。

 あれをなんとか使い道がないだろうかとずっと考えていた。

 夏休みの工作にでも使おうかとも考えたが、それまでには期間が少し長すぎる。

 あれこれと考えあぐねているうちに、深い眠りへと落ちた。



◇◆◇



 日曜日の朝。

 久し振りの休日なので、せっかくの梅雨時期の貴重な晴れの日にも関わらず、一日寝て過ごす気満々だったが、その予定はスマホの電子音で儚くも打ち破られてしまう。

 液晶画面を見ると、七夕たなばたの名前ではないか。

 実は二人で喫茶店に行った時、こっそり連絡先を交換していたのだ。


 明日馬あすまは再び目を閉じ無視しようかとも考えたが、諦めて電話に出ることにした。

「やっほー!起きてるー?」

久し振りに会った七夕たなばたの声は案外元気そうだった。


明日馬あすまは一応、と寝起きの声で答える。

 七夕たなばたは笑いながら、もしかしてまだ寝てた?と言われて、日曜日くらいは寝てていいだろ、と悪態をつく。

「それで、今日はなんのようだ?」

「ちょっとお願いがあって、今から会えないかなって」


 まだ寝ていたい明日馬あすまは、拒否した。

 しかし、「ランチ奢ってあげようと思ったんだけどなぁ…。

 そこまで言うなら…」と言おうとして、慌てて前言撤回する。

 奢る、と言う言葉に弱い明日馬あすまである。

だがそれは小遣いを貰うことなど殆どない、常に金欠の中学生には致し方ない。


 そこを突いて言ってるのなら七夕たなばたもなかなかの策士だと思う。

 明日馬あすまは機敏な動きで着替えを済ますと、必要性最低限の物だけを持って、家を出た。




◇◆◇



 いつもの駅前に12時に集合と告げられて、明日馬あすまは颯爽と電車に乗り込んだ。

 日曜日と言えど乗客は多く、ちらほらと見知った顔もある。

 同じクラスの子達だ。

 日曜日に仲の良い友達と遊びに行く。

 そんな当たり前の日常を、自分も同じように過ごしている。

 なんだか不思議なことのように思えた。


 駅につくと更に混んでいて、人の合間を潜り抜けながら、七夕たなばたを探す。

 すると、やっほー!と元気な声が届いた。

 明日馬あすまは、ドキッとした。

 制服姿ではなく、花柄のワンピースに身を包んでいる。


「って別に付き合ってる訳じゃないんだから、ドキドキする必要ねぇだろ」と首を横に振りながら、言い聞かせる。

 顔が真っ赤に染まっている明日馬あすまを、七夕たなばたは不思議そうに見る。

 居心地が悪くなり、はぐらかそうと足早に例の喫茶店に向かった。



◇◆◇



 喫茶店に入ると、日曜日なこともあってか賑わっていた。

 窓際の二人掛けのテーブル席に腰を下ろすと、明日馬あすまはすぐ様メニュー表を手に取る。

「何にする?

 私、クリームパスタとミルクティー」

 じゃあ、と少し考えてからカツサンドと同じくミルクティーを注文した。

 本当はハンバーグランチにしたかったが、相手がこの前みたいなそれなりに金銭的に余裕のある人ならまだしも、高校生と言うことで、少し遠慮した。



 七夕たなばたはお冷やで喉を潤してから、今日は何故呼び出したかを話始めた。

 それはずっと悩んでいた霊媒師エクソシストを続けるか続けないかと言うことだ。

 彼女の出した答えは辞める、と言うことだった。

 彼女にはやりたいことがあった。

 それは、一から料理を学んで料理人になることである。



 本当は、霊媒師エクソシストではなく料理人になりたかったのだ。

 しかし、料理の腕はからきしで、刀を扱う素質があった為に霊媒師エクソシストになることを進められたのである。

流星りゅうせい君見てて思ったんだぁ。

私よりも年下なのに凄いなって。

あ、料理人って言っても幽霊の、じゃなくて、普通に生きた人間のね!」

 と語る七夕たなばたの目は眩しいくらいキラキラしていた。


 でも、と明日馬あすまはふと思った。

 だったら何故流星りゅうせいではなく、自分に言いに来たのだろう?

 流星りゅうせいと一緒ならまだしも、自分一人だけに。

 問いかけられると、七夕たなばたは突然顔を真っ赤にさせて、

「だっ、だって、私と同じ立場なのは日向ひなた君の方だし、一番分かってくれるかなって…!」

と顔に両手を当てながら、言った。


 慌てふためいてると、頼んでいた料理がやっと運ばれて来た。

 七夕たなばたは誤魔化すように、箸を取ってパスタを食べる。

 へぇ、箸で食べる派なんだ、と思いながらカツサンドを頬張った。

 七夕たなばたが自分に好意を寄せてるなど、全く知るよしもなくー…。


 食事を終えると、明日馬あすまはこの後どうするのかと訪ねた。

 七夕たなばたはミルクティーを飲みながら、特にないと答える。

 少し考えてから、

日向ひなた君は何かある?」

「いや、特にない…」

 と言おうとしたが、ふとあることを思い立つ。

「木枠を作るのに買った素材をずっと考えてたんだ。

 返品するのもなんだったから…」

「だったら」

 と七夕たなばたは商店街を散策することを進める。


 その手があったかと賛同すると、ミルクティーを飲み干した。



◇◆◇



 商店街を改めて見ると色んな店が立ち並んでいることに、明日馬あすまは気づいた。

 これなら何かヒントがありそうだ、と意気揚々と歩を進めた。

 女性好きしそうな可愛い物が溢れた雑貨屋に、服屋、カフェ、花屋、金物屋等々昔ながらの店や最近できた店やらが立ち並んでいて、ただ眺めているだけでも楽しい。


 明日馬あすまはアンテナを張り巡らせて、じっくりと店の商品を見て行った。

「何かいい物あった?」

 と七夕たなばたが聞く。

 しかし、明日馬あすまの目に止まる物はなかなか見つからなかった。

 いかんせん材料がピンポイントすぎて融通が効きにくいのだ。


 とその時、明日馬あすまのスマホが鳴った。

 画面を見ると知らない番号である。

 無視しようかと思ったがなかなか消える気配がない。

 耐えかねてスマホに出ると、声の主はなんと流星りゅうせいだった。

 スマホを買ったことを自慢するだけに電話して来たらしい。

 

 全く持ってどうでもいいと、電話を切ろうとしたその時、アイデアが降って来た。

「これだ!」

 明日馬あすまを嬉々として声を上げる。

そう、明日馬あすまが思い付いたのはスマホラックである。

 そうと決まればと明日馬あすま七夕たなばたは商店街を後にした。



◇◆◇



 一週間後、やっとの思い出明日馬あすまはスマホラックを完成そせた。

 工作など学校の授業でしかやったことなかったので、お世辞には上手いとは言えない。

 それでも、精根込めて作った物には変わらない。

 明日馬あすまは、それを持ち軽い足取りで流星軒りゅうせいけんに向かった。


 店の戸を開けると、流星りゅうせいがテーブル席でスマホを弄っていた。

 ここ一週間会う度に使い方を教えた甲斐あってか、ラインをするくらいにはなっている。

 スマホラックを手渡すと、思いの外喜んでくれたので、ほっとした。

 その時、カラカラと戸が開いた。


 いつもの客である。

 はいはーい、と流星りゅうせいは早速、明日馬あすまの作ったスマホラックを使ってくれた。

 下手くそな鼻歌交じりに台所に行きエプロンを付けてお冷やを用意する明日馬あすまだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ