3-36話 花の集い
そうしてユエリャンに引き留められた祈吏は、促されるまま昇降機に乗っている。
『これから花の集いがあるので、君も来るように』
花の集いとは何なのか――訊ねようかと思ったが、ピンの言っていた『卯月様のお気に入りは「花」と呼ばれる』と言われていることを思い出し、なんとなく察しがついた。
(ご贔屓を集めたパーティー、ってことなのかな。悪い気はしない……でも、良い気もしないかも)
祈吏の傍らにはモモチがくっついている。初めて会ったあの時、モモチはユエリャンから逃げようとしていたように見えたが、今は静かに同じ昇降機に揺られている。この状況に微かな違和感を覚えた。
(モモチさん、あの時はユエリャンさんから逃げようとしたように見えたけど……思い違いだったのかな)
上昇する感覚が止み、チンと甲高い金属音が鳴ると扉が開く。
目前に広がったのは小川が流れる、広大な室内庭園だった。
「ひ、広すぎる……それに、これって……」
天井はコンサートホールのように高く、春の朝のように柔らかな光で満ちている。薄ぼんやりと光る桃の木は鉢植えでいたるところに置かれている。そんな木々の間を縫うように小川が流れ、辺りでは常人が楽しげに寛いでいた。
「室内に、川……!?」
「驚いた? 花の集いがある時は、こうしてここに小川を造り、遊びに興じるのさ」
桃の木から蕾をひとつ摘み取り、川に流す。するとその蕾が川を流れていく。
その向こうでは何人かの常人たちが弓矢を構え、なにやらくす玉のような球体を射ろうとしている。
各々が遊びに興じる優美な風景は、祈吏の眼には平安貴族の集いのように見えた。
「お待ちしていました。どうぞこちらへ」
出迎えてくれた常人に案内され、その先へと祈吏は進む。
庭園の奥にはひと際華やかな空間があり、その中心で卯月は待ち構えていた。あの桃の木の玉座に腰をかけ、周りには卯月を慕う女性たちがお喋りに花を咲かせている。
卯月がふと祈吏に気付くと、ぱあっと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「祈吏さま!お待ちしておりました」
祈吏は卯月のもとへ近寄る。周囲の女性たちも祈吏を温かく迎え入れた。
「本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」
「来てくださって嬉しいわ。さあ、どうぞこちらでくつろいで」
卯月が近くへ寄るように、と手招きし、祈吏はすぐそばのクッションに座ろうと近寄る。
ふと、モモチが複雑そうな顔で卯月を見つめているのに気が付いた。
(あれ……モモチさん、どうしたんだろう)
その面持ちはどこか複雑そうなのに郷愁に浸るような、憂いを帯びたものだった。
「ん、んー」
「えっ、どうしたんですか……」
モモチは祈吏の懐を指指す。何かとその位置を見ると、そこは先ほどピンからもらった人形が収めたところだった。
(あの人形を出して、ってことかな?)
そう思い、懐に手を入れ、取り出したその瞬間――卯月の穏やかな表情が凍りついた。