第7話 ~――ノイシュ……私の手を、とって~
「――死ねっ、ノイシュッ」
無慈悲な声が耳朶を打ち、ノイシュは視線を向けた。
ぼやけた視界の中で、暗紅の悪魔の掌で猛る炎の塊に気づく。
それがさらに膨張していく――
「――やめてッえぇえエぇっ……」
不意に別の方向から少女の悲鳴が響き渡った――
――あの声はっ……
ノイシュが素早く振り向いた。
急いで涙を拭い、視線を凝らす。
そこに義妹の姿をとらえた――
「――お願いッ、お義兄様を殺さないで……ッ」
ウォレンに抱きしめられながらも、義妹がこちらにまなざしを向けている――
『――お義兄様……』
すぐ傍らで別の少女のつぶやく声に気づく。
ノイシュがすぐさま視線を戻すと、そこには優しく翠眼を細めるミネアの姿――
『――ノイシュ……私の手を、とって』
義妹のささやく様な声音が耳に届き、ノイシュは静かに彼女を見やった。
そこでは義妹が右手を伸ばしているのに気づく――
『はやくっ、ノイシュ――』
――ミネア……ッ
ノイシュはその左腕を伸ばし、義妹の右手の甲にそっと触れた。
同時に自分の右頬から肌を焦がす様な熱気を感じる。
揺れる炎の片鱗が視界の傍らに映った――
――このまま僕は業火に包まれるのなら……せめて最期は、義妹を感じていたい……ッ――
『――ノイシュ……ッ』
次の瞬間、義妹の右手が動き出した。
そしてこちらの右手首をつかむ――
――ミネア……ッ
思わずノイシュは息を呑んだ。
直後に義妹がこちらの右腕を素早く引き寄せてくる。
そこには片手剣が握られていた。
――ミネア、何を……っ
ノイシュは眼を見開いた。
抵抗する暇もなく、義妹の右腕から力が込められる。
勢いのついた鋭い剣先が、彼女の左胸に吸いこまれていく――
「――があぁぁッ……ッ」
『――くっ……』
「――ミッ、ミネアッ……ッ」
たまらずにノイシュは叫んだ。
その刀身が深く義妹の左胸に突き刺さっている。
やがて傷口から鮮血があふれ出てきた。
義妹の戦士服を、さらに紅く染めていく――
――そっ、そんな……嘘だ……っ――
とっさにノイシュは左手で義妹の胸をおさえた。
指先で血の嫌な感触を受ける。激しい鉄の臭いが鼻腔を刺激した――
――嘘だっ、ミネアッ……イヤだ……ッ
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹かつエルンの義姉。魂吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』




