第8話 ~ノイシュ、愛し……ありがとう――~
――嘘だっ、ミネアッ……イヤだ……ッ
ノイシュは左手の指先に力を込めた。
そしてどうにか義妹の傷口を塞ごうと、その胸元に押し当てる――
「――アアァッ、血が……ッ、私の胸から血がァッ……ッ――」
そう叫ぶ暗紅の少女の声を聞きながら、ノイシュはかぶりを振った。
「――くそっ、この女っ、回復をさせろ……っ」
義妹だった悪魔の声とともに、自らの左頬で感じていた灼熱が消えていく。
でも、もうそんな事はどうでもいい――
――早く止めなきゃっ、この鮮血を止めなきゃッ、僕の義妹が……ッ
ノイシュは剣を離すと、その右手でもミネアの胸に触れようとする。
が、彼女は一向にこちらの右手を離そうとしない――
『――ノイシュ、受け取って……っ』
不意に義妹が苦しげにつぶやいた。
とっさにノイシュは顔を上げる。
視界の先で義妹がその翠眼を閉じていく。
次の瞬間、彼女の右手が光芒の様な輝きを湧き上がらせた。
次第にその青い光が、こちらの右手に伝わってくる――
『ノイシュ、愛し……ありがとう――』
――ミネア……ッ
ノイシュは次第に自らの視界が滲んでいくのが分かった――
――ミネアッ、僕だって君のこと……ッ
「――ああアアアッああアアあッッ」
突如として暗紅の少女が絶叫した次の瞬間、自分の左手が義妹の胸元から弾かれた。
ぼやけた視界の先で、彼女の姿が突如として消えていく――
「――あイヤアあッうアあァッ」
空中で彼女の悲鳴が耳に届き、ノイシュはようやく義妹が舞空しているのに気づいた――
――ミッ、ミネ……ッ――
とっさにノイシュは涙を拭い、宙を仰いだ。
そして義妹を視線で追いかけようとするが、どこを見渡しても彼女は見当たらない。
すでに赤黒い晩景の空へと、溶け込んでしまっていた――
――ミネア……ッ
ノイシュは深くうつむいた。
視界の隅では自らの右手が、静かに輝き続けていて――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹かつエルンの義姉。魂吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』




