第10話 ~衝撃剣【烈飆】っ、うわああアァァぁぁッ~
「――その結界は、彼らの侵入をも防げるかな……っ」
頭上から冷たい声が降り注がれ、ノイシュは奥歯を噛み締めた。
おそらくウォレンの斥力防壁は骸戦士達の斬撃を防げないだろう。
もし彼が斃れたら、当然に斥力防壁は消滅してしまう。
そうなれば間違いなく、こちらは全滅だった――
不意に続々と低い声が耳朶を打ち、ノイシュは周囲を見渡した。
死霊兵達が抑揚のない口調で各々の術句を唱えている。
彼らの赤黒い眼光は一途に殺意を宿しており、思わず背筋に寒気がはしる――
――この世におわす神々よ、全ての魂に安らぎを与えますように……味方にも、敵戦士にもっ……――
「――来いっ、僕が相手だ……ッ」
そう告げてノイシュは土を躙った。
そのまま前方へ進み出ると、すぐに術句を唱え始める。
前方に視線を向けると、骸戦士達がその身体から様々な色彩の煌きが発現させていた――
――間違いない、増強術だ……っ
ノイシュは眼を細めながら詠唱を続けた。
自らの身体が輝いていくのを感じながら、大剣を下段に据える。
敵戦士の数は二十人を優に越えており、こちらを完全に取り囲んでいた。
たとえ衝撃剣を放ったとしても、とても倒し切れないっ……でも――
――でもっ、それでも僕はやらなきゃいけないんだ……ッ
「ノイシュ、任せろ」
突如としてすぐ傍らから自分の名前を呼ばれ、急いで顔を向けた。
いつの間にいたのか、そこには鋭い眼光をたええるマクミルがいた。
さらにその両脇にはノヴァとビューレの姿を視認する――
「後方の死霊兵達は俺がやる……っ」
「ノイシュさん、このノヴァも加勢します」
「どうか、みんなに神の加護を――」
――マクミル隊長、ノヴァ、ビューレ……ッ
刹那の後、マクミルの身体が光芒の様な輝きを発していく。
彼もまた増強術を発現させたと分かった――
――お願いします、隊長……っ
ノイシュはうなずくとともに術句を結んだ。
途端に自らが引き出した霊力が輝きとなって現れる。
そのまま集中を保ち、地に着けた剣先へと煌きを伝えていく――
「「アギィギャヤイェァッ」」
「「ヒイェイヒオヒヒェ」」
不気味な声が耳に届き、ノイシュは前方を見やった。
視界の先では次々と死霊兵達がこちらへと殺到し、その異常な脚力で距離を縮めてくる。
頬を鋭く吊り上げており、殺戮に嬉々としていた――
「――発現せよ……っ」
刹那の後に彼らの剣先が必殺の間合いへと入るのを視認し、ノイシュは全力で巨剣を大きく振り上げた――
「衝撃剣【烈飆】っ、うわああアァァぁぁッ」
刀身が地表に衝突した直後、剣先から土壌が激しく噴き上がっていくのをノイシュは視認した。
同時に重低音が足許を激しく震わせ、思わず片膝を着く。
次々と噴出する礫土が渦を巻き、そのまま数多の死霊兵を呑み込んでいく。
舞い上がった膨大な土砂が衝撃波を茶色く染め上げ、もはや粉砕されていく骸戦士達の姿さえ視認できなかった――
「――はああアアァぁァッ」
突如として耳をつんざく轟音に裂帛の大声が差し込まれ、ノイシュは急ぎ顔を向けた。
視界の先ではマクミルが土を躙って跳躍している。
彼と対峙するのは十名以上の迫りくる死霊兵達だった――
――マクミル隊長、そんな……ッ
次の瞬間、マクミルが最も近い死霊兵へと近接し、一気に槌矛を振り下ろした。
彼が握った武具が死霊兵の前頭部に叩きつけられ、その脳漿が宙に溢れ出す。
すぐさま隊長が左足を一歩間に踏み込み、もう片方の手で握られた剣が鋭く一閃した。
それら一連の動作が霞んで見える程の高速の突きが繰り出される。
その剣先が別の死霊兵の首許をとらえ、瞬く間に貫通させていく。
やや遅れて鮮血が周囲に飛び散った――
――はっ、速い……ッ
無意識にノイシュは両眼を見開いた。
その動きに意識をとられ、自分の身体であるにも関わらず自由に動けない。
眼前の光景を見すえるだけで精一杯だった――
「――うおおオォォおォァッ」
大喝とともにマクミルが大きく股を開いた。
その身体をさらに捻転させ、薙ぎ払われた槌矛が新たな死霊兵の顔面を叩き潰した。
今度は跳躍しながら次の骸戦士に迫っていく。
まさに獅子奮迅の働きだった――
「――ノイシュ、上を見てっ」
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹かつエルンの義姉。魂吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』




