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冒険者ギルドの調査団



 ラザールさんは、ベイルさん達のパーティがダンジョンのシステムに慣れるまでは一緒に行動していたけれど、途中から別行動になった。

 元々長期間、他のパーティと行動するのが苦手な上、ダンジョンに招待する次のパーティを物色していたからだ。

 冒険者ギルドにダンジョン発見の報告もしたから、近々冒険者ギルドの調査団の案内もする予定だそうだ。

 当初の予定では、ベイルさん達がダンジョンを出るまでダンジョン発見の報告を遅らせる予定だったけれど、ダンジョンの攻略に結構時間が掛かっているので、先に報告をすることになった。

 冒険者ギルドに報告してからでないと、秘密裏に複数のパーティをダンジョンに案内した場合、一度に多数の高ランク冒険者の所在が分からなくなってしまう。

 そうなると、何かトラブルでも起こったのではないかと余計な騒ぎになる可能性もあったから、先にギルドに報告することになった。

 新しいダンジョンとして認められれば、冒険者ギルド側でダンジョンの情報を公開することになる。

 ダンジョンの調査後に、ギルド側で独自にダンジョンのランクを定めて、ダンジョンに入るための冒険者ランクの設定もしてくれる。

 私のダンジョンの場合、ダンジョン内には危険がないけれど、外がかなり危険だ。

 不帰の森を抜けられる冒険者パーティでないと、ダンジョンに関する依頼は受けられないだろう。




 事前に打ち合わせもしたので、冒険者ギルド側にラザールさんがどういった情報を出したのかは知っていた。

 森を抜けることができれば、ダンジョン内では低ランクの冒険者でも問題ないと報告したせいか、冒険者ギルドから派遣されてきた調査団には、低ランクの冒険者も交じっていた。

 ラザールさんが、戦闘能力よりも人間性を重視してメンバーを選抜するようにと忠告していたらしい。

 安易に暴力行為に及ぶ高ランクの冒険者を派遣されるよりは、低ランクでもまともな人格の持ち主の方がいいから、ラザールさんの忠告はとてもありがたい。

 懲罰エリアを作ったけれど、そんなもの、本当は使用されない方がいい。

 ギルドマスターが自ら率いてきた調査団は、案内役のラザールさんを含めて30人の大所帯で、AからDランクの冒険者が入り混じっていた。

 さすがにEやFランクの冒険者だと、森で死ぬ可能性があるので連れてこられなかったようだ。

 ダンジョンに入ってきた人たちは、ダンジョン内の様子を見て、ベイルさん達と同じようにとても驚いていた。

 事前に説明を聞いていたギルドマスターでさえも、ダンジョンに入ったところにある宿に度肝を抜かれたようだ。

 シルヴァ王国の王都のギルドマスターはエルフで、元はSランクの冒険者だったけれど、冒険者活動に飽きてギルドの職員になったという経歴の持ち主だそうだ。

 だから冒険者としても超一流で、様々なダンジョンを見知っている。



『ラザール。何というか、予想以上にダンジョンらしくない場所だな。まずは、休憩もかねて食事をするか。ポイントカードというのを作った方がいいのだろう?』



 一番最初に気を取り戻したのもギルドマスターだった。

 さすがに年の功というべきかな?

 宿の食堂は空間拡張して席を増やしてあるから、30人くらいのお客様なら問題なく受け入れられるけど、調理に時間が掛かってしまうかもしれない。

 ギルドの調査団の人数は事前にラザールさんから知らされていたので、しっかりと対応できるように、入り口の宿には普段よりも従業員を増やしてあるけれど。

 ちなみに、食堂はファミレスを意識して席を作ってみた。

 椅子よりもソファの方が寛げるし、ファミレスの座席って、結構効率よく配置してあるから、参考にするのにちょうどよかった。

 ドリンクバーを作ることも考えたけれど、そういったシステムはこちらの世界にはないようで、外と違うシステムをあまりにもたくさん取り入れると、混乱の元だからと言われて断念した。

 ベイルさん達の反応を見た感じだと、断念して正解だったと思う。

 ポイントカードの説明だけでも、結構混乱してたみたいだから。

 一度にあれこれ言われても、理解しきれないだろうし、少しずつ浸透させるのも大事だ。



『いらっしゃいませ』



 入り口の宿担当のリタと、今日は応援に入っているキートが冒険者ギルドの調査団を出迎える。

 二人とも教育が行き届いている自慢の従業員だ。

 特にキートはとても頑張り屋で、どの仕事を割り当てられてもこなせるようにと、自らあちこちの応援に入っている。

 ラザールさんもセオも可愛がって鍛えているようだし、どんな大人になるのかと、今からとても楽しみだ。



『キート。適当に座るから、水とおしぼりを頼む』



 キートたちの仕事が減るように、ラザールさんが仕切ってくれる。

 ラザールさんに指示されて、戸惑っていた冒険者達もパーティごとに席に着き始めた。

 各テーブルにメニューは用意してあるので、注文はそれを見て決めてもらえばいい。

 カラーイラストをつけて、初めての料理だとしてもわかりやすいようにメニューを作ったつもりなんだけど、ベイルさん達が最初に利用した時はかなり戸惑っていた。

 材料や説明が書いてあっても、どんな料理なのか想像し辛いらしい。

 特にお米は、主食として流通していないから、丼物は得体のしれない料理のようだ。

 恐る恐るメニューを開いた冒険者達は、どれを選んだらいいのかわからないような様子だった。

 


『ラザール、お勧めはどれだ?』



 メニューを見た後、考えることを放棄したのか、ギルドマスターがラザールさんに問いかける。

 かなり長生きしているエルフのギルドマスターでさえも、見たことのない料理ばかりだったようだ。



『どれも美味いから、何を選んでもハズレはない。この丼物は、このダンジョン内ではよく食べられているコメという穀物を使った料理で、腹持ちがいい。コメは酒の材料にもなるそうだ』



 ラザールさんの説明で、丼物に興味を持った人は多いようだ。

 今日は人数が多いから調理が楽なものを勧めてくれたのだろう。

 ラザールさんは本当にいつも気が利いて優しい。



「ラザールさんは、本当に優しい人ね」



 すぐ近くで、一緒にモニターを見ているセオに話しかける。

 セオの古い友人だけあって、ラザールさんは本当にいい人だ。

 セオに呼ばれてからずっとダンジョンの手伝いをしてくれているのに、『俺にダンジョンの保護は必要ないから』といって、私がより多くのダンジョンポイントを得やすくなる侵入者のままでいてくれる。

 美味しい料理とお酒で十分報酬になっているとラザールさんは言うけれど、全然足りてないと思う。

 今もこうして、一番話の通じるギルドマスターに情報を渡して、ダンジョンまで案内してくれた。

 それ以外にも子供達に武器の扱い方や魔法の使い方を教えたり、危険な外で狩りをしたりしてくれる。

 やっぱり、何らかの報酬を考えた方がいいかもしれない。

 


「面倒見のいい奴ではありますが、誰にでも優しいわけではありませんよ。ここで出される料理やお酒が、余程口にあったのでしょう。好きで働いているのだから、こき使ってやればいいのです」



 いつも通りラザールさんに辛辣なセオだけど、口元がちょっと笑ってる。

 もしかして、友達だから一緒に居られて嬉しいのかな?

 モニターの向こうでは、ギルドマスターに『ここでの食事は奢りだ』と言われて、冒険者の間から大歓声が上がっていた。

 危険な森を抜けてきたから、そのご褒美でもあるのかな?

 何にしても、あれだけたくさんの冒険者達の食事代を持つなんて、太っ腹なギルドマスターだ。

 ラザールさんの話では数百年生きているエルフらしいけど、見た目はどう多く見積もっても30歳くらいで、顔立ちも整っていた。

 金髪に新緑のような綺麗な緑色の目をしていて、日本にいた頃の創作物に出てきたエルフのように耳がとがっている。



「ギルドの調査団はラジィに任せておけば大丈夫でしょう。多分、今日中に一つ目の迷路を抜けるのは無理だと思いますので、入り口の宿の応援部隊は、あの集団が次の迷路に行くまで入り口で待機するようにと伝えてあります。一度に多数の客を迎え入れるいい練習になるでしょうから、出来るだけたくさんの子に経験を積ませる予定です」



 セオは色々と考えて、子供たちを配置してくれているようだ。

 いつものことながら、私が口を出す必要はないほどにきちんと管理している。

 私は大まかな方針を決めたり、やりたいことを口にするだけで、あとはセオや他の精霊達が頑張って形にしてくれる。

 お酒の開発が済んだところで、ギルベルトが味噌や醤油も作ってくれたので、ダンジョン内で和食を作りやすくなった。

 鰹節や昆布などはダンジョンポイントで交換するしかないのだけど、日々増えるポイントと比べたら些細な消費だ。

 エイミーたち、料理の得意な精霊が調味料の開発や改良もしているので、街エリアにお好み焼き屋さんを作るのもいいのかもしれない。

 それか、屋台エリアもあるといいのかな?

 4層の海エリアに、お祭りっぽい雰囲気の場所を作れば、屋台がたくさん並んでいても雰囲気があっていいだろうか。

 南国フルーツ狩りができる施設にはバナナもあるから、チョコバナナとか作ったら、チョコレートが好きな精霊達は喜びそうだ。

 他にもタコ焼きとか串焼きとか、綿あめもできるかなぁ?

 ザラメが綿あめになるのは知っているけれど、あれはどうやって作っているんだろう?

 リンゴ飴なら何となく作り方もわかるんだけどなぁ。


 小さい頃、お祭りに行ってみたかったけど母に禁止されていていけなくて、大学生になってから初めて友達と花火大会に出かけられた。

 みんなで浴衣を着て、屋台を見て回って、花火を見ながら屋台で買ったものを分け合って食べた。

 お好み焼きとか、お店で食べた方が絶対に美味しいはずなのに、それでも凄く特別に感じた。

 わくわくして楽しかったあの夜を、再現できたらいいのに。

 せっかく精霊達が花火を開発してくれたのだから、お祭りの開催も考えてみようかな?

 こちらで一番大きなお祭りは、年始の新しい年を祝う祭りだと聞いているけれど、違う時期にお祭りをするのもいいかもしれない。

 それとも、海エリアでなら、いつでもお祭り気分を味わえるようにした方がいいのかな?

 その辺りは、みんなで相談してみよう。

 屋台自体は大きな街などに行けばあるみたいだから、こちらの屋台がどんな感じなのかも見てみたい。



「セオ。私、屋台が見てみたい」



 唐突な私の言葉にセオは目を瞬かせて、その後にっこりと笑んだ。



「カヤ様のためならば、すぐに用意いたしましょう。まずは、屋台を使った何を思いつかれたのか、教えてください」



 私の話を聞いて、私の希望に一番沿った屋台を探してくれるつもりなのだろう。

 優しくセオに問われて、思いつくままにお祭りの構想などを話していった。

 タブレットで日本のお祭りの様子などを見せることもできたので、説明は容易くて、セオとの相談の結果、一月に一度、海エリアでお祭りを開催することになるのだった。

 



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