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迷路の罠




『なんだこれ、うめぇ!』



 モニターに映るラザールさん達一行は、一つ目の迷路の休憩スペースで自動販売機の罠に嵌っている。

 宝箱から出たコインで購入できる品があることに気づいて、早速購入しているけれど、昨日は3度もやり直しているから、コイン自体は二つ持っていたはずだ。

 罠だと知っているのに、しれっとしているラザールさんが酷い。

 自分も引っかかった罠に引っかかっているのを見て、ほくそ笑んでいる。



『ベイル。コインを一つは残しておいた方がいい。わざわざ宝箱に入れてあるんだから、何かのキーアイテムって可能性もある』



 二つ目のコインを使いかけたベイルさんを、貴族のクライヴさんが止める。

 さすがにダンジョン慣れしているだけあって、冷静なようだ。



『それもそうだな。迷路は6つあるって話だし、この先にも似たような場所があるかもしれないよな』



 罠に嵌っているようで、冷静さも持ち合わせている。

 二日目の今日は一度も罠にも引っかかってないし、さすがはAランクの冒険者というべきだろうか。



『今のところ、昨日と道は変わっていないようだったから、罠の場所も最初からわかっていた。でもここから先は未体験ゾーンだ、少し進度が遅くなる』



 斥候役の細身の男性の表情が少し硬い。

 誰も責めたりはしてなかったけれど、斥候役なのに罠に何度もかかったことに責任を感じているのかもしれない。

 罠に掛かると、最初からやり直しになってしまうし。



『ダグラス、そんなに気負うことはないよ。ここの罠は殺気がないから、俺でも引っかかるくらいだ』


『そうそう。罠に掛かっても戻されるだけなんだから、気楽にいきましょ』


『戻されたら宝箱もリセットされてるから、とってもお得感があるもの。あえて引っかかろうとは思わないけど、引っかかったとしても気にならないわ』



 ラザールさんのフォローに次いで、魔法使いらしい赤毛の女性と少し童顔で巨乳な女の人が斥候役の人を励ましている。

 仲のいいパーティなんだなぁと、見ているだけで伝わってきて、仲間達との冒険を楽しんでいる様子がちょっと羨ましい。

 迷路の入るたびに宝箱をリセットする代わりに、この迷路の宝箱にはあまりいい物がはいっていない。

 だけど彼らは、自動販売機で使えるコインが手に入るだけでも嬉しいようだ。

 


『出発前に、この水筒買わないか? ここに商品説明が書いてあるけど、見た目よりたくさん入って中身が劣化しない魔法鞄みたいな水筒らしい』



 リーダーに声を掛けられて、みんなが自動販売機の前に集まってくる。

 自動販売機の使い方と、商品の説明の一覧を用意したけれど、冒険者の中には文字が読めない人もいるらしいので、自動販売機は入り口の宿にも設置してあった。

 宿で使い方を覚えれば、迷路の中の自動販売機を見て、使い方がわからずに戸惑うことはなくなるだろう。

 宿と迷路の自動販売機では、販売している物が違うけれど、使い方に変わりはない。

 ちなみに宿の自動販売機では、数種類の飲み物やお菓子、それからタオルに歯ブラシ、ミニボトルのシャンプーやソープなどを扱っている。

 基本的に、宿で快適に過ごすためのアイテムを扱うことにした。

 本当はシャンプーなんかは部屋の浴室に備え付けにしたかったけど、確実に持ち帰られると言われたので別売りにしたのだった。

 持ち帰られるのを前提で、ミニボトルを用意することも考えたのだけど、そうするとミニボトルの製造が追いつかない。

 ダニーロが弟子を何人も連れてきているし、セオが購入してきた奴隷にはドワーフもいたから、そうした人たちもダニーロのところで働いているけれど、みんなとても忙しいのだ。

 お酒の瓶づくりにも手を出しているから、そっちを最優先しているとも言うけれど。

 みんなホントにお酒が好きすぎて、困ってしまう。



『この水筒、宿にはなかったわね。もしかしたら、迷路限定ということもあるんじゃない?』



 リーダーの奥さんが鋭い指摘をする。

 まさにその通りで、容量の多い水筒は迷路の自動販売機限定商品だ。

 街エリアでさえも取り扱っていないので、欲しいならば迷路に入る必要がある。

 限定とか、特別っぽいのは大事だよね。

 手に入れなければって気持ちにさせられるから。



『アニスの言う通りかもな。中身が選べるみたいだし、俺は二種類買ってみる』



 水筒一つで大銀貨2枚もするのに、リーダーの人は二つも買うようだ。

 やっぱりAランクって、一般冒険者とは金銭感覚が違うんだなぁ。



『私も二つ買うから、ベイルとは違うものにするわね。そしたら4種類楽しめるもの』



 夫婦で仲良く4種類の飲み物を分け合うことにしたらしい。

 奥さんが可愛くて仕方がないといった様子を隠しもせず、リーダーのベイルさんが果実水とお茶の水筒を選ぶ。

 


『よかったね、ベイル。それ、当たりだよ』


『これが当たりなのか!? 通常の水筒の10倍って書いてあったよな? すげぇ、得した気分だ』



 取り出し口から出した水筒を見て、ラザールさんが当たりであることに気づいたようだ。

 当たりが一目でわかるように、他とは蓋の色を変えてあった。

 中身が20リットルも入るとなると、中に入れる飲み物を用意するのが大変だったけど、そこはちょっとずるをして、使っても使ってもなくならない、マスタールームの冷蔵庫に入っている飲み物を入れたのだった。

 オレンジジュースにアップルジュース、それからお茶に果実水があったので、有効活用させてもらった。

 実は6つ目の迷路には、お酒の入った水筒も置いてある。

 これに関しては当たりはあえて置かず、代わりに中身がランダムだ。

 入れるお酒はダンジョン内で作った物だから、何が入っていても不満は出ないと思う。

 何といっても精霊を夢中にさせるお酒なのだから。


 にこにことご機嫌なベイルさんと、それを微笑まし気に見ているアニスさんが可愛い。

 本当に嬉しそうにしているから、当たりを作っておいてよかったと思ってしまう。

 当たりが出るまで買い占められても困るので、商品の数を制限して、次の補充は別パーティが迷路に入ってきたときに自動的にされるようになっている。

 最初は売り切れにならないように、常に補充されるような作りになっていたけれど、ラザールさんが買い占められる危険性を指摘してくれたので、セオ達に自動販売機の改良をしてもらった。

 入り口の宿の自動販売機は、最初から一種類につき一人一つまでと購入制限を掛けている。

 不満が出るかもしれないけれど、入り口では比較的割高で、奥の階層で購入した方が安く手に入るということを説明して納得してもらうつもりだ。

 

 理性的な人が多いのか、その後、当たりが出なかったにもかかわらず、水筒を買い占めようとする人はいなかった。

 大銀貨二枚という値段のせいもあるかもしれないけれど。

 最初の銀貨一枚という設定のままだったら、買い占められていたかもしれない。


 その後、慎重に迷路を探索して、ベイルさん達のパーティは一つ目の迷路をクリア……しかかった。

 けれど、最初にラザールさんが引っかかったように、出口の直前の罠に掛かって、入り口に戻されてしまったのだった。

 もう出口だとわかっていて、迷路の外が見えていたのに罠に掛かったことがショックだったのか、斥候役の人が膝をついてがっくりと項垂れていた。

 でも、もうすぐクリア!ってところに罠を設置するのはお約束だよね?

 ホラー映画とかでも、散々怖い思いをして敵を倒して、『やっと助かった……』ってなった瞬間に襲われるのはよくあることだもの。

 きょ、凶悪じゃないよね、私?




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