マイノアルテ・チャルチ家【耐久力がある者】2
「ふふ、なんだ? 二人とも連れないじゃないか」
くっくと笑う少女に警戒感を抱くヌェルティス。場の空気が極限まで高まる。
「我が名は「レウねーちゃんまだー?」レウ「もー。レウちゃんは勿体ぶって長いんだからー」であ、茉莉、まだ話してる最中だっ」
「んん? なんだ今のは?」
殺気を迸らせようとしたヌェルティスは、少女の口から漏れた子供っぽい言葉と凛とした冷たい声の違いに目をしばたたかせる。
龍華はそれを聞いてむぅっと唸る。
「はて、遠い昔に何やら今のやりとりを聞いた記憶が……」
「お前の記憶力はどれだけ怪しいのだ聖……お婆さんか?」
「流石に百年程経ってるからな。あやふやな記憶が多い。人物など側近の者なら問題ないが数十年前にちょっと会った程度だと記憶にすら残ってない。こやつのやり取りは微かにだが覚えがある。親しい間柄ではないが知り合いの知り合い程度には面識があった気がする」
龍華の的を得ない言葉にヌェルティスは小首を傾げる。
しかし、面識があったかもしれないというのなら確かにレウが言うとおり知り合いだったのかもしれない。
「ああ、そうか。別に儂の時代という訳ではなく未来で会ったのやもしれんな」
「ん? いや、私とお前の面識は別個体だが確かにあるぞ。天魔戦争を経験した後なら確実にな」
「むぅ? いや、しかし、主のような存在を見掛けた記憶は……」
「それは「もー、茉莉つまんないっ。あのね、レウちゃんは寄生生物なんだよ!」茉莉っ、それは勿体ぶった後に上から目線で伝えるヒントだ愚か者っ」
寄生生物。その言葉で二人は同時に気付いた。
確かに居た。ヌェルティスの知り合いに、その名を冠するに相応しい人物が一人、いや、一人と数えていいのか分からないが存在した。違う。存在していたというべきだろう。
「いや、待て。そんなバカな!? お前は、まさか……」
「はぁ仕方ない。茉莉が煩いから自己紹介をしておこうか「もー、茉莉煩くないよー、良い子ちゃんだよっ。とってもお口チャックしてたんだからね!」茉莉は黙ってろ」
ため息交じりにレウは茉莉を窘め、ヌェルティスへと視線を向ける。
「この姿では初めましてだなヌェルティス・フォン・フォルクスワーエン。インセクトワールド社首領、レウコクロリディウム個体ナンバー10号。魔法少女のマスコットキャラ【レウちゃん】だ」
「……は?」
一瞬、ありえない名前に驚こうとしたヌェルティスだったが、最後の台詞に驚きに呆れが混じった。
「魔法少女のマスコットキャラ? いや、それ以前に、貴様は天魔戦争で謎の死を遂げた筈。全個体が死んだから本体が死んだと断定された筈だが? 赤城の奴もお前は死んだと……」
「ああ。その通り、本体はもうこの世にはおらんよ。我はその時異世界マロムニアの伝説の島におったからな」
「ぶふぅっ!?」
伝説の島。その言葉に軽くトラウマを刺激されたヌェルティスが噴き出した瞬間だった。
ざわついていた店内が一瞬で静まり返る。
突然の異変に会話は中断した。
酒場の入り口に、物凄い人物が居る。
ムキりとした筋肉質な身体。衣類をはち切らんばかりの大胸筋。黒い戦闘服にサングラス。手にはロケットランチャー。
「ロケット……ランチャーっ!?」
「っ、レウ!」
「プリズムリフレクションッ!」
シャルロッテの言葉に茉莉が反応した瞬間だった。
未来から来た暗殺ロボのような男は狙いあまたずヌェルティス達向けてロケットランチャーを発射する。
一瞬早く張られたレウの魔法により砲弾こそ跳ね返せたものの、爆風までは受け切れなかった。
全員が自分の魔女を庇う。
跳ね返った砲弾が床に激突し爆散した。
「くぅっ!? やられたっ! シャロン無事か!?」
「問題ありませんヌェル。あなたこそ怪我は?」
咄嗟にヌェルティスが庇った御蔭でシャロンは怪我を負うことはなかった。
しかし流石にヌェルまで無傷という訳にはいかなかったらしい。
飛び散った木片が背中に刺さり、マントが引き裂かれている。
お気に入りのマントだっただけに少し切ないが、予備は沢山買ってアイテムボックスの肥やしにしてあるので後で着替えようと思うヌェルティスだった。
「あなた怪我を!」
「仔細ない。この程度であれば直ぐに治る。流石に……聖程の回復力はないがな」
ヌェルティスが視線を向けた先、龍華は主人のラナエの身を守り、飛んできた椅子の足が身体に突き刺さっていたが、それを引き抜き、回復時間も惜しいとばかりに敵へと駆け寄る。
大鎌で一撃。これを拳で受け止める男に驚嘆を隠せない。
「突然の御挨拶だな。何者だ!」
「チャルチ家[耐久力がある者]。我が主メルフィーナの命により外敵を排除する」
渋い男の声にやっぱりあれはターミ○ーターではないのかと錯覚するヌェルティス。
身体の回復がてら周囲の被害を確認する。
そんなヌェルティスの元へ、初老の紳士が近づいて来た。
その手にはぐったりとした少女が一人。
「すみませんが、我がエルフリーデお嬢様をお願いできませんか?」
「う、うむ?」
「ヌェルティスッ! そいつはベルダンディ家の者です!」
「今は魔女戦争とやらは休戦だろう。話の分かりそうな老紳士が従者なら休戦も可能だろう。今は無理に敵を作る必要もない。安心せよご老人、このヌェルティス、全力を持ってこの娘を守ろう」
「恩に切る。さて……お嬢さん、手伝いましょう」
ヌェルティスにふかぶかお辞儀をした老紳士は、ステッキを引き抜き[耐久力がある者]へと向き直った。龍華と共同戦線、[風変わりな者]の闘いが始まろうとしていた。




