マイノアルテ・チャルチ家【耐久力がある者】1
「んで? 休戦すんのはいいけどよ? こっからどうするよ?」
「他の魔女を探すか?」
「あ、居た。龍華さんっ、一人で先に行かないでくださいよーっ」
金髪セミロングの少女が駆けてくる。
赤いカチューシャっぽいのが頭に刺さっている。
額の上辺りにリボン型カチューシャをあしらい、リボンを結んだ余りの赤いひらひらを触覚みたいに揺らしながらぽやぽやした様子の少女は龍華に突撃すると抱きついた。
青いワンピースを着ているので、なんとなく物語りのアリスに似ているように思う。
「彼女は?」
シャロンが警戒しながら尋ねる。
おそらく龍華の魔女なのだろう。
剣の柄に手を当てたので、慌ててヌェルティスが引きとめる。
「まァ待てシャロンよ。無駄に龍華と敵対する必要はあるまい。休戦中だ。そちらの魔女にも現状を説明すればいいだけだろ」
「だなぁ、嬢ちゃんの言うとおりだ。あんた血気盛んすぎじゃねーかい」
「クッ……わかりました」
シャロンとしては敵の魔女が二人も居るのだから油断は出来ないだろう。幾ら休戦とはいえ隙を見せれば殺される可能性は捨てきれないのだから。
「初めまして、シャロン・レムト・フィラレンツィアです」
「私はゼムロット・クライベル・グラシエ、こちらは【人間的な者】ビルグリム・ゾルダーム」
まずはこちらの魔女であるシャロンとゼムロット、ついでにゼムロットが隣のビルグリムを紹介する。
「え? あ、えっと……」
すぐ側に居るのが敵対中の魔女二人と知って顔を青ざめる少女は、慌てて龍華の背後に回る。
「我が主よ。この二名の魔女とは休戦協定を提案されている。先程の神の声を聞いていただろう?」
「あ、うん。えっと、あの、ラナエ・ノア・ラプンツェル。それと【気難しい者】の龍華さんです」
「龍華だ。休戦中はよろしく頼む」
「最後に儂か。ヌェルティス・フォン・フォルクスワーエンだ。よろしく頼む」
ヌェルティスにとっては龍華と敵対しない。それだけで十分な戦果といえよう。彼女と敵対すれば自身の敗北は必至である。
軽い自己紹介を終えた面々は、とりあえず場所を移動する。
相手は女神の勇者。他のントロ候補たちとの闘いも予想されるため、下手に一所に留まるよりは、街中に向かった方がいいという龍華の言葉に従ったのである。
この中で一番強く行動力もある龍華の言葉に、ゼムロットたちも反論の気配すら見せずに従った。
グラシエ領からチャルチ領へ。
近場の街へと辿り着いた一行は、酒場に向かい食事を行う。
「なんでまたチャルチに?」
「どうせなら別の魔女とも休戦した方がいいかと思ってな。ついでに邪魔になりそうなら排除しておくのもアリだと思った。ントロが三人いるのだ、そうやすやすとやられんだろう?」
「まー、そりゃそうなんだがよ」
ビルグリムがジョッキでエールを頼みながら告げる。
昼間ににぎわう酒場では、彼らですら空気に馴染み違和感が無い。
金髪色白黒マントの怪しげなヌェルティスが居るというのに、身の丈三倍はある巨大な鎌を持つ龍華がいるというのに、まったく怪しまれることなく普通に風景に溶け込めている。
「さて、とりあえず街に着き落ち付けた。情報を整理しようか」
「それもそうですね。勇者を名乗る存在が、何人でしたっけ?」
「五体、だな」
頼んだ枝豆やスープなどが来る。
「ほぅ、ウインナーがあるではないか」
「これは? 血を固めたウインナー? ああ、そう言えば食べた事があるな」
龍華が黒いウインナーを眺めながら、ふと隣の席に視線を向ける。
少女を含めた女三人と初老の紳士という組み合わせの変わった四人組。彼らも龍華の視線に気づきヌェルティスたちに視線を向ける。
「あれあれー、どっかで見た顔があるよー」
「……シャロン?」
「っ!? 姉さんっ!?」
思わずガタリと立ち上がったのはシャロン。
その視線の先には、シャロンに似た顔立ちながら清楚で上品な女がいた。
「……城から抜け出し何処へ行ったのかと思ったら、そんな芋芋しい面子と何をしていらっしゃるのかしら?」
「あ、あなたこそ……なぜチャルチ家に?」
「あなたには関係のないことよ。これは魔女戦争の一端、魔女としての資格がないシャロンには……」
「あるッ! 私だって魔女だ!」
柄に手を当てようとしたので慌ててビルグリムが剣の柄頭を押さえてシャロンを宥める。
どうやら仲の悪い姉妹がカチ合ってしまったようだ。
「ほぅ、聖龍華とヌェルティスか。また濃い面子が揃っているじゃないか」
「っ!? 儂らを知っているのか!」
折角ビルグリムがシャロンを押しとどめたのに、少女が今度はヌェルティスと龍華に声を掛ける。見知らぬ人物からの声掛けに、警戒感を露わすヌェルティスと龍華。場は完全に緊迫した空気を醸し出すのだった。




