地球・翼の勇者1
「ほらほらどうした!?」
翼の勇者に弄ばれているのは赤いスーツの男。
ジャスティスセイバーが翼の勇者を追って空を飛ぶ。
時折セイバーを振るい必殺技を飛ばして来るが、飛行特化の翼の勇者にとっては避けるなど容易いことだった。
その下ではユクリがゾンビ相手に奮闘している。
ジャスティスセイバーの空中戦に意識を裂く気配が無いのは彼女がセイバーを信頼しているからだろう。
それでも長くは持たない。相手の数が多過ぎるのだ。
その危機感がジャスティスセイバーを焦らせる。
せめてユクリの安全が確保されればいいのだが、助っ人が来てくれることを考えるのは愚策だろう。
それよりも早く翼の勇者を撃破し、ユクリのフォローに行くべきだ。
「はは、お前の思惑が良く分かるぜ赤い魔王っ。だが残念。お前は間に合わずあの女はゾンビの仲間入りって訳だ」
ゆっくりとユクリへと近づくゾンビの群れ。
漏れる声が恐怖を誘い。身体を揺らし動く姿は絶望を湧き起こす。
ユクリは恐怖こそ感じていないが、人の形が崩れたモノが動き、呻きを上げながら迫る様子に嫌悪感は湧き起こるようで、近づく個体を集中的に破壊している。
過剰攻撃に見えなくもないが、魔力が有り余っている彼女ならそれでも今しばらく問題はないだろう。だが、翼の勇者にかかずらわればかかずらわる程彼女の危険度は高まって行く。
今のような遠距離からの攻撃では翼の勇者に躱されるだけ。
近づこうにも相手の飛行速度が速過ぎて追い付けない。
既に手詰まりと言えなくもなかったが、正義の味方の一人として、ジャスティスセイバーは諦める気はなかった。
必死にギルティーライナーを放ち攻撃を行うが、その全てを楽々避けられる。
「行くぜ、ジャスティス。轟け、セイバー!」
「お、新技?」
「ギルティーバレット」
セイバーに正義力を込めて投げ放つ。
やけになって武器を投げたと思ったのだろう。大笑いしながらこれを避け、翼の勇者は下卑た笑みをジャスティスセイバーに向けた。
「どうした赤い魔王。むかつき過ぎて武器投げるとかバッカじゃねー?」
しかし、ジャスティスセイバーは無言で翼の勇者へと近づく。
「だから、無駄だっつー……あぶね!?」
ギリギリだった。
翼を閉じて避けた瞬間、背後から斜め上へと駆け抜けるギルティーバレット。
まさかの投げ捨てられた武器の攻撃に、翼の勇者は慌てて距離を取る。
しかし、追い付いていたジャスティスセイバーがその腕を掴んだ。
「マズ……」
「ロードセイバーッ! 絶技・ギルティーセイバーッ!!」
「くっそがあぁぁぁっ!!」
咄嗟に口から破壊光線を吐き出しジャスティスセイバーの腕をちぎり逃げる。
痛みに呻いたジャスティスセイバーだが、その腕が一瞬にして再生する。
「おいおい、バケモノかよ赤い魔王」
「人魚の血だ。まだ体内に残ってるんでね」
「チッ面倒な」
だが、とニタリと笑みを浮かべる。
翼の勇者の態度に不信を覚えたジャスティスセイバーが怪訝な顔になるが、スーツ越しだったために翼の勇者には気付かれなかった。
「いいのか赤い魔王。相方はもう、終わりみたいだぞ」
「!? ユクリっ!!」
慌ててユクリを振り向く。
不意を突かれたのだろうか、ゾンビに腕を掴まれているのが見えた。
「逃げろユクリッ! ユクリ――――ッ!!」
叫ぶジャスティスセイバー。その背後に翼の勇者がいることを、彼は一瞬忘れていた。
「お前も、終わりだ」
はっと、我に返った時には遅かった。
背後で口に光線を溜めた翼の勇者が、ジャスティスセイバーに接射型破壊光線を発動する。
避ける余裕はなかった。ジャスティスセイバーには、だ。
「ところがどっこいっ!」
だが、ジャスティスセイバーには避けられずとも、第三者が彼を蹴りつけることで危機を脱する。
飛び蹴りを行いジャスティスセイバーを射線から強制的に逃したそいつは、ばさりと翼を広げて自身も射線から逃げる。
「なっ!?」
光線を吐き終え驚く翼の勇者。
その視線の先には、純白の羽を広げた女が一人。
「まったく、あたしまで出張ることになるとか面倒だっつの」
「お前……八神!?」
「お久河上。しばらく合わない間に魔王になってハーレム作ったんだって? 爆発しろリア充!」
懐かしいクラスメイトとの邂逅に八神百乃は軽口叩いて剣を引き抜く。
「大天使オルタナエル・フレイブレイズがここからは相手します。ちゃっちゃと輪廻の輪に戻してあげるから異世界帰りやがれ!」
「天使、だと!?」
驚く翼の勇者。さらに、
「偉大なる一撃!」
誰かの声と共に爆音が轟いた。
ゾンビが数十体空を舞う。
「無事ですかおねーさん! 助っ人に来ましたにこにこにっこり金融小影ちゃんです! お礼はお金でお願いしまっす!!」
「こういう時はスプリングが大活躍だねー」
どうやらユクリの方にも助っ人が到着したらしい。
ジャスティスセイバーは思わず安堵の息を吐くのだった。




