ミルカエルゼ・瞬間移動の勇者
瞬間移動の勇者は自分の特性を完全に封じられていた。
まさかこんなことになるとは思ってすら居なかったため自分のチート能力である瞬間移動で様々な場所に移動できると思っていたのだ。
敵対するのは坂崎可憐、李鯉恋の二人だけ。
なのに相性がすこぶる悪い。
可憐の超能力で能力を封じられ、鯉恋の物理が襲いかかる。
一般的能力よりは勇者として能力値が強化されてはいるものの、李家の娘である鯉恋にとっては一般人に毛の生えた程度の実力である。
そんな相手を征圧するのは容易かった。
「クソッタレ!」
再び転移。
しかし不可視の力で転移先から押し戻される。
何をどうしているのかは理解できないが、可憐の攻撃である事だけは理解出来る。
先程からずっとこれだ。逃げようとしても攻撃しようとしても瞬間移動が封殺される。
さらに元の位置に戻された瞬間移動の勇者に側面から襲いかかる鯉恋の崩拳。
脇腹に喰らった衝撃でくの字に身体が折れ曲がる。
口から唾が吐き出され、内臓が激しく揺さぶられる。
吹き飛ばされた瞬間移動の勇者の前に現れるのは可憐。
超能力を使っているせいか髪が逆立ち瞳が金色に光って見える。
掌を瞬間移動の勇者へと向ける。
「マズ……」
咄嗟に身体が動いたのは本能的な危機に身体が反応したのだろうか?
避けた瞬間全身に痛みが走る。
「ガァッ!?」
「外した!? 一撃必中のつもりだったのにっ」
「無問題! 追撃行くアル!」
「させ、るかァ!」
咄嗟に身を捻り鯉恋の一撃を躱す。
倒れながら捻りを加えた蹴りの一撃。
鯉恋はこれを片手でガードしてさらに踏み込む。
「發ッ!」
「ごォッ」
捻った腹に掌底の一撃、揺さぶられた内臓がさらに揺さぶられる。
口から唾とは違う液体が吐き出される。
地面を滑走しながら必死に転移を発動させる。
どうやら間隙をつけたようで転移成功。
鯉恋の背後に出現し、彼女に体当たりを行う。
「あいやっ!?」
「飛べ、クソ女っ」
血反吐を吐き散らしながら鯉恋にタッチ。
次の瞬間発動された瞬間転移により鯉恋の身体が上空数千メートルに転移された。
「う、嘘ぉ――――っ!?」
地面に強か背中を打った瞬間移動の勇者。
自由落下を始めた鯉恋を視界に収めニタリと微笑む。しかし、思った以上にダメージが大きかったらしく、ごぼりと口から血泡を吐く。
「マズい。鯉恋さんっ!?」
「受け止め頼むョ――――ッ」
地面に激突する寸前、可憐が超能力で空間停止。鯉恋を救えたことに安堵したが、彼が気付いた時には既に瞬間移動の勇者が消え去った後だった。
「やっば、取り逃がした!? あの怪我で逃げたのか!」
「やてしまたネ。とこ逃けたか分かるカ?」
「ああ、やってしまった。か。えっと……」
目を瞑り、意識を集中させる。
瞬間移動の勇者が消えた先。捕えた! いや、消えた。
違う。何度も何度も小刻みに瞬間転移を繰り返し必死に逃げている。だから超能力で居場所を判定しても次の瞬間には別の場所に逃げられているのだ。
「参ったな。全力で逃走に走ってる。今のままだと捕えられない」
「とぅする!?」
「しばらく放置するよ。相手が同じ場所で休息したり、攻撃に向かってきたら儲けものだけど、ずっと転移し続けることはできない筈だし」
「逃けてしまたか……任務失敗ヨー」
「相手の追跡は僕がやっときますよ。鯉恋さんは、あ、ほら、戦闘終わってるメンバーに取り逃がしたこと告げといてください。不意打ちされるかもしれませんから。僕が間に合わなかったら自力で予防お願いしますって」
「はぁー。仕方ない。伝えるアル」
溜息吐いてとぼとぼとフィエステリア達の元へと戻る鯉恋。
その背中を見送り、可憐は意識を集中させる。
「鯉恋さんには悪いけど、彼を倒すのは骨が折れるからね。さて……行くか」
可憐が転移する。
魔法やスキルではなく超能力による瞬間移動。
それは対象人物を深く思い浮かべることでその者に実際に会いに行ける能力である。
さらに転移先で転移しようとしていた瞬間移動の勇者のスキルを封じないといけない。
「ここからは、僕の全力タイムだ」
鯉恋達に知らせることなく、瞬間移動の勇者の元へ単身転移。
焦りながら逃げようとした彼のスキルを無効化させる。
「チッ! また貴様か!」
転移能力を阻止された瞬間移動の勇者が可憐を睨む。
居場所はどこかの街道。
だだっ広い草原の中央を馬車が行き来出来るだけの道が永遠続いている場所だった。
「逃す気もないってか、ならなんで転移させたっ!?」
彼も気付いたらしい。
先程転移出来たのは、可憐がわざと見逃したからに他ならず、人知れぬこのような場所で迎え撃って来たのも、誰にも見られないためだ。
「いや、流石にこの能力は皆に見せられないんだよね。何しろ、チートな能力者ですら無効化してしまうスキルだから。僕が危険な存在と認識されてしまう。友達にそう思われるのは、避けたいんだ」
「は? チートを、無効化? それぐらいさっきからやってるじゃねーか!」
「違うよ。今やってるのは、君の転移をアストラル世界で引き戻して……まぁ面倒な話はいいよね。今から使うのは、そういうのじゃないんだ。行くよ? 全能力強奪」
「あ? が……なぁぁっ!?」
何が起こったのか、理解など出来なかった。
瞬間移動の勇者は音も無く倒れる。その身体から、生命活動という能力すらも奪い去られ、カサカサのミイラへと変化する。それも、しばらくすると砂のように崩れて消え去った。
「はは、参ったな……渡さんが僕を殺そうとする筈だよ。魔王として覚醒してたらこれをクラスメイトの皆に使ってたんだ、こんな凶悪な力を……」
かつて未来から来た渡に命を狙われた理由はこれにあった。
超能力に覚醒してしまった可憐の覚えた能力。その集大成がこれにある。
相手の能力、力、経験、生命力に至るまで、あらゆる全てを強制的に強奪する超能力。
奪えば奪うだけ実力を増す凶悪な能力だ。
今でこそ増渕に追い付きたいが為に使っているだけだが、もしも悪堕ちしていたらと思うと自分の能力に悪寒すら覚える可憐であった。




