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地球・魔眼の勇者2

 ピクシニーの周囲に無数の雷球が蠢く。

 ピクシニーの周りを回りだした雷球たちがピクシニーを覆い隠す。

 渦巻く雷球の群れに、魔眼の勇者はさすがに肝を冷やした。


「ボルテクス・ハレーション」


 雷撃の渦が一斉に襲いかかる。

 慌てて逃げ出す魔眼の勇者。しかし、雷撃の渦は魔眼の勇者向けて追跡を開始する。

 追尾式魔法に必死に逃げる。地面を這うように走る魔眼の勇者の体力は、魔法から逃げられる程ではなかった。


「ひっ、ぎゃああああああああああああああ」


 女性とは思えない叫びと共に雷撃に呑まれる。

 次の瞬間、膨れ上がり爆散するように雷球達が飛び散った。

 後に残されたのは焼け焦げた魔眼の勇者のみ。


「ぬあっはっは。やったぜますたー!」


「え? 何を?」


「なにをって……ほら、もくとみてみて! わたしがまがんのゆうしゃをたおしたんだってば!」


「いや、なんで何も無いところに攻撃して訳の分からない事を……」


「キュア!」


 黙人の言葉に反応したヨルゥイエルがピクシニーに状態異常回復魔法を掛ける。

 皆の回復を一手に引き受けていたピクシニーだから油断していた。

 彼女も既に魔眼の餌食になっていたのだ。


 気付いた時には遅かった。最大級の魔法を誰も居ない場所に放った後で、ピクシニーの魔力はすでに欠片も残っていない。

 ヨルゥイエルが来てくれたので正気を失った仲間の回復はできるが、ピクシニーの参戦はもはや不可能に近かった。

 正気に戻ったピクシニーに、魔眼の勇者がクスクスと笑う。


「あら、ごめんなさい。まさか掛かってるとは思わなくて。今のが直撃してたら私も死んでたわね。ええ、直撃してたら」


「あ、あわわわわ。もくと、どうしよう……」


「うん、とりあえず魔力回復の為に炊き出し係してるはずの神楽さんとこに行こう。それしか……」


「ところでさぁ。皆まだ私を倒す気みたいだけど、最大戦力無くしてどう闘う気? ねぇ、たとえば……」


 そう言って、魔眼の勇者が視線を合わせる。

 視線を合わせてしまったそいつは油断していたのか即座に操られ、腰元の剣を引き抜いた。

 魔眼の勇者を守るように、ヨルゥイエルが正義の味方達に立ちはだかった。


「って、ふにゃあぁぁぁぁ――――っ!?」


 マイツミーアが思わず叫ぶ。

 唯一状態回復魔法を使える存在だったヨルゥイエルが早速操られている。

 もはや打つ手が一つも無くなったに等しい。


「何をしてるんですか天使っ!?」


「これ、詰んだんじゃないですか!?」


「ど、どうしようもくと……」


「あー、うん。これはティンクかパックに援軍頼むしかないかなぁ」


 こんな時まで暢気に告げる黙人にピクシーキックをお見舞いしながら、ピクシニーはどうしたものかと迷う。

 すでにヨルゥイエルは戦闘態勢で、ペリカ向けて剣を振り上げている。

 魔法で援護しようにも既に魔力は底を付き、黙人から得られるディグも危険域に達している。これ以上奪うと黙人が死にかねない。それはすなわちピクシニー自身の死でもある。


「ほら、一人目、死んじゃいなさいっ」


 魔眼の勇者に促され、操られたヨルゥイエルが剣を振り下ろす。

 ペリカも避けようとはしているが、既に彼女にも麻痺の魔眼が掛かっているらしく動くことすら出来ないでいるらしい。

 魔眼の勇者の特性は様々な魔眼を使い分けることが出来ることにある。

 既に自分の脅威が消えたと遊ぶ方向に思考を切り変えたのだ。


 まずは一人目。

 絶対不可避の仲間の攻撃がペリカを襲う。

 その剣が……消えた。


「っ!?」


 ヨルゥイエルの持っていた剣がペリカの頭蓋を叩き割る寸前だった。ヨルゥイエルから剣が消え去り切り裂く動作だけを行ったヨルゥイエルをペリカが間抜けな顔で見つめていた。


「何? 今、剣が消えた?」


「この程度、盗むのは容易いのデス」


 魔眼の勇者の背中越しに、女の声が聞こえた。

 いつの間にそこに?

 慌てて飛び退く魔眼の勇者の髪が切り裂かれる。

 ヨルゥイエルの持っていた剣が振り抜かれ、魔眼の勇者の髪と裾を切り払った。


「誰っ!?」


 振り切った剣と共に黄金色が舞う。

 ポニーテールに纏めた髪を風に靡かせ、そいつは即座に場所を離れた。

 遅れて視線を向けた魔眼の勇者は、相手を視界に捕えきれずに周囲に視線を向ける。

 誰も居ない? 否、先程見掛けた金髪の背の高い女はどこかにいなければおかしい。


「だから……目を合わさない程度でいいのなら余裕なのデスよ」


 ゾクリ。

 魔眼の勇者の背後にまた気配。振り返る暇すらなくヤられる。

 それを理解した魔眼の勇者は身体が硬直するのを感じた。

 これは魔眼等によるモノではなく単純な恐怖による硬直だ。


「あ、あんた……何者?」


「怪盗ラッフェン。今宵あなたの命を盗みマース。なんちて」


 チャキリ、ヨルゥイエルの剣をしっかと握る。怪盗ラッフェンことリテルラ・マイネ・エトリアルテが彼女の背後で構えを取った。

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