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アンゴルモニカ・人間爆弾の勇者2

 クラネス・エッヘンベルグはアーチボルグ最高司祭という地位に付いているが、本人は自分の力量を認めてはいない。なぜならば自分は最高司祭に相応しくないと思っているからだ。

 一介の神官でしかなかった彼が二代目最高司祭となったのは、一代目最高司祭が神の御許に旅だったことと、その弟が辞退してしまった事である。


 神敵者の改心を行っていた一代目最高司祭の弟は、汚れ役をしていた自分は最高司祭をする器ではないと辞退し、次点で一代目最高司祭に目を掛けていただき、神アンゴルモアに最後に声を掛けていただいた存在としてクラネスが最高司祭に祭り上げられたのである。

 アンゴルモア本人と会話を行った事があるだけの信者でしかない彼に、神からの奇跡は頂けなかった。


 一代目最高司祭が全ての国民を救うべく人柱となった奇跡のようなモノを、彼が手に入れることは今のところないのである。

 しかし、彼の教えを広め、アンゴルモア神信者を増やす事だけに関しては、確かにクラネス程熱心な信者は居なかった。


 今回の世界の危機、もしかすれば自分にも脅威に対抗できる力が生まれるのではないか? 授かるのではないか? 期待しなかった訳ではない。なれども、霊体の勇者相手に殴りつけた拳も蹴りも、彼女を傷付けるには至らなかった。

 そもそもがアンゴルモアとして崇められているのは不幸過ぎる少年、三神照之なのである。彼は不幸なだけで神ではないし、奇跡を授けることが出来るはずもないのである。

 つまり、奇跡など彼が授かるはずもないのであった。


「神の友よ! この邪神の勇者は私めにお任せを!」


「アホかおっさん! 生身であたしに敵うかっつの!」


 すり抜けるのが分かっていながら攻撃して来るクラネスに、馬鹿かこいつ? みたいな顔をしている霊体の勇者。相手が攻撃出来ないとわかるや、上から目線で無駄な努力をしているクラネスを嘲笑っている。

 御蔭でグラビィマッキーを拘束する事も忘れているのだが、彼女が気付いていないのでグラビィマッキーは彼らから距離を取る。


 最悪は頼みます。と近くに居たソカンにクラネスの面倒をお願いし、人間爆弾の勇者にトドメを刺そうと注意を向けた。

 居なかった。


「……え?」


「気付くのが遅いなっ」


 不意に聞こえたのは背後から。

 咄嗟に振り向いたグラビィマッキーに接敵した人間爆弾の勇者が腕を突き出す。

 グラビィマッキーの身体に触れるその刹那、グラビティフィールドの重圧が発動し人間爆弾の勇者を押し返した。


「チィッ!?」


「ひゃあぁっ!?」


 重力魔法で慌てて飛び退くグラビィマッキー。

 今のはヤバかった。霊体の勇者の出現で油断したとはいえ、目を離した一瞬で後ろに回られているとは思わなかった。

 さらに言えば重圧による圧力が働いていた場所から動けるとも思っていなかったのだ。自力で脱出されるとは思いもしなかった。


「そらっ!」


 地面から小石を取り投げつける。

 人間爆弾が触れた小石が爆弾となり、グラビィマッキーの目前で爆散する。


「きゃぁ!?」


 グラビティフィールドによりダメージはないが、目を瞑った一瞬で再び人間爆弾の勇者を見失う。

 想定外の機動力に戦慄しながら、グラビィマッキーは魔法を発動。グラビティフィールドで自身の姿を掻き消し上空へと逃れる。


「姿が消えた!?」


 あんなところに!?

 ようやく発見した人間爆弾の勇者。既にグラビィマッキーの側面に移動しており、後少しでも判断が遅れれば奇襲されていただろう。

 本当に、あの勇者は強力らしい。

 他の勇者たちもあの位厄介なのだろうか? それにしてはクラネス相手に遊んでいる霊体の勇者は間抜け臭が漂い過ぎている気がする。


 なんにせよ。人間爆弾の勇者はここで倒さなければならない。

 覚悟を決めグラビィマッキーはモーニングローリィを取り出す。

 神をも殺す槍である。ナーガラスタ神との闘いの最中で手に入れた彼女の武器だ。


 箒に跨り空を飛び、槍を構えて人間爆弾の勇者へと突撃する。

 しかも姿を消しての奇襲攻撃。

 卑怯と言われようともコレが彼女の戦闘スタイルだ。姿を消して遠距離から圧殺。

 今回も突撃と言うよりは周囲の重圧ごと相手を圧死させるのが目的の一撃である。


「っらえぇ!!」


「っ!?」


 一瞬の判断だった。

 何かゾクリと背中を這った人間爆弾の勇者が慌てて飛び退く。

 背中から物凄い圧力の一撃が襲いかかった。まるで地面が爆散したかのような衝撃で人間爆弾の勇者が吹き飛ぶ。


「くぅっ!? なんだ今のは!?」


 地面を転がり即座にダメージを受け流しながら起き上がった人間爆弾の勇者が顔を上げると、つい先ほどまで自分が居た地面が抉れ飛び、まるで隕石衝突後のクレーターが一つ、中心に突き立った槍から数メートルに及んで出来ていた。

 その槍も直ぐに消え去る。


「やってくれる……」


 相手も一筋縄ではいかないらしい。グラビィマッキーの厄介さに、人間爆弾の勇者は思わず唇を舐めるのだった。

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