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アンゴルモニカ・人間爆弾の勇者1

 大井出真希巴は絶望してはいなかった。

 目の前で親友である至宝が爆散してしまったが、だからこそアレを止めるのは自分しか居ないのだと気合いを入れる。

 そもそも至宝は死んでも蘇る勇者である。

 女神の勇者たちとは違い、彼女の場合は魔王を倒すまで死ね無いという特性を持っている。


 だから至宝は今、復活地点で復活しているだろう。

 きっと戻って来てくれる。それが分かっているからこそ、至宝が戻るまでの短い時間、誰の被害も出さずアレを相手しなければならない。

 魔法少女グラビィマッキー再始動である。


 地球で魔法少女していたのは数年前、子供を産んだ今の状態では決して少女と言えないすがたであるし、ひらひらした魔法少女衣装は少し痛々しい気がしなくもない。

 そばかすだらけの顔もモブ顔とかヤラレ役とか言われそうだし、ロリポップなステッキはどう見ても年齢に即していない。それでも、彼女の能力を存分に発揮できるのはこの状態なのだ。


「ふむ。魔法少女というには年齢が……」


「ダムドッ!」


 相手の呟きをぶっ潰すように魔法弾を撃ち放つ。

 空気に紛れ見えない弾丸を、目を見開いた人間爆弾の勇者はギリギリで避ける。


「さすが魔法使いか、視認出来ない遠距離攻撃とは恐れ入る」


「グラビティバインド!」


「くぅっ!?」


 グラビィマッキーが操る魔法は重力だ。

 打ち放った弾丸は重力の弾丸だし、グラビティバインドは相手に重圧を掛けて身動きを封じる範囲魔法。

 当然そんな事を知らなかった人間爆弾の勇者は重圧をモロに受けて地に伏せる。


 四肢を投げ出し地面にうつ伏せとなった彼は、なんとか身を起こそうと全身に力を入れるが、あまりの重圧に立つことはできないでいる。

 人間爆弾の勇者が動けなくなったことに安堵したグラビィマッキーは、緊張の息を吐く。

 なんとか無力化できたようだ。後は魔力が続く間に至宝が来てくれれば万事解決である。


「重力カ」


「はい。これでしばらくは……私だけじゃトドメはさせませんし、投げナイフとかは重力のせいで届きませんから。しーちゃん待ちです」


「ナルホド」


 と、側に居たソカンがグラビィマッキーを見た瞬間だった。

 彼女の背後から何かが近づいていた。

 咄嗟に飛び蹴りを放つ。

 空飛ぶグラビィマッキーの背後に同じく浮遊しながら近づいていた霊体の勇者をすり抜けソカンが驚きながら地面に着地した。


「ナンダッ!?」


「しまっ……」


 振り向こうとしたグラビィマッキーの首を背後から霊体の勇者が捕えた。


「はーい。形勢逆転ーっ。人間爆弾とかどんなチートだよって思ってたけど案外弱かったわねー」


「霊体の女……か。貴様に助けられるとはな……」


「ほら痛いカッコのブサイクちゃん、首折られたくなかったら人間爆弾の勇者への魔法、解こっか?」


「そ、そんなことしたら皆が」


「あたしは別に気にしねーし? その皆が爆死しようがこの世界滅茶苦茶になるならそれでいいじゃん。あたし人殺ししてみたいとか思ってっし?」


「爆死はいいぞ? 先程も女が爆散する姿を見たが、ああ、膨れ上がり驚愕しながら破裂する最後は最高だ」


「悪趣味ーきゃはははっ」


 霊体の勇者に首を囚われたまま、グラビィマッキーは最善手を探る。

 援軍を待っていたら敵の援軍が先に到着とか最悪過ぎる。

 だが、人間爆弾の勇者の拘束を解くのも悪手。そもそもそれで解放される可能性は零だ。


 ならばどうするか。

 もはや選んでなど居られない。

 自分の命を惜しんで敵を解放するか、自分が死ぬ事を前提にして動くか。そんなもの確定している。

 既に自分の夢は叶っている。大好きな人と結婚し、暖かい家庭を作り、子供が居て、皆と笑い会えて。ずっと夢想していたささやかな夢は、多少違和感はあろうともちゃんと叶えられたのだ。

 ただちょっと自分以外の妻が多いのと子供が多いのに目を瞑れば、いつも賑やかな日々だった。

 ならばもう、思い残すことはないだろう。ずっと続けばいいとは思ったが終わりがいつか来るのだ。それが自分には今だっただけ。


「しーちゃん。後、お願い」


 決意と共にグラビィマッキーは人間爆弾の勇者に向けて全力の魔法を撃ち放つ。


「グラビトンバスターッ! ダムド……ライアッ!!」


「なっ!? ちょっと自分の命……」


「霊体撃滅パンチッ!」


 驚きながらもグラビィマッキーの首を折ろうと力を入れた霊体の勇者。

 そこへ茂みから飛びだした神官服の男が拳を振り上げ襲いかかる。

 霊体撃滅。その言葉を聞いた瞬間、半ば反射的に逃げ出す霊体の勇者。今までの経験から、この世界に自分を消滅させうる能力者が居ると理解したための回避行動だった。

 だが、すかっと自分の身体をすり抜ける男の拳に、今のがブラフだったことに気付かされる。


「なっ!?」


「むぅ、やはり私には信仰が足らぬとおっしゃいますかアンゴルモア神様」


 突撃して来た男、クラネス・エッヘンベルグは悔しげに唸ると霊体の勇者を睨みつけた。


「我が名はアーチボルグ最高司祭! アンゴルモア神様の御名の元、このクラネス・エッヘンベルグが貴様を冥府に叩き落としてしんぜようぞ!!」


 血走った眼の狂信者が唾を吐き散らしながら拳を握りしめたのだった。

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