マイノアルテ2
落ち着きを取り戻したヌェルティスとシャロンは森を歩きながら様々な情報を交換した。
この世界の常識はある程度ヌェルティスの知っている知識ではあったが、知らない情報も多々あった。
「とにかく、今は一刻も早くガルニエたち追っ手を撒く事を考えましょう」
「何処へ向う?」
「この先にロブソンという小さな村があります。地理的に言えばクラステス家ではなくグラシエ家の領地になりますのでクラステス家からの追っ手は掛からないでしょう。もしも見つかれば総力戦と成りますし」
ギリギリ別の領地にある村になるらしい。
一応、考えがあって逃げていたようだ。
ヌェルティスは感心しながらも現状を少しづつ整理していく。
十二のントロと呼ぶ精霊と魔女の戦争。ふと、現代世界にあったゲームに聖○戦争とかあったなぁ。と思ったがントロは死んだら元の世界に戻るという事らしいし、別物だろうと納得する。
森を抜けるまではかなり不安そうにしていたシャロンは、村が見える場所にやってきた瞬間、眼に見えて安堵していた。
本来ならばここが一番奇襲どころだと窘めたかったヌェルティスだったが、奇襲しそうな敵の気配が無かったので黙っておく。
すると、シャロンがヌェルティスに視線を向けた。
「アレがロブソン村です。ようやくグラシエ国領に入れました」
「ふむ。それはいいが、今度はグラシエから襲われんか?」
「その可能性は否定しません。しかし、私が存在している事が発覚する頃には私たちは別領に向えるでしょう。警戒は必要ですが少し息を抜いても良いでしょう」
なるほど。と納得しておく。
村は木柵で区切られた小さな集落だった。
入口は申し訳程度に板を打ちつけ門のようにしてあり、常時はこれを閉めることで獣の侵入を防いでいるそうだ。
門をくぐって村に入る。
旅人はそれなりに居るらしく、ヌェルティスやシャロンが歩いていても誰も違和感を示さない。
村人はボロボロの布切れを着た者が多く、数人だけ身なりの良い村人が居た。
身なりが良いのは商人や旅人、村長の家族などらしい。
物乞いはいないようだ、狭い村なので、そういった存在が出ないように相互で助け合いをしているのだろう。
村では牛のような生物や、鶏に似た生物がいたが、牛というには小型で、レモアという名前らしい。鶏の方がコッカトライスというらしい。尾っぽが蛇のような鱗なのだが、石化能力は無いらしい。聞いたらシャロンに呆れられた。そんなモノがあれば村人の石が大量生産だ。だそうだ。
宿屋を探すが見当たらず、村長の家で聞いたところ、どっかの家に泊めて貰えということだったので女性一人娘一人の家に御厄介になることにした。
シャロンが言うには、村で気を付けなければならないのは泊る村によっては旅人を村ぐるみで襲う場所があるらしい。
当然ながら被害報告があれば領主が討伐に向うのだが、大抵は事後になってしまうので泣き寝入りになるそうだ。
ヌェルティスは絶対に襲われる気は無いと告げるが、余程の事が無い限りそんな村は無いと笑いながらシャロンに諭された。
男しか居ない村は要注意らしい。疫病などで女性が死に絶え子供を欲しているらしいからだ。
それでも不安だったヌェルティスは自分の眷族である蝙蝠達を多数出現させて護衛に当らせておくのだった。
村人たちの朝は早く、日の出と共に起床する。
シャロンも野宿が多かったためか早起きで、つい先日まで城で駄眠を貪っていたヌェルティスだけが寝坊していた。
お付きの蝙蝠がヌェルティスの頬を蹴っていたが、涎を垂らして寝ているヌェルティスは全く気付いてないらしい。
シャロンはクスリと笑みを漏らすと家から出て軒先で剣の素振りを始める。
家主の女性が娘と共に畑に向うのを見届け、一時間ほど剣を振るっていると、ようやくヌェルティスが眼を擦りながら起きて来た。
「上品な者にしては随分といい姿ではありませんか」
剣を振りながら振り向くことなく告げてみるが、未だボーっとしているヌェルティスには、彼女の皮肉を理解する理性は無かったらしい。
「んあ?」と返答してそのまま井戸へと向かって行った。
「あれが本当にントロだとは信じられませんね。もっと神々しき者や従者のように私の手足となる者かと思っていましたが」
空を見上げ、シャロンは息を吐く。
「我が望みは望郷の如く……姉様、必ず私は……」
「うーむ。やはり風呂がないと落ち着かん。どこかに温泉でも湧いておらんのか。吸血鬼なので臭いは無いのだがこう、やはり一日一回は風呂に入らねば」
「風呂……というのは最近別領にできたという公衆浴場というものですか?」
「おお、浴場施設があるのか!」
「ドラグニア国でしたか。召喚された寛大な者が考案したとか。なんでも二人も召喚したそうです」
「二人も? そういう事もあるのか?」
「風の噂で聞いた話によりますと、デート中? に召喚されたそうで、男の方は巻き込まれたようですね」
「むぅ、それはつまりダーリンが儂に触れておれば二人で……なんと口惜しっ!」
悔しがるヌェルティスに苦笑して、シャロンは剣をしまう。次の場所への移動を開始するのだった。




