マイノアルテ3
「暇だぞシャロン」
「基本逃走といっても冒険者と同じように野営と歩きですからね。今はとにかくグラシエの領地を抜けることを目指しましょう」
ヌェルティスとシャロンはたった二人で平野を闊歩する。
ここに至るまで既に三日。野営な上にその場にゴロ寝という悲惨な状況に早くもヌェルティスが音をあげていた。
基本城育ちの彼女にとっては野宿はあまりにも酷だったらしい。
「そういえばシャロンよ」
「はい。何でしょう?」
「ントロとかいうのが12人? 居るのは理解したが、魔女については聞いておらんよな?」
「ああ。そう言うことですか。魔女も同じく12人。いずれも女性であり各国の王女が召喚します」
「ふむ? つまり男が召喚することはないのか?」
「処女性が大切らしく、男性では召喚に失敗しますね。下手をすれば全身から血を噴き出して死滅します」
そんな世間話を行いながら、襲いかかってきたグラシエウルフの首を切り裂くシャロン。
片手間に動物を狩り、今夜の夜食を確保する。
ヌェルティスが蝙蝠を召喚し、縄を括ってグラシエウルフの死骸から血抜きを行う。
二体の蝙蝠は物凄く重そうにしていたが、数時間頑張って貰いたいものである。
「勇敢な者。を召喚したのは、マグニア・フィー・クラステス。クラステス家の王女で私とは親友と呼べる者でした」
「ふむ? しかしあのガルニエだったか? あの男はお主を殺す気だったであろう」
「いえ。彼が命令されていたのは私の捕縛。多少傷が着こうと問題無く保護し、魔女戦争が終わるまで監禁するつもりだったのでしょう。彼女の想いも分かります。私と殺し合いなどしたくない。そう思ったからの行為でしょう」
しかし、シャロンは既にントロを召喚してしまった。
つまり魔女戦争に参加を表明したことになる。
そうなれば、闘い合うしかない存在となるのだろう。竹馬の友であろうと殺し合いの参加者であるならばもはや和解は無理である。
「気難しい者はラプンツェル家。人間的な者はここ、グラシエ家で……」
各領地により出現するントロの系統は決まっているらしい。
気難しい者はラプンツェル家。人間的な者はここ、グラシエ家。耐久力がある者はチャルチ家。傑出した者はアリアンヌ家。風変わりな者はベルダンディ家。熱狂的な者はヤーデン家。上品な者はフィラレンツィア家。獰猛な者はアルテンリシア家。有徳な者はプラリネ家。寛大な者はドラグニア家。大胆な者はモルディアノ家が召喚できる。
「私は一応上品な者が召喚できるのですが、姉が既に召喚を終えております」
「ふむ?」
「無理矢理重複召喚したため幾つかエラーが出ているかもしれません。ヌェルティスは身体に違和感などありませんか?」
「違和感だらけだろう?」
魔力は封じられ、身体は幼女化している。これで万全などと言われても困る。
「各領地には紋章があり、私の領地は水瓶を紋章に彫り込んでおります。自宅は宝瓶宮と呼ばれており……」
「我々グラシエ家は魚を紋章に、家は双魚宮と呼ばれているぞ」
不意に、声が聞こえた。
咄嗟に剣を引き抜くシャロン。
ヌェルティスは自然体のまま首だけをそちらに向ける。
二人のおっさんがそこに居た。
「おー。アレが俺と同じントロっつー奴か。随分ちっこいな」
おっさんの一人が告げる。
うだつの上がらないギャンブル好きそうな無精ひげの男だ。服装は軽鎧。山賊か野盗にしか見えない粗野な出で立ちである。
「おう。人間的な者っつーントロの天下の大義賊ビルグリム・ゾルダームだ。よろしくなぁ嬢ちゃんども」
気さくに手を上げるおっさんに、ヌェルティスは溜息を吐く。
敵対者がガルニエにこのビルグリム。おっさんだらけである。そろそろ折角吸引した薬藻ニウムが不足し始めている気がする。
「ゼムロット・クライベル・グラシエという。悪いがントロと魔女を見付けた以上、お前たちを逃す気はない」
おっさん二号が告げる。
ビルグリムがナイフを引き抜くが、ヌェルティスは微動だにしない。
「ヌェルティス、気を付けてください。あの者小物臭はしますが実力は……ヌェルティス?」
ビルグリムに対し警戒するシャロンだったが、ヌェルティスは、ビルグリムも見ていなかった。ゼムロットを見て呆然としている。
「どうしましたヌェルティス? あのグラシエ家の者に何か?」
「シャロンのウソツキッ! あの者、どう見てもおっさんではないか! 三十過ぎのおっさんではないか! ントロ召喚は女性だろう。おっさんが魔女ってどうなっておるのだ!?」
そこ、今問題にするところですか? シャロンの白けた視線を受けながらも、納得のいかないヌェルティスの心からの叫びが木魂した。
ビルグリムとゼムロットは互いに顔を見せ、ああと納得する。
「妹から委譲されたのだ。妹はベッドから起きられん身なのでな」
真相を呆気なく暴露するゼムロットにヌェルティスは思わず地団駄を踏む。そこはもったいぶるところだろう。と理不尽な廚二病患者は嘆きと共に叫ぶのだった。




