ミルカエルゼ1
「んで、勇者が来てるってのはわかったけどさ、どんなのが居るの?」
国王フィエステリアに尋ねたのは武田カトラ。最近髪を切ったせいだろう、ショートカットにシャギーの入った髪の彼女は隣で動き出そうとしたハタ迷惑なヤンデレ娘の頭を押さえている。
ヤンデレ娘、福田瑪瑙は会議は終わったとばかりに薬藻に突撃しようとしたのでまだ話は終わってないとカトラに止められたのだ。
「えーっと、ネリウ?」
「そうね。とりあえずウチの魔法使いたちが索敵してくれてるんだけど……」
「ご報告いたします!」
ちょうどタイミング良く兵士が現れネリウに報告。
「猛毒、大魔導師、歌、瞬間移動、爆炎、神弓、ボックス、錬金。これがこの世界に来ている勇者のチートスキルらしいわ」
「あ、チートスキルも分かるんだ」
「その辺は私が手伝った」
ネコミミカチューシャの炎野美音奈がネリウに尋ねると、答えは別の方から返ってきた。
燃えるような赤髪を揺らし、増渕菜七が立ち上がる。
「八体だけならこの面子でも充分倒せるだろう。適材適所に割り振ってやれ」
「ん? 増渕は手伝ってくれないの?」
「我が故郷に向かったのがイチゴだけだと聞いてるからな。余剰戦力は足りない場所に回すべきだろう?」
「あ、増渕さんが行くなら僕も行きます!」
即座に立ち上がったのか坂崎可憐。菜七が好きなセーラー服を着た男の娘である。
普通に男性服を着ればいいのだが、菜七が前世で男の魔王をしていたこともあり、恋愛観は男性よりだと知った為、自分の容姿を利用して少女っぽく振る舞って誘惑しているらしい。
最近はまぁ可憐相手なら……と菜七が他の女性陣に漏らしているのでゴールインは近いかもしれない。
可憐のスト―キング勝利である。
菜七にはもう一人、伊藤信行が惚れ込んでいるのだが、彼が菜七に惚れられることはなさそうである。
「じゃあ増渕達はマロムニアに行くんだな。となると、今こっちに居るのは……俺、ネリウ、冬子、美音奈、カトラ、瑪瑙、お松、みぽりん、クリム、鯉恋、P・A。A・P、シャーセ、ミルユ、チキサニ、稀良螺か」
「で、猛毒、大魔導師、歌、瞬間移動、爆炎、神弓、ボックス、錬金の勇者ども。ねぇ、ボックスって何かしら?」
「アイテムボックスとかじゃねーの? んじゃとりあえず猛毒は俺が何とかするか。歌って言うのがいるらしいし、美音奈、悪いけど歌合戦になりそうだ」
「ん。おっけー、歌なら任せて。人魚の底力見せたげる」
「魔術師がどれ程か分からないけど魔法相手なら私が相手取った方がいいのかしら?」
「クアニでよければ手伝うぞ? 一応巫女だ」
黒髪少女が告げる。彼女、チキサニは上半身から膝までを覆うTシャツ状の下着、モウルを身にまとい、下腹部にウプソルクッと呼ばれる貞操帯を締めている。
「巫女って魔術だったかしら?」
一抹の不安を覚えつつ、ネリウは周囲を見回す。
「そうね。ついでにお目付け役として稀良螺も来てくれる?」
「ええ。構いませんよ。チキサニが暴走しないよう見張っときます」
頷く稀良螺に満足げに頷くネリウ。その横でカトラが唸る。
「んー。危険そうなのは瞬間移動よね。でも爆炎と聞くと私が行く方が良い気もするし……」
「神弓ってのも危険ちゃうか? 遠距離狙撃されたら防げへんで?」
「錬金やボックスもちょっと不安ですね」
みぽりんの言葉にシャーセが頷く。
「それもそうだな。可憐。お前はこっちに残ってくれ」
「えぇ!?」
「まぁ、アレだ。瞬間移動と弓の勇者が倒せたらネリウ達に送って貰えよ」
「うー。まぁ増渕さんが言うなら、そうします。でも、絶対に増渕さんの居るところにいきますからね!」
「あ、ああ」
やや気圧され気味に頷く増渕。助けを求める瞳が薬藻に向かって来たが、彼は当然のように無視してミルユと鯉恋へと向けられた。
「格闘戦特化の皆はボックスと錬金術師を頼む。ミルユ、鯉恋、P・A、A・P、クリム、シャーセ、みぽりん、お松は無理しない程度に参戦してくれ」
「あ、それでしたら私は断罪者さんのフォローに行こうかしら?」
プロミネン・アイラーヴァタことP・Aは炎を操る。爆炎特化の爆炎の勇者相手ならば相手の特性を封じて闘えるだろう。
「倒し終わったところは他の奴のフォローに向かう。最悪別世界に向かってるイチゴや小出を呼び戻そう」
「大丈夫アル。チート連中と争てるせいて私たちもかなりチート化してるネ」
鯉恋が胸を張る。練武山李家の白、仆の三兄弟の真ん中の子である彼女は幼い頃から練武の男達に混じって格闘訓練を行っていたこともあり、肉体的な戦力はかなり高い。それに加えて最近は嫁同士によるキャットファイトでネリウの大魔法やエクスキューターの必殺等に晒され、急激なレベルアップを果たしていた。
さらに言えば今はこの世界に居ないヌェルティスやイチゴなど、チートを越えたチート存在の猛攻を避けながら薬藻へと辿り着くこともあるのだ。つまり、この側室たちは薬藻を求めて争うことで互いに日々力を強化しているのである。
この世界に来た勇者達、なんか哀れだなぁ。そんな事を思う薬藻であった。




