ミルカエルゼ2
「では、行って来る」
増渕菜七がマロムニアに向かうのを見届けた薬藻たちは、報告を受け城の周囲を守る森へとやってきた。
索敵魔法により敵勇者がそろそろ来るということで、城を巻き込まないようわざわざ打って出ることにしたのである。
勇者たちは一団となって纏まっているそうで、正面からやってきているらしい。
ただ、一人だけ回り込んで来ているらしいのだが、そこは可憐が超能力を使って索敵してくれているので問題はないだろう。
森を抜けると、平野が広がる。
殆どが草原に覆われているが、所々赤茶けた大地が広がっているのは、側室たちのキャットファイトにより耕された場所である。
未だに痛々しい爪痕が残っているのだが、ここを見る度に薬藻は自分、まだ生きてるんだなぁ。としみじみ感じてしまうのだった。
「お、なんかいるぞ?」
対面の一団がこちらに気付いたらしい。楽しげに先頭の男が笑った。
「アレがどこだったかの大国が最強の国とか言ってたクラリシアの迎撃メンバー? 向こう拍子抜けだったし今回も楽勝じゃない?」
「ボックスの勇者は白テーブル取り出して椅子に座って紅茶飲んでただけじゃん。俺の大魔法が活躍だった訳よ。そこんとこどーなの?」
「ウゼェ。俺の爆炎の方が活躍してたろ」
「えー。私の錬金が活躍したし。神弓が大将射抜いたじゃん。歌も地味に活躍してたしぃ」
「い、いえ、私は別に……」
「国王の背後に瞬間移動して降伏させたのは僕なんだけど……」
勇者たちは自分の功績を褒め称えながら薬藻達と対峙する。その距離は50メートルにも満たない距離だ。
それほどに近づきながらも、双方攻撃の意思は見せなかった。
「おーっす、初めましてー」
「意外と礼儀正しいっつか。馴れ馴れしいな女神の勇者」
「そこの冴えないお兄さんが代表者?」
「ああ。初めまして、クラリシア国王フィ……」
ヒュンッ
薬藻が自己紹介をしようとした次の瞬間、彼の側頭部に矢が突き立った。
「っし、命中! 見ろよお前ら! 俺の弓矢! 一撃必中だぜ!」
森側から現れた神弓の勇者がドヤ顔で現れた。
「ちょぉい! 国王殺してどーすんだよっ! アレが多分ラスボスだろ!」
「ラスボス暗殺とか、マジKYじゃね?」
「死ねばいいと思う」
「はぁっ!? ちょ、俺が大将首取ったのにそりゃなくね!?」
「うわっ。逆切ですの? キモいですわね」
ボックスの勇者が汚物を見る目を向けると、神弓の勇者ががくりと崩れ落ちた。
綺麗な容姿に金髪ドリルのボックスの勇者は神弓の勇者にとってドストライクの女性だったのだ。その相手からキモいの一言。彼のプライドは一瞬で砕け散ったらしい。
「ちょ、待って……あ、あれ……」
女神の勇者たちが下卑た笑いを浮かべる中、歌の勇者が気付き、震えた声で指差した。
震える指先が向かうのは、側頭部を穿たれた男だ。
女神の勇者達がどうした? と視線を向ける中、そいつはゆっくりと腕を持ち上げ、矢を掴む。
「……は?」
ズブリ。無理矢理深々と刺さった矢を引き抜く男は無言で矢を投げ捨てる。
脳漿がこびりついた矢を踏み折り、くくと笑った。
「人が正々堂々話し合いに応じてやれば……」
「だから言ったじゃない薬藻。女神とか言うのが屑だったんでしょ。だったらそいつが呼んだ勇者だって屑ばっかじゃない。河上君とかチキサニとか稀良螺とか見たら分かるでしょ」
「ちょ、ネリウさん、私屑じゃないです!」
「クアニ勇者ですらないっ」
稀良螺とチキサニが抗議するが、薬藻もネリウも無視をした。
「いいぜ、事前交渉は無しだ。この世界に来たこと後悔しながら死にやがれ」
薬藻は拳を握る。
実際、最初は話し合いで解決できないものかと思ったモノだ。いくらクソ女神の集めた勇者だからと言って話が通じない訳じゃない。女性だっているのなら可能性はあるだろう。そう、思っていた。思いたかった。
でも、やっぱり勇者達もクソだった。
「flexion!」
だから、もはや言葉は不要。
遠慮も不要。
光り輝く男は、怪人へと変化する。
変化と同時に丹月老師に教わった秘術、氣を使った能力を解放する。闘氣解放。
ぶわり、潰れたヒョットコのような醜悪な怪人へと変化したフィエステリアから、凶悪な威圧が放たれる。
出現した彼の容姿に恐怖を抱いた者から順に、心臓を鷲掴みにされる恐怖が押し寄せた。
「がぁっ!? ひぃ、ひ……」
幾人かは呼吸を忘れ、
「ひ、ひぃぃっ」
神弓の勇者は弓を落とし尻持ちついて退ずさり。
「かひっ、っ……」
歌の勇者など過呼吸に陥りその場に崩れ落ちた。
ただ変身しただけで女神の勇者全てを恐慌状態に陥れた怪人フィエステリアに、ただ一人、猛毒の勇者だけは、この世界で手に入れたフランベルジュを引き抜き構える。
彼も震えていた。全身のブルつきが止まらない。
足は完全にガクガクとしていて立っているのもやっとだし、指先の感覚は既にない。
自分がちゃんと剣の柄を握っているのかすら分からない程、自分の体感が全く無くなっている。 それでも、青い顔でニタリと笑う。
「いいな。これこそラスボスだよっ。はは、すげぇ、なんだこの絶望感。くく、滾る、滾るなぁ! 魔王!」
「魔王じゃねーよ。俺は……「怪人フィエステリア。地獄の死神よ」」
フィエステリアが一歩踏み出し答える。しかしその声を遮り、ネリウが不敵に微笑み宣言した。
「女神の勇者。あなた達全員を、地獄に送り届けてあげる。私の夫がね!」
いや、あのネリウさん……ここ俺の台詞じゃない?
フィエステリアの怒りの矛先はネリウに奪われ、ぶつけどころを無くしてしまった。




