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プロローグ
「お父さん! お母さん! どこにいるの……っ!?」
鬱蒼と茂る木々が、少年の悲痛な叫びを無慈悲に吸い込んでいく。
幼き少年・信也は、大声で何度も、何度も両親の名を呼びながら、終わりの見えない暗い森の中を歩き続けていた。不揃いな足取りで、時に木の根に足を取られて転び、泥にまみれながらも、必死に前へ前へと足を動かす。
彼には分からなかった。自分がなぜここに一人でいるのか。そして――もう二度と、大好きな父と母に出会うことはできないのだという残酷な真実を、この時の彼はまだ知る由もなかった。
1時間、そして2時間……。
ただひたすらに歩き続けるものの、一向に森の出口へたどり着く気配はない。ただでさえ小さな少年の体力は、とうに限界を迎えていた。鉛のように重くなった足が、ついに縺れる。信也は地面を掻きむしるようにして、その場に力なく倒れ込んだ。冷たい土の匂いと、圧倒的な絶望感が意識を包み込み、視界が急速にブラックアウトしていく――。
「……信也? 信也、大丈夫!?」
優しく、けれどどこか焦燥を含んだ少女の声が、深い闇の底から信也を引っ張り上げた。
身体を激しく揺すられ、信也はハッと目を開く。
「ハァ……ハァ、ハァ……!」
肩を大きく上下させ、狂ったように息を切らしながら、信也は飛び起きるようにして身を起こした。全身を嫌な汗が伝っている。心臓が早鐘を打つ中、彼はひどく怯えた眼差しで、きょろきょろと周囲を見回した。
そこはあの薄暗い森の中ではなく、見慣れた、けれどどこか安心をくれるいつもの風景だった。
視線を正面に戻すと、そこには心配そうに自分を覗き込む少女の顔があった。彼女の瞳に宿る純粋な不安に触れ、信也の荒い呼吸が次第に、トツ、トツと静まり返っていく。張り詰めていた身体の余計な力が、ゆっくりと抜けていくのを感じた。
信也は乱れた息を整え、自分を悪夢から救い出してくれた少女に向けて、少し引きつった、けれど精一杯の笑みを浮かべる。
「……ごめん、起こしてくれてありがとう」
少女を安心させるようにそう告げた後、信也は自分の手のひらを見つめ、誰に言うでもなくぽつりと、小声で呟いた。
「――懐かしい夢を、見たな」
それは、彼が決して忘れることのできない、遠い過去の記憶の断片だった。




