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終わらない英雄譚! 世界を駆ける狐と、完璧なオペレーション

レオンが引き起こした未曾有の魔素パニックから数ヶ月。

 世界から完全に魔素は消え去り、異世界からのゲートが開くこともなくなった。

 だが――だからといって、この世界から「事故」や「災害」が消えてなくなったわけではない。


『――速報です! 北米の巨大ダムが決壊寸前! 下流の街に避難勧告が――ああっ!? 今、上空に……っ!』


テレビのニュースキャスターが絶叫する。

 画面には、濁流に飲み込まれそうになっている巨大なダムの壁面。しかし次の瞬間、上空に現れた漆黒の和装の男――『幻影の狐』が指を鳴らすと、数万トンの濁流が一瞬にして巨大な氷の彫刻へと姿を変え、ダムの決壊は防がれた。


『Phantom Foxだ!! 今日も狐様が世界を救ったぞ!!』

『彼は神だ! いや、地球そのものの守護者だ!!』


画面の向こうで世界中の人々が熱狂する中。

 当の狐である俺(天城カイト)は、ダムの凍結を確認した直後、瞬時に『空間転移』を発動してその場から姿を消した。



「……ふぅ。ただいま」

「お帰りなさい、天城くん! はい、冷たいおしぼりとお水!」

「お疲れ様、天城くん。肩、揉んであげるわね」


空間転移で東京・黒田邸の専用ラウンジに戻ってきた俺を、リカとナギサが至れり尽くせりのフル装備で出迎えてくれた。

 狐の半面を外してソファに深く腰掛けると、詩織ちゃんが手作りのフルーツタルトをテーブルに並べてくれる。


「天城くん、糖分補給してくださいっ。北米のダム凍結、テレビで見ました! すっごくカッコよかったです!」

「あはは、ありがとう。でも、さすがに地球の裏側まで飛んで水流を凍らせるのは、魔力を結構使うな……」


俺がタルトを頬張っていると、部屋の奥の巨大なモニター群の前に座っていた凛さんが、キーボードを叩く手を止めて振り返った。


「カイト様、お疲れ様です。……ですが、休む暇はあと『十二分』しかありませんわよ」

「えっ? 次、どこ!?」


「オーストラリアで大規模な山火事です。コアラの群れが逃げ遅れています。……その鎮火が終わり次第、ヨーロッパで発生した豪華客船の座礁事故の救助。それが終われば、本日の『狐様・世界救済シフト』は終了し、明日の学校の準備に間に合います」


凛さんは眼鏡をキラリと光らせながら、分厚いタブレットで俺のスケジュールを完璧に管理していた。

 そう。魔素が消え去った今、俺のヒーロー活動は『黒田グループの最新鋭AIと衛星ネットワーク』によって、完全にシステマチックなワンオペ救助活動へと進化していたのだ。


「うぅ……コアラは助けないと……。でも、なんか俺、世界規模のウーバーイーツ配達員みたいになってないか?」

「何を仰いますか。現在のカイト様は、世界で最も尊く、最も忙しい『地球の救世主』ですわ。ちなみに、先ほどのダム救助の映像はすでに公式チャンネルで配信され、3分で1億再生を突破しました。関連グッズの売上も絶好調です」


凛さんが誇らしげに胸を張る。

 レオンの事件以降、俺の正体は世間には隠したままだが、『幻影の狐』のライセンスは黒田グループが完全に独占している。世界中から集まる莫大な利益は、俺の活動資金と、この「平和な日常」を守るための防壁強化に惜しみなく使われていた。


「でも、天城くんが毎日世界中を飛び回ってて、少し寂しいな……」

 リカが、俺の隣に座って肩に頭をコテンと乗せてくる。

「そうね。世界を救うのも大事だけれど……私たちとの時間も、ちゃんと作ってほしいわ」

 ナギサも、反対側の隣に座ってそっと腕を組んでくる。

「わ、私は……天城くんが帰ってくるこの場所を、ずっと温かくしておきますからっ」

 詩織ちゃんが、ニコニコしながら温かい紅茶を淹れてくれた。


世界中から助けを求める声が聞こえる。

 100年のサバイバルで得たこの力は、誰かを見捨てるためにあるんじゃない。だから俺は、これからも狐の面を被って世界を飛び回るだろう。

 でも、俺がどれだけ遠くへ跳んでも、どれだけ過酷な現場に飛び込んでも。


「……ありがとう。絶対、すぐに帰ってくるから」


俺には、この騒がしくて、温かくて、少しだけ愛が重い『日常』という帰る場所がある。


「ピーッ! カイト様、オーストラリアの火の手が強まりました。出撃の準備を」

「了解。――『幻影の狐』、行ってくる!」


俺は再び狐の面を被り、愛する日常を守るために、そして世界中のSOSに応えるために、大空へと転移していくのだった。

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