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招き猫と魔法の箱、密室は戦場なり

週末の大型ショッピングモール。

 俺は今、不可侵条約を結んだはずのヒロイン三人(+影の護衛一人)と共に、平和そのもののはずの休日を過ごしていた。


「見て見て天城くん、あのお店! 猫カフェだって、可愛くない!?」


詩織が、いつもより少し弾んだ声で指を指したのは、ガラス張りのオシャレな猫カフェだった。

 リカが「お、いいじゃん! 映えそうだし!」と賛成し、ナギサも「たまには動物と触れ合って心を静めるのも武道の修行に通じるわね」と、もっともらしい理由で頷いた。


こうして俺たちは、五人(凛さんは店外で待機)で猫カフェへと足を踏み入れた。


「わぁ……可愛い……」


詩織が目を輝かせて、近くにいたスコティッシュフォールドに手を伸ばす。

 だが、異変はすぐに起きた。


ニャッ!?

 フシューッ!!


詩織が近づいた瞬間、さっきまで丸くなって寝ていた猫たちが、一斉に飛び起きたのだ。それどころか、店内の全猫が、何か恐ろしい上位存在でも見たかのように、一斉に俺の方を向いて直立不動になった。


「えっ……? みんな、どうしたの?」

「天城くん、なんか猫たちがアンタをガン見してんだけど……」


リカの言葉を合図にしたかのように、猫たちが動いた。

 一匹、また一匹と、俺の足元に集まってきて、まるで臣下が王に謁見するかのように、深々と頭を下げて伏せ始めたのだ。


「……? なんだ、みんな人懐っこいんだな」


俺が床に座ると、待ってましたと言わんばかりに、十数匹の猫が俺の膝、肩、さらには頭の上にまで登り詰め、あっという間に俺は『猫のピラミッド』の中心部と化した。


(……あぁ、そうか。100年のサバイバルで染み付いた俺の覇気が、猫たちには『生態系の絶対的頂点』に見えてるのか。……とりあえず、敵意がないことを示すために、少し魔力を柔らかく放出してやるか)


俺が微弱な『癒しの魔力』を纏わせると、猫たちは天国にでも昇ったかのような恍惚の表情を浮かべ、ゴロゴロと雷鳴のような喉鳴らしを始めた。


「ちょ、ちょっと天城くん! 猫独り占めじゃん! ずるい!」

「私には一匹も近寄ってこないのに……! 天城くんの膝、私も座りたい……じゃなくて! 猫になりたい……でもなくて!」


リカが羨ましそうに地団駄を踏み、ナギサが顔を真っ赤にして支離滅裂なことを呟いている。

 詩織にいたっては、俺の膝でとろけている猫を見て「……代わってください」と、小声で猫に対して本気の嫉妬心を燃やしていた。



猫カフェで(主に俺だけが)癒やされた後、次はリカの提案でゲームセンターのプリクラコーナーへ向かった。


「はいはい! 抜け駆け禁止なんだから、四人で撮るよ! 天城くん、真ん中ね!」


有無を言わさぬリカの仕切りで、俺たちは最新式のプリクラ機の中へと押し込まれた。

 ……が、狭い。

 成人男性の俺と、女子高生三人が入るには、あまりにも密室すぎる。


「ちょ、神宮寺さん、押さないでよ! 私が天城くんの右隣なの!」

「仕方ないでしょう、狭いんだから! ……あ、天城くん、ごめんなさい。腕、当たってるわね……」

「ひゃぅっ……あ、あの、天城くんの背中が、すぐそこに……」


右からはリカの柔らかい感触が、左からはナギサの引き締まった、けれど確かな女の子の体温が。そして背後からは詩織の控えめな、しかし必死な密着が伝わってくる。


「画面の指示に従ってポーズしてね! はい、次は『ぎゅっとしてポーズ』だよ!」


機械の無慈悲なアナウンスが響く。

 リカが「これならルール違反じゃないもんね!」と俺の右腕にこれ以上ないほど密着して抱きつき、ナギサも「……ポーズの指示なら、仕方ないわ」と覚悟を決めた顔で左腕をホールドしてきた。

 詩織は、真っ赤な顔で俺の制服の裾をギュッと握りしめ、ひょこっと肩越しに顔を出している。


(……この密室。女子高生三人の匂いと熱量。100年の戦場でも、こんなに心拍数が上がったことはないぞ……。耐えろ、俺の理性をフル稼働させるんだ!)


パシャッ! パシャッ! と、フラッシュが焚かれるたびに、俺の一般人としてのライフが削られていく。


ようやく撮影が終わり、外の落書きコーナーで出来上がった写真を確認すると。


「……えっ?」


そこに写っていたのは、最新の補正機能によって、より一層「伝説の美男子」のようになった俺と、幸せそうに(あるいは必死に)密着する三人の美少女。

 ……そして。


「……ねぇ、この写真の右端、見て」


ナギサが震える指で、背景の隅っこを指差した。

 カーテンの隙間から、完璧なアングルと、一切の隙がないモデルのようなキメ顔、そして「指ハート」を完璧に作り上げた凛さんが、バッチリと写り込んでいたのだ。


「凛さん、いつの間に……っ!?」

「『カイト様の初プリクラ、背景としてお守りするのは秘書の務めです』……って、後で絶対に言うわね、あの人」


リカが呆れたように溜息をつく。

 出来上がったプリクラシールを、四人で(凛さんの分も合わせて)等分に切り分ける。

 

「……天城くん。これ、お守りにするね」


詩織が、俺たちの密着した写真を宝物のように胸に抱えて、小さく微笑んだ。

 ナギサも「……財布の、一番大事なところに入れておくわ」と真剣な顔で頷き、リカは「私はスマホの裏に貼る! これで一生離れないし!」と宣言した。


(……あぁ、これが平和か)


四人の笑顔を見て、俺は柄にもなく、そんなことを思っていた。

 背負った過去は重くても、今この瞬間、この騒がしくて温かい日常を、俺は心の底から守りたいと感じていた。


……しかし。

 プリクラ機の外で、涼しい顔をして俺たちを待っている凛さんの、その手元にある端末が、不気味なアラートを発していることに。

 そして、先ほどから俺の肌をチリチリと刺すような、あの『不快な魔力の残滓』が、この賑やかなモールの中にも微かに混じり始めていることに。

 俺はまだ、完全には気づいていなかった。

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