終わりは幸せ
穏やかな風景に目を細めた。
小さな少女が顔を真っ赤にして泣いている。
ジュリエットの産んだ長男は先日成人を迎えた。12歳の次男はよく年の離れた妹の面倒を見ているが、遊びが違い過ぎる。まだ7歳の少女には兄について行くことができず、大泣きだ。
泣きだした妹を宥めるために、長男が優しく彼女を抱き上げた。宥める様に背中をさすっている。不貞腐れているのは次男だ。泣かせたいわけではないのだろうが、結果的には泣かせてしまって長男に何やら言われているようだった。
ジュリエットがその様子を見て、子供たちの方へとやってくる。孫娘は母親にしがみつき、色々と訴えていた。
ジュリエットと3人の孫たちを見つめ、隣にいる彼女に声を掛けた。彼女もじっと彼らを見つめている。その目は優しく、とても幸せそうだ。
放っておけばいつまでも見続けているのではないかと思うほどだが、俺は遠慮しながらもこちらに注意を向けてほしくて声を掛けた。
「ジョディ、そろそろいいと思うのだが」
「そうね」
「ジュリエットの夫は気に入らないが、あの子を幸せにしたのは間違いない」
「ふふ、エルズワース様は相変わらずね。素直に褒めればいいのに」
素直に、と言われて顔をしかめた。確かにウィリアムは前宰相の養子となり、俺の次の宰相として鍛えた。元々素質があるのか、かなりハードだったがすべてに食らいついており、俺は予定よりも早めに引退できたのだ。
おかげで一番年下の孫娘の成長は赤子の時から見ることができた。予想通り、ウィリアムは宰相になってから仕事が忙しく、なかなか家族との時間が取れないでいる。
ざまぁみろと、思いつつも、俺と同じようになるなと心の中ではエールを送っていた。
俺の複雑な心境に気がついているのか、おかしそうにジョディが笑う。そしてふわりと優しく抱きしめられた。
「ありがとう。一人で大変だったでしょう?」
「そうでもない。楽しかったさ」
「そう? それならよかったわ」
ジュリエットのためにと色々と動いたことがいい思い出となっている。周囲の人を巻き込んでやりたいようにやった。これっぽちも悔いはない。
「俺がいなくてもジュリエットの幸せは揺るぎない」
「エルズワース様、本当にいいの?」
「ああ。今度はジョディと一緒にいる時間が欲しい」
「我儘ね」
そう言いつつも、ジョディは嬉しそうに頬を染めた。
もう一度、目に焼き付ける様にジュリエットと子供たちを見つめた。
このまま俺がいなくなっても、多少は悲しむだろうが俺に捕らわれることはないだろう。それを寂しいと思っても、仕方がないことだ。
「ねえ……」
ジョディの声が途中で途切れた。
「お祖父さま? 寝ているの?」
遠くで孫娘の声がする。力を振り絞って目を開ければ、大きな目が覗き込んでいた。
「ああ、そろそろ休もうと思う。ジョディも迎えに来たからな」
「ジョディ? 誰? お母さまのお友達?」
次々に疑問を投げかけられたがそれに応えず微笑んだ。
目を閉じれば、ジョディがいる。ジョディはゆっくりと俺の方へ手を差し出した。
俺は俺の幸せのために彼女の手を取った。
Fin.




