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後宮妃王国総記伝  作者: 由良 椿
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あぜ道

「馬鹿野郎共っ!!」

そう言って、玉凜は自分をさらった一列に並んだ男どもをぶっ飛ばす場面を息を殺すように見ていた。

いつ、あの怒りがこちらに向くのかと思うだけで指の先から血の気が失せる。


暗いボロ小屋。玉凜が使者の男と引き離されて連れて来られたのは隙間風が多く広さが寒さに拍車をかけるような所だった。

うようよと男たちが雑多な木箱や地べたに直接腰を据え、酒を煽りながら今回制裁らしきものをうけている若い男どもと玉凜を愉快そうに見ていた。


(無事に返してもらえるのだろうか)


誘拐された事が生家にも嫁ぎ先にも知られてしまったらもう玉凜の行く場所はない。

ありえないが、例え無傷で返されても夜盗に誘拐された身、世間は傷物と扱うだろう。


すると先程まで若造達をギチギチに締めていた男が振り向く。

年の頃は、下手をしたら玉凜よりも年下なのでは?と思わせる女の玉凜とそう変わらない背丈だが、振り向いた鋭い目つきと、女の玉凜に微塵もといていない警戒する目がこちらを捉えた。思わず「ひっ」っと恐怖の音が溢れるかと思いきやカラカラの喉はつばを飲み込んだだけだし、玉凜の中にわずかにあった冷静さや、やけくそのように一矢報いてやろうではないかという思いも眼光の鋭さにぽっきり折れてしまっていた。


玉凜は最悪を想定し、人ならざる扱いを受けるくらいなら、帰る場所はもはや何処にもない。自らをもって天に命を献上しよう。と覚悟し舌の根を切ろうとしたとき

確かに血の味がしたが、玉凜が噛んだのは自らの舌ではなく、先程まで男どもをぶっ飛ばして男の指だった。

「お前なに馬鹿な事してんだ。確かにコイツラの馬鹿に巻き込まれたことは不運だが命をほいほい天にやっちまうお前みたいな奴がいるから御上の連中が調子に乗るんだ。少しは与えられたものを有効活用してみろっての」


男は玉凜がびっくりしてもう自害の心配がないとみるや指を引き抜き、血と唾液で汚れた指を不衛生そうな服で拭おうとしていた。


「あの…これを」


玉凜は今でもあの時、なぜああしたのかわからない。

花嫁道具の一つとして持っていた豪奢な刺繍の入った布地を差し出したのだ。


本来未来の旦那様へ裁縫の技術を見せると同時に親愛を込めて渡すならいの懐布。

玉凜はもう、どうせ不要になったのだから別にいいだろうと差し出したのだが、目の前の男は違ったようだ。まだ若いのに刻まれた眉間の皺を深くし、鋭い目が更に上る。


「お前、これ花嫁道具だろ。なにしてんだ。」


「えっ、あの、もう不要のものですし、私が噛んでしまったので、あの、少しでも清潔な布で手当を…」


「あほか。お前なに諦めてんだよ。今回うちの馬鹿どもの馬鹿に巻き込まれたのは悪かったが、渡す相手が違うだろうが。」


「いえ、この先どうなるかわたくしには検討も付きませんし、無事帰れたとしても、夜盗に誘拐された時点で私の清い身を信じるものはおりませんでしょう。」


顔はえらく悪人面だが、相手の頭が、玉凜に危害を加える様子が一向にないためか、玉凜は次第に指の感覚がほぐれ、落ち着いていた事に気がついた。


「ですから、もう不要なのです。よろしければ使ってください。」


そう、すっと男の前に差し出すと眉間の皺が取れる代わりに深い溜息と共に受け取ってもらえた。


「あいつらが悪かったな。せめて生家まで送ってやるよ。もちろんお前を誘拐したやつとは別のやつにする安心しな。」


「いえ、それも不要なのです。」

玉凜の目に薄い水の膜がはる。


顔を上げられない玉凜と何か察した男の間に気まずい空気が流れる。


だがそれを破るように暗い小屋に響き渡る声で一列にならんだ野郎どもから、なんとも空気の読めない声が次々にあがる。

「ほら!やっぱり占いが当たってたんじゃないっすか!せっかく頭のために連れてきたんですからそのまま祝言でも上げちまいましょ!」

「馬鹿かお前は!直接言って頭が首を立てにふるかっ。部下の失態の責任~とかなんとか頭が頷き易い方向に持ってくってはなしだろっ!!お前聞いてなかったのかっ!!」


男どものやいのやいのの話を聞いているとどうやら玉凜はここの頭の嫁になるために攫われたらしい。


ブチギレた男がいつの間にか列にいた下っ端共を再度殴りつけ、抑えようとする輩、便乗して喧嘩を楽しみたい輩で乱闘状態になっている。


玉凜は巻き込まれないように壁に密着し、取り敢えず大悪党に捕まったのではないと安堵した。


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