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10.なんちゃって恋の終わり

しんと静まり返った部屋。

気まずさに目を伏せる男と、それを睨みつける女がいる。


夏の夜。

エアコンの効いた部屋でいるにもかかわらず、男の背にはじっとりとした汗が伝う。


「好きって、言ったじゃない」


女が言う。

男は困り果てた表情で答えた。


「あれはその……、なんていうか適当に」


「適当!?」


一瞬にして女の怒りのボルテージが上がる。男は散々、言葉を選んだ結果、地雷を踏み抜いたのだった。


「ひどくない!?もっと言い方あるでしょぉ!?」


怒り狂う女を前に、動揺した男は必死で言葉を重ねた。


「悪かった!仕事のこと考えてる時に聞かれたから、つい適当に」


ギリギリと歯をくいしばる女は、今にも殴りかかりそうになる。

テーブルの上に並んだ食事が、冷たくなりつつあった。


再び静けさを取り戻した部屋。

ごまかそうと必死に笑みを浮かべる男を見て、女は恨みのこもった声を絞り出す。


「……嫌いなの?」


「そこまでは」


「じゃあ!」


「苦手なんだ。ごめんだけど」


とうとう出た死刑宣告に、女は悲しそうに眉を寄せる。

それを見た男は慌ててフォローを始めた。


「もちろん、気持ちには応えたい」


「無理なんてされたくない」


「無理とかじゃない。できるだけがんばる」


「好きじゃないなら、捨てればいいじゃない!結局、伸び伸びになっても最後は捨てられるんでしょう!?」


「ごめん」


潔く謝るが、女の怒りは収まらない。


「ごめんで済んだら警察いりませんけどぉぉぉ!?私の時間を返してよ!!」


ーーダンッ!!


女がテーブルに拳を叩きつける。


もう何度目になるかわからない喧嘩。


男は開き直り、腕組みをして言った。


「焼うどんだけは無理なんだ!

俺が食べたかったのは皿うどん!!揚げ麺のパリパリが好きなんだ!」


その尊大な態度がさらに女を頑なにさせた。


「こっちは仕事帰りで疲れてるのに、頑張って作ったのよ!?朝、焼うどん好きって聞いたら好きって言ったじゃん!

ほんっと、いい加減にしてよお兄ちゃん!」


冷めきった焼うどんを前に、兄妹喧嘩はいつも通りの軍配があがる。


「残さず食べてね!捨てるなんて許さないから」


黒い笑みで迫る妹。兄は諦めて箸を持つ。


「なるべく頑張って食べる」


「なるべく?」


「努力します」













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