【51】休暇の過ごし方 ~竜狼相搏つ?〈前編〉~
書籍化記念の連日投稿三日目。
いよいよ後がなくなってきてどうしようかと思案中です(´・ω・`)
ファーレン郊外。
ヴィルム達がファーレンへと戻ってきてからというもの、とある一角において連日のように人集りが出来るようになっていた。
ヒュマニオン王国でも同じような事があったが、原因もその時と同じでハイシェラの存在である。
人に対して危害を加えようとしない巨大な飛竜を一目見ようと、ファーレンの住民や冒険者達が集まってきているのだ。
すでにヴィルムの飛竜という事実が浸透している為、余計なちょっかいをかける者はいない。
それどころか、中には持参した肉類をハイシェラに与える者までいた。
そんな中、ヴィルムはハイシェラのブラッシングをしつつ、ある事に頭を悩ませていた。
(まいったな。里帰りするのにハイシェラは目立ちすぎる。一緒に連れて帰れば里の位置が知られる事になるし、かといってこれだけ忠実に従ってくれてるこいつだけを置いていく事はしたくない)
すでにメルディナやクーナリア、ミゼリオと同様に、ハイシェラを仲間と認識しているからこその悩みなのだろう。
『クルゥ?』
思案顔のヴィルムを気遣っての事か、ハイシェラは『何かあったの?』とでも言いたげに首を傾げる。
「ん、何でもない。他に痒い所はないか?」
『クルァァン』
「よし、じゃあここまでだな。後で飯を持ってくるから、少し待っててくれ」
ハイシェラの首筋を軽く撫でながらも、里へ帰る方法を考えるヴィルム。
(『ヴィー兄様、今、大丈夫?』)
(「フー? 急にどうしたんだ?」)
思考に集中しながら歩いていたヴィルムは僅かに反応するが、即座に声の主を特定すると、周囲に気付かれないよう無表情で対応し始めた。
(『ん、この前、里に帰ってくるって、言ってたから、いつ、帰ってくるのかなって、思って』)
(「あぁ、そうか。すぐにでも帰りたかったんだけど、ちょっと問題があってね。ハイシェラの事なんだけど、一緒に連れて帰るのは目立ちすぎるかなってね」)
(『ハイシェラ・・・この前拾った、おっきな飛竜、だったよね?』)
里に帰るにあたってハイシェラをどうするか悩んでいる事を伝えると、僅かな沈黙の後、一人で頷くフーミルの声が届く。
(『うん、うん・・・ヴィー兄様、大丈夫。フーに、いい考えが、ある』)
(「いい考え?」)
(『ハイシェラと一緒に、バレないで帰ってくる方法。だから、今日の夜、ハイシェラとお話させて? 出来れば、広い所がいい』)
(「わかった、夜だな。準備が出来たら喚ぶよ」)
(「ん、待ってる」)
フーミルとの念話を終えたヴィルムは、ハイシェラに食事用の肉類を持って行くに加え、今晩出掛ける事を伝えた。
ヴィルムの命令に否はないハイシェラは、一声鳴いて承諾の意を表した後、自らの主人が持ってきてくれた肉を美味しそうに頬張るのだった。
* * * * * * * * * * * * * * *
その日の夜、ハイシェラに乗って人気のない山陰までやってきたヴィルムは、約束通りフーミルを喚ぶ。
「降臨〈白狼姫アトモシアス〉」
ヴィルムの喚び掛けと共に、突如として出現した竜巻が弾け、フーミルが顕れる。
『ヴィー兄様・・・!』
その視線がヴィルムを捉えると同時に、常人には目で追えない速さを持って彼の背後から抱き付くフーミル。
以前にも同じような事があったが、フーミルにとってのベストポジションなのだろうか。
『スンスン・・・クンクン・・・は~、落ち着く』
匂いフェチ(ヴィルム限定)も相変わらずのようだ。
ヴィルムの方は、特に急ぐ訳でもないという事もあり、フーミルの好きにさせるつもりのようだ。
面識のないハイシェラは、フーミルの出現に驚くものの、主人が喚び出した事と仲の良い雰囲気を察してか、大人しく見守っている。
若干、フーミルへと向けた視線が、羨ましそうに感じられる気もするが・・・。
しばらく経った後、ようやく満足したのかヴィルムから離れたフーミルは、軽快な足取りでハイシェラの前に移動すると、あちらこちらを観察するように忙しなく動き回る。
対して、主人と仲が良い=自分より格上と思ったらしいハイシェラは、その場で伏せの態勢を維持して微動だにせず、フーミルの観察が終わるのを待っていた。
『・・・ん。大体わかった。予想はしてたけど、ハイシェラは風属性。これなら、大丈夫』
「なるほど、そういう事か」
どうやらフーミルはハイシェラの適合属性を調べていたらしい。
結果は予想通りであったらしく、それを聞いていたヴィルムもフーミルが何をしたいのか理解したようだ。
『ん。ハイシェラを、フーの眷族にする。眷族になって、半分だけ精霊になれば、身体の大きさくらい、変えられる。誰にも見つからないで、里に帰れる』
「ありがとう、フー。その案に乗らせてもらうよ」
『ヴィー兄様の手、気持ちいい・・・。でも、思ってたより、ヴィー兄様の匂いが強いのは、どういう事?』
ヴィルムに撫でられて御満悦なフーミルだったが、ふと気付いた事を口にする。
「昼くらいにブラッシングをしてたからじゃないか? 身体が大きいから手入れの時間がかかるし、それで匂いが移ったのかもな」
『ブラッシング・・・!? なんて甘美な響き・・・。ハイシェラ、ズルい、羨ましい・・・』
『ク、クルァ!?』
好意的だった視線が一転、威圧の込められた視線を向けられたハイシェラは、助けを求めるようにヴィルムへと視線を移す。
「あー、フーが望むなら、ブラッシングくらいするぞ?」
『情けは、無用。ハイシェラ、ヴィー兄様の、ブラッシングを掛けて、いざ、勝負!』
いつの間にか、フーミルの中で勝負する事になったらしい。
一応、止めに入ったヴィルムだったが、フーミルのやる気の前に強く言えなかったようだ。
敵視する訳でもなく、むしろ最初から服従に近い対応をしていたハイシェラからしてみれば、まさに青天の霹靂と言えるだろう。
流石に戦闘だとフーミルが完封してしまうのが目に見えている事もあり、ヴィルムの提案で速さで勝負する事になった。
コースは単純で、山の周囲を先に十周した方が勝ちというもの。
単なる速さだけであれば、フーミルの方が圧倒的に速い。
しかし、短時間なら空中を駆ける事は可能だが、上昇と下降を繰り返せば結果的に走行距離が延びてしまう。
その為、フーミルは障害物になりうる木々や岩を避けながら進まなければならなくなる。
継続的に空を飛んで最短距離で周回出来るハイシェラにも、十分に勝機はあると言えるだろう。
「フー、ハイシェラ、準備はいいか?」
『ん。いつでも』
『クルァァァン!』
ヴィルムの言葉に、姿勢を低くしながら答えるフーミル。
始めは乗り気でなかったハイシェラも、主人であるヴィルムに気を使ってもらった事と、勝者にはブラッシングという賞品がある事もあり、今はやる気に満ちている。
「両者、構え・・・」
フーミルはスタートダッシュの為に、ハイシェラは瞬時に飛び立てるように両足に力を込めて合図を待つ。
「スタートッ!」
風を司る狼の精霊と、空を自由に駆け巡る飛竜の勝負が、幕を開けた。
久しぶりのフーミル登場回でした。
作者的にはラディアをもっと出したいのですが、なかなか自然に出せる話が思い付きません。
里帰りの際はヴィルムにお酒持たせてあげようかな(汗)
お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。




