【50】休暇の過ごし方 ~ セム爺、爆誕 ~
書籍化記念の連日投稿二日目。
ストックほぼない状況で無謀だったかなと早くも後悔中。
商人ギルドにて、ナナテラにクーナリアの採寸をしてもらってから数日。
その日の夕暮れ刻、ヴィルム達三人はアッセムからの呼び出しを受け、彼の店へと向かっていた。
どうやら鎧が完成したらしい。
流石、ドワーフといった所だろうか、その仕事の早さには舌を巻かざるを得ない。
手順を踏み、地下にある店へと入ると、目の下に隈を作ったアッセムが明るく出迎えてくれた。
「待ってたぜ。頼まれてた鎧が完成したから、早速試着してみてくれ。最後に細かい調整だけしちまうからよ。鎧は奥の部屋だ」
「わかりました。ちょっと着てみますね」
「私も行くわ。一人だと上手く着れないかもしれないし」
挨拶もそこそこに、出来上がった鎧が準備されているという部屋へと向かうメルディナとクーナリア。
二人が部屋の扉を閉めた後、ヴィルムはアッセムの方へと向き直る。
「随分と無理したみたいだな。大丈夫か?」
「がっはっはっはっ! ついつい作るのに集中し過ぎちまってなぁ。ま、こんなもん疲れの内に入らねぇよ」
事実、快活に笑うアッセムからは、目の下に出来た隈以外に疲れた要素が感じられない。
彼らが雑談で時間を潰しながらしばらく待つと、奥の部屋に続く扉がゆっくりと開かれた。
出てきたのは当然ながら、メルディナとクーナリアの二人。
「あ、あの、どうですか・・・?」
鎧はクーナリアの両肩と、二つある巨星の南半球から下腹部まで覆うタイプの、言わば胴当てに近い。
スカート状に造られた下部に加え、四肢にはガントレットとグリーヴ。
部分的な装備である為か、幼い見た目であるにも関わらず違和感は感じられないが、当の本人は初めて着る鎧の重量と慣れない感触に戸惑っているらしく、若干不安そうな表情を浮かべてヴィルムを見ていた。
「フルアーマーだと動きづらいからな。それなら間接の可動を制限しない上に、緊急時にはガントレットやグリーヴでガードも可能だ」
説明しつつニヤリと口角をあげるアッセムは、どうだとばかりに胸を張る。
「なるほど。クーナリアにはぴったりだな」
「ッ!?」
誉め言葉とも受け取れるヴィルムの言葉だが、実際には「クーナリア(の戦闘スタイル)にはぴったりだな」という解釈が正しい。
しかしそうとは気付いてないクーナリアは、珍しく誉められたと思い込み、慌てて赤面した顔を伏せてしまった。
その後、実際に身体を動かしてもらいながら鎧の微調整を済ませたアッセムに鎧の代金を渡し、改めて店内を回り始めるヴィルム達だったが、ふとメルディナが何かを思い付いたように口を開く。
「そう言えば、アッセムさんが生産ギルドの総括を降りるって聞きましたけど、本当なんですか?」
「あぁ。正確にはまだ降りてないが、次の総括が決まればすぐに降りる事になっとる。あんな奴らの総括なんぞ願い下げだわい!」
メルディナの質問に答えていたアッセムだったが、次第に先日の怒りを思い出してきたのか、段々と語尾が荒くなり始めた。
「落ち着けよ。二人が驚いてる」
「む・・・すまん」
「だ、大丈夫ですよ。でも、アッセムさんがそんなに怒るなんて何があったんですか?」
クーナリアが怒りの剣幕に面食らいつつもその理由を聞くと、アッセムは深い溜め息を吐いた後、少しバツが悪そうに話し始める。
「以前、ヴィルム殿から炎の魔石を貰った事があっただろう?」
「あぁ、それがどうしたんだ?」
「ドワーフとして恥ずかしい話なんだが・・・あの魔石、内包されとる魔力が多すぎて加工する事が出来んかったんだ。そしたらあの馬鹿共め! 魔石をオークションにかけて、その金をギルドの為に使おうと言い出しよった!」
余程、腹に据えかねていたのだろう。
先程までの職人としての恥を晒す事を躊躇していた気配は微塵もなく、再燃した怒りに身を任せている様子だ。
「生産職でありながら、素材の加工が難しい程度で諦めるような軟弱者共の面倒を見てやるのがアホらしくなってな。怒鳴り散らして出てきた所をヴィルム殿と嬢ちゃんに聞かれてた訳だ」
話し終えたアッセムの表情は暗い。
先の言動から考えれば、総括を降りた事ではなく、ヴィルムが渡した魔石の加工が出来なかった事に対して落ち込んでいるのだろう。
(『ヴィルム~、聞こえる~?』)
(「ヒノリ姉さん? 聞こえるよ。どうしたの?」)
前触れのないヒノリからの念話に、表情を変えずに対応するヴィルム。
(『今の話聞いてたんだけど、実は外界に出てみたいって言ってる子がいるのよ。流石に一人じゃ危ないし、アッセムになら預けられるんじゃないかなって』)
(「それは・・・大丈夫かな?」)
(『ドワーフ族は炎の精霊を信仰してるから大丈夫だと思うわよ? 特にアッセムは私の姿も見てるからね。それに、出来るだけこの子の意思も尊重したいわ』)
赤の他人に里の精霊を預けるという提案を聞いて難色を示すヴィルムだったが、その精霊の意思とヒノリの説得により認める事にしたようだ。
「アッセム、ヒノリから話があるらしい。喚んでもいいか?」
「ワ、ワシにか!? ヒノリ様の勘気に触れる事でもしてしもうたんだろうか」
自身が神の如く崇めるヒノリから話があるという事に不安を覚えたアッセムは、先程までとは打って変わり、怯えに近い表情を浮かべている。
「いや、ちょっと頼みたい事があるんだとよ」
「そ、そうか。むさ苦しい所で申し訳ないが、ヒノリ様が良いのであればワシに否はない」
「わかった。三人共、少し離れてくれ」
三人が後ろへと下がると、ヴィルムは魔力を集中し、詠唱し始めた。
紡がれた魔力が魔法陣を形成し、異なる空間を繋げる扉となる。
所狭しと動き回る炎が一点に収束し、その炎を内側から呑み込むようにヒノリの姿が顕れた。
『ヴィルム、無理言ってごめんね? 喚んでくれてありがとう』
「構わないさ。アッセムに用があったんだろ?」
開口一番、自分への気遣いを口にするヒノリに笑顔で答えたヴィルムは、アッセムへの用件を促す。
メルディナとクーナリアへの挨拶もそこそこに、本来の交渉相手であるアッセムの前に移動してきたヒノリを見て、当の本人は緊張のあまり、直立不動で固まってしまった。
『そんなに緊張する必要はないわ。あの時と違って、ヴィルムの事を受け入れてくれてる貴方を害するつもりはないわよ?』
「ワ、ワシのような者にお声をかけて頂き恐縮でございます。ヴィルム殿より頼み事があると聞いておりますが、ワシでよろしければ全力を持って完遂する所存。何なりとお申し付け下さい」
以前に比べると、ヒノリの口調はかなり砕けた感じになっているのだが、神に匹敵する存在が目の前にいるアッセムには関係ないようだ。
(ドワーフ族が炎の精霊を信仰してるって話は本当なんだな。この様子なら・・・大丈夫そうか)
方膝を着いた拝礼の態勢でヒノリと話すアッセム。
その様子を注意深く観察していたヴィルムは、アッセムの言動に嘘や偽りは混じってないと感じていた。
『という訳で、私の眷族を一人預かってもらえないかしら?』
「ヒノリ様の頼みでありますれば。このアッセム、身命を賭して精霊様をお預かりさせて頂きます」
『そんなに気を張らなくてもいいんだけどね。契約が済めば簡単には手出し出来ないし。万一、何かがあっても私が気付けるし』
実際には眷族ではなく家族なのだが、そう表現した方がアッセムも受け入れやすいだろうというヒノリの配慮である。
気負い過ぎているアッセムを宥めながら、空に差し出した手に小さな炎を生み出すヒノリ。
くるくると動き回っていたその炎は、彼女の肩あたりまで移動すると、ポンという軽い音を立てて弾け飛ぶ。
そこにいたのは、手のひらに乗れるくらいの女の子。
ヒノリと同じ紅い髪と眼を持つその精霊は、物珍しげにキョロキョロと視線を動かしている。
『ほらクリム、この人が今日からお世話になるアッセムよ。ご挨拶しなきゃ』
『わかった! クリムの名前はクリムだよ! よろしくね!』
クリムと呼ばれた精霊は、ヒノリに挨拶を促されるとすぐに頷き、元気良く自己紹介する。
「ワ、ワシはアッセムと申します。クリム様、むさ苦しい所ではありますが、どうぞお寛ぎ下さい」
『アッセム・・・じゃあセム爺だね! よろしく!』
「(っ!?)」
クリムが無邪気な笑顔で返した瞬間、アッセムに言い表す事の出来ない衝撃が走った。
(な、なんだ? この胸を掻き回されるような感覚は。今までに感じた事のない感覚だ。しかし不快感はない・・・。むしろ幸福感さえ感じる・・・)
『それとね! クリムは火を操るの得意だから、セム爺のお仕事のお手伝いも出来るよ!』
「(うっ!)」
初めての感覚に戸惑いを隠せないアッセムに、幸福の追撃弾が炸裂する。
『あとねあとね? クリムはセム爺のお世話になるんだから、敬語はいらないんだよ? クリムって呼んでね?』
「(ぐはぁっ!)」
更に追撃の手を弱めないクリムの猛攻に、アッセムの精神は陥落する寸前まで追い詰められてしまった。
『その様子なら仲良くやれそうね。クリム、勝手に出歩いたりしちゃダメよ? アッセム、クリムの事、よろしくね?』
『わかった! クリム、いい子にするよ!』
「う、承りました・・・」
その後、ヴィルムとヒノリのサポートを受けながらも、アッセムとクリムの契約は無事に完了した。
数日後、再び店を訪れたヴィルム達が見たものは、見事に爺馬鹿と化したアッセムの姿だった。
アッセムみたいな頑固親父な人程、孫馬鹿になる可能性が高いと思う(作者の主観)
ミゼリオとクリムは少し似ていますね。
ただ、ミゼリオは負けず嫌いな元気っ娘、クリムは好奇心旺盛な元気っ娘といったイメージを持って執筆しています。
お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。




