表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/115

【49】休暇の過ごし方 ~お風呂に入ろう~

書籍化記念の連日投稿一日目です。

紳士の皆様、お待たせしました(笑)

商人ギルドの大浴場。


商人ギルドが有する、本来であればその職員や加入している者しか入れない入浴施設である。


商人ギルド創設当時から存在するこの大浴場だが、しっかりと清掃が行き届いている為か、古びた感じというよりは年季に趣を感じさせると表現した方がしっくりくるだろう。


「うわぁ! 広いですね~!」


脱衣所から続く引き戸を開け、最初に入ってきたクーナリアが感嘆の声をあげる。


幼さの残るあどけない顔の下には、彼女が牛人族という事を考慮しても大きすぎると判断せざるを得ない、巨大な二つの物体が揺れ動いている。


「商人ギルド自慢の大浴場ですわ。この時間は貸し切りにしましたさかい、ゆっくりしていってったって下さい」


続いて入ってきたのは、全体的に引き締まっていながらも出ている所はしっかりと出ている、メリハリボディを持ったナナテラ。


「商談に色気を使うのは邪道」と、普段は着痩せしていたらしい。


「貸し切りって・・・ありがたいですけど、それって職権乱用なんじゃないですか?」


最後に、ナナテラの言動に苦笑いを隠せていないメルディナが入ってきた。


特殊な好みでない限り十人が十人共美少女と表する顔付きと、エルフ族特有のスレンダーではあるが貧しいというより美しいと表現すべき肢体は、世の男を虜にするには十分すぎると言えるだろう。


かけ湯で軽く汗を流した三人は、リラックスした様子で湯を堪能する。


「ふわぁ・・・ちょっと熱いですけど、気持ちがいいですね~」


「えぇ。お湯の中で足を延ばせるなんて贅沢よね。さっきは職権乱用なんて言っちゃったけど、ナナテラさんに感謝しなきゃ」


「気に入ってもらえて何よりですわ。ヴィルムはんにも気に入ってもらえたらえぇんですけどなぁ」


「お師様は熱めのお風呂が好きみたいですから、きっと気に入りますよ~」


和気藹々(わきあいあい)と雑談に花を咲かせる三人の話題は、日常的な話から最近の時事ネタまで様々だ。


そんな中、自身の髪の毛をまとめていたメルディナの視線が自らの胸を捉え、次いで湯にぷかぷかと浮かぶ二つの物体に注がれる。


「はぁ・・・クーナってばホント大きくなったわよね。私ももう少し育ってほしかったわ」


「いやいや、メルディナはんはバランスのとれたえぇスタイルしてまっせ? もしヴィルムはんがおらんかったら、もっと男共からアプローチ受けてるはずですわ」


「そ、そうだよメルちゃん! 私なんて身長ちっちゃいし、手足は短いし、メルちゃんの方が大人っぽくて綺麗、だよ・・・」


残念そうに溜め息を吐いたメルディナに本音のままにフォローを入れるナナテラ。


クーナリアもそれに続こうとするが、自らのコンプレックスを自分で刺激する形となり、その表情には目に見えて影が射している。


実際の所、男性冒険者達の間では、メルディナとクーナリアの人気は五分五分といった所だ。


ナナテラの推測通り、アプローチを仕掛けてくる者が少ないのはヴィルムの存在があるからに違いない。


デート等の軽い誘いには個人の自由とばかりに反応しないヴィルムだが、度が過ぎた者には後遺症こそ残らない程度に痛めつけ、その心に恐怖心を植え付けていた。


それでもなお、二人に対してアプローチを試みる勇者が現れるのは、彼女達の魅力が高すぎる所以だろう。


身体が十分に温まった所で、今回の目的である洗髪薬を試すべく洗い場の方へと移動する三人。


「それじゃあナナテラさん、髪の毛を洗いますので、少し目を閉じてて下さいね」


「よろしゅう頼んます」


担当はメルディナのようだ。


隣には、ナナテラが座っていても彼女の頭を洗うのが難しかった事にショックを受け、落ち込むクーナリアの姿が。


メルディナはクーナリアの様子を見て苦笑しつつも、慣れた手付きで薬を泡立て、ナナテラの頭を揉みほぐすように洗っていく。


「は~・・・これは気持ちえぇですなぁ。しかもなんやえぇ香りもしますし、これまでの洗髪薬とは違って頭がすっとする感じもしますなぁ」


「痒い所があったら言って下さいね~」


マッサージを受けているような快感に、ナナテラの狐耳が御機嫌そうに震える。


「あ、ここなんかどうですか?」


「うくっ!? み、耳は自分で洗いますよって・・・こそばぁていかんですわ」


その狐耳が目に入ったメルディナはよかれと思って手を伸ばしたのだろうが、予想外に敏感だったようだ。


ビクンと身体を震わせたナナテラだったが、メルディナに悪気がない事はわかっているらしく、恥ずかしげな笑みを浮かべるだけであった。


泡立った髪を湯で流した後、洗い場に備え付けられていた鏡を覗き込むナナテラ。


「髪の色が変わっとる・・・? いや、これは元に戻ったんやろか」


毎日の手入れを欠かしていないナナテラであったが、その髪は若かりし頃の色艶を取り戻し、自身が過去へと戻ったような錯覚を覚えた。


「私達も初めて使った時は驚きました・・・というより、思った以上に髪が汚れてた事がショックでしたね。ちゃんと毎日洗ってたんですけど・・・」


「これは今までの洗髪薬とは別物ですな。こっちを使った後やと今まで使っとったモンは使おうとは思えんくなりますわ」


(しかも調合を見とった感じ、高価な材料は使っとらんかった。この洗髪薬は必ず売れる。女性は勿論、身嗜みに気を使う王族や貴族達もこぞって欲しがるやろな)


一度使っただけでこの効果である。


久しく感じていなかった心を揺さぶる品物の登場に、ナナテラの商人魂は激しく燃え始めていた。






* * * * * * * * * * * * * * *






風呂からあがった三人が先程の応接室まで戻ると、すでにヴィルムが寛いでいた。


熱い風呂が好きだという話だったが、流石に雑談に興じていた女性軍よりは早くあがったらしい。


「ヴィルムはん、お待たせしてすんません。湯加減はどないやったですか?」


「そんなに待ってないから気にしないでくれ。十分に堪能させてもらったよ。いい湯だった」


どうやらヴィルムも風呂からあがって然程時間は経ってないようだ。


心なしか、機嫌が良いようにも見える。


「そら良かったですわ。ところでヴィルムはん、この洗髪薬の調合方法を是非とも教えて貰えんですやろか? 勿論、タダでとは言いまへん。毎月、商人ギルドで売り上げた分の五%をお支払いさせて頂きますわ!」


レシピを教えるだけで、この契約内容は破格だろう。


何せ商人ギルドが全てを請け負い、何もせずともその売り上げ分五%が毎月懐に転がり込んでくるのだ。


「いいぜ。自分で作る手間も省けるしな」


「ほ、ほんまでっか!?」


ヴィルムがあっさりと承諾した事に、驚きの声をあげつつも喜色に染まった表情を見せるナナテラ。


「あと、報酬は三%でいい。その代わり、毎月受け取りにくるのは難しいだろうから、冒険者ギルドに俺の名義で預けるようにしてくれ」


「そ、それくらいなら御安い御用ですわ! ヴィルムはん、おおきに! ほんまおおきに!」


ナナテラの喜びようは凄まじく、ヴィルムの両手を握り、勢いよく上下へと振り続けた。






後日、ファーレンの商人ギルドから新しい洗髪薬が発売された。


その効果は素晴らしく、女性を中心に絶大な人気を博する事となる。


口コミで広がったその噂は各国の王族や貴族の耳に入る事となり、ファーレンの商人ギルドに所属する者達は休む間もない忙しさに見舞われる事となった。


当然、真似しようとする者も出てくるのだが、珍しい素材や高価な素材を使わない割にその調合方法は難しく、同じ物が作られるまでに相当な時間がかかる事になったという・・・。

お風呂シーン、書いてて楽しかったです(笑)

いつの間にかヴィルムが熱い風呂好きになってました。

渋茶も美味しく飲んでたみたいだし、段々とお爺ちゃんみたいな感じになってきてるなぁ。


お時間がありましたら、感想や評価を頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ