【32】飛竜に乗って
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飛竜の襲来から一夜明けた朝、ヴィルム達はヒュマニオン王国へ出発する事にした。
「よし、全員乗ったな?」
「まさか飛竜に乗れる日が来るなんて・・・」
メルディナが言った通り、ヴィルム達が乗っているのは飛竜の背中だ。
昨日、ルメリアが落ち着いた後、避難していた人達を呼び戻し、事情と経緯を説明した。
当然、飛竜を危険視する声があがったが、破壊された宿場や施設、屋台の修理と損害の補填を王国が(というよりはルメリアが)直々に行う証文を書き、復興の為の金銭も出す事を記して渡すと納得していた。
「身分は極秘だったんじゃないのか?」とヴィルムに聞かれたルメリアは、「この子の為なら仕方ないわ。 それに、王国に帰ってしまえば一緒だから」とあっさりした様子で答えていた。
「おい! 何故私だけ足にくくりつけられているのだ!?」
下から、つまりは飛竜の足元から、リスティアーネの声が聞こえる。
若干怒りを含んだ恨みがましい声の主は、飛竜の足にロープで縛られ、固定されていた。
「ハイシェラがお前を乗せるのを嫌がったんだから仕方ないだろう。我慢しろ」
「そうよリスティ。ハイシェラが拒否したのなら仕方ないわ。我慢なさい」
「ひ、姫様ー・・・」
ヴィルムに続くルメリアの言葉に、リスティアーネはガックリと肩を落とした。
なお、ハイシェラとはルメリアが命名した飛竜の名前である。
本人曰く、「直感的に閃いた。この名前以外あり得ない!」だそうだ。
某ファーレン代表の上位的な名前に感じるのは気にしない方がいいだろう。
「さて、ハイシェラ。あっちの方角に向かって飛んでくれ。頼んだぞ」
『クルァァン!』
ヴィルムの指示を受けたハイシェラは大地を蹴って大きく羽ばたくと、その方角へと飛び去っていく。
ルメリア達の興奮した声と、リスティアーネの悲鳴が木霊していた。
* * * * * * * * * * * * * * *
時刻は正午に差し掛かろうかという頃、ヒュマニオン王国の城下町はいつもと変わらない賑わいを見せていた。
昼時という事もあり、食事処や屋台を中心に人が集まっている。
そんな中、運悪く昼飯時の監視役になってしまった兵は、物見塔の上でぼーっと空を見上げていた。
「はぁ、腹減ったなぁ・・・」
飯をよこせと唸る腹の虫を撫でて落ち着かせようとするが、あまり効果は見られない。
「くそ~・・・。あの野郎、俺に当番押し付けやがって。ツイてねぇなぁ」
自分に物見役を押し付けて、さっさと昼飯を食べに行ってしまった同僚を思い浮かべながら愚痴を漏らす。
「帰ってきたらただじゃ・・・ん?」
ふと視線を外に向けると、その先に空に浮かぶ小さな黒点を捉える。
確認しようと備え付けられた望遠鏡を覗き込んだ兵の顔色が、徐々に青ざめていく。
「ま、まさか・・・ッ!? ひ、ひ、飛竜だぁぁあ!」
〝カンカンカーン カンカンカーン〟
緊急事態を知らせる警鐘を全力で鳴らし続ける。
流石、王国の兵士達といった所か。
すぐさま警鐘に反応した兵士達は、持ち場に着く者、連絡に向かう者、避難を指示する者等に別れ、それぞれが行動に移していく。
しかしその毅然とした態度も、僅かな時間で崩れる事になる。
『グルルルル・・・』
「ひ、飛竜・・・何てデカさなんだ・・・」
「おい! 応援はまだなのか!? あんなの俺達じゃ足止めすら出来ないぞ!!」
「ここから王城までどれだけ離れてると思ってんだ!? 馬を使ってもまだ城についたかどうかだぞ!!」
飛竜はどこに降りようか迷って唸っているのだが、兵士達から見れば威嚇以外には感じられないのだろう。
「あー、こんなに集まってたら降りられないわね」
「お師様、どうするです?」
「どうするも何も、この程度の高さくらいなら飛び降りればいいんじゃないか?」
当たり前の様に答えるヴィルムに、メルディナとルメリアの目が細められる。
「ヴィルムさん? 普通の人間はこんな高さから飛び降りたら死ぬわよ? 私は普通の人間だから、飛び降りたら死ぬからね?」
「ヴィル? 私もちょっと危ないと思うわ。多分、クーナは大丈夫だろうけど」
「あー・・・だったらクーナリア、メルディナを頼む」
「へ? あ、はい? わかりました?」
自分の提案に否定的なルメリアと消極的なメルディナを見たヴィルムは、とりあえずメルディナの方を自分の弟子に任せる事にした。
咄嗟に返事は返したものの、クーナリア何を頼まれたかわかってない様子だ。
「よし姫さん、行くぞ」
「え? 行くってまさか!? あ、ちょっ待っ━━━」
ルメリアの答えを待たずにひょいっと抱き上げたヴィルムは、何もない空に向かってその身を投げ出す。
その体勢がお姫様抱っこだったのは、着地の衝撃から依頼人を守る為に考慮した結果だろう。
「ッ!? キャアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!」
落下の恐怖に堪えきれず、ルメリアはヴィルムに抱き付きながら絶叫をあげる。
その絶叫を聞いたリスティアーネが何か騒いでいるようだが、縛り付けれているので何も出来ない。
飛竜を警戒していた兵士達は、突如響き渡った絶叫に思わず身構えてしまう。
〝スタンッ〟と、高所から降り立ったとは思えない軽い音で着地したヴィルムはルメリアを下ろそうとするが、彼女は恐怖で身体が固まってしまっているらしく、ガタガタと震えながらも離れようとはしない。
「お、王女殿下!?」
丁度、ルメリアの顔が見える位置にいた兵士が驚きの声をあげる。
次いで、〝ズダンッ〟と、ヴィルムよりは重い音を立ててメルディナを抱えたクーナリアが降りてくる。
「お師様、ちゃんと着地出来ましたよ~」
「さ、流石にちょっと怖かったわね」
王都を襲撃しにきた飛竜(だと兵士達は思い込んでいる)、その飛竜に乗っていたと思われる忌み子の(容姿を持つ)ヴィルムとその仲間と思わしき者達、そして忌み子に捕まっている(様に見える)王国の第三王女。
これだけの条件があれば、兵士達が次にとる行動は予想が付く訳で・・・。
「おい貴様! 姫様をどうするつもりだ!? その手を離せ!」
「あの飛竜もこいつの差し金か? だとすれば、こいつを捕らえてしまえば・・・!」
「抵抗はするなよ? 大人しくしろ!」
素早くヴィルムの周りを取り囲んだ兵士達は、槍を構えて警告を放つ。
対するヴィルムはマイペースだ。
兵士達から向けられている殺気をものともせずにルメリアに話し掛けている。
「おい姫さん。もう着地したんだから、いい加減降りてくれ」
「ちょ、ちょっと待って。か、身体の震えが、止まってくれないの」
「俺としては早く兵士達を説得するなり下がらせるなりして欲しいんだが・・・」
ヴィルムの言葉に“はっ”と顔をあげたルメリアの視界に、自分達を取り囲む兵士達の姿が飛び込んでくる。
その瞬間、身体の震えは止まり、ヴィルムの腕からするりと降りる。
流石は王女といった所か。
「よし、そのまま動くなよ? 姫様、早くこちらへ━━━」
「黙りなさいッ!」
ヴィルムがルメリアを解放したと思った兵士が彼女を助けようと誘導するが、その一喝で言葉を失う。
周囲を取り囲んだ兵士達も、ルメリアの一喝に動きが止まってしまった。
「武器を、下ろしなさい」
「し、しかし━━━」
「下ろしなさいッ!」
「は、はっ!」
静かな声で発せられた命令に戸惑う兵士達だったが、次いで発せられた強い口調での同じ命令に反射的に従う。
直立不動になった兵士達を見渡したルメリアは、ようやく厳しかった表情を解いた。
「よろしい。彼らは敵ではないわ。後で貴方達にも説明するから、誰か王城まで伝令を送りなさい。“私とリスティアーネが件の人物を連れてきた”とね」
「はっ! すぐに向かいます!」
ルメリアの命令に即座に反応した兵士は、王城に向かって駆け出していく。
「さて、次に飛竜を降ろすわ。広場を開けなさい」
「は、はっ! ルメリア王女殿下の御命令だ! 広場を開けろ!!」
兵士長らしき人物の声に従い、すぐさまハイシェラが降りられる状態が整えられる。
「ハイシェラ! 降りてきなさい! 建物は壊さないようにゆっくりよ!」
『クルァァァン!』
ルメリアの命令に応じたハイシェラは、その言葉通りに徐々に高度を下げて降りてきた。
「あ、あんなにデカい飛竜が、王女様の命令を聞いてるぞ」
「す、すげぇな。一体どうなってるんだ?」
信じられない出来事にざわつく兵士達。
その多くの目には、畏敬の念が宿っていた。
「ふふ、いい子ね」
『クルルル・・・』
降りてきたハイシェラを労う様に撫でてやると、気持ち良さげに喉を鳴らしている。
「も、もしや王女殿下は飛竜使いになられたのか? それも、あんなに巨大な飛竜を従える程の・・・?」
「そ、そうだ! そうに違いないぜ!」
「王女殿下万歳! ルメリア王女殿下万歳!!」
ルメリアとハイシェラのやりとりを見ていた兵士は、興奮をぶつける様に騒ぎ始める。
それはいつの間にか広場に来ていた全ての兵士達へと伝染し、大歓声に変わっていく。
「ひ、姫様~、もうそろそろ拘束をほどいて下さい~」
そんな中、リスティアーネの情けない声が主人に届いたかどうかは、わからない。
※御詫び
この度、修正版を投稿しましたが、リスティアーネの話はハリセンのくだりだけを修正し、元の性格に戻しました。
作者が未熟な為に、読者様方を振り回す形になってしまった事を深く反省し、謝罪致します。
もし御許し頂ける方は、どうかこれからも“忌み子と呼ばれた召喚士”をよろしくお願い致します。




