【33】謁見と交渉
お休みが貰えたので一気書きしました。
見直しましたが、誤字脱字は多いかもしれません。
ルメリアがハイシェラと戯れている内に、王城の方から騎士の一団がやってきた。
兵士達は慌てて左右に別れ、彼らの通り道を作っていく。
整然と行進する動きに乱れはなく、彼らの錬度が高い事を示していた。
ハイシェラと戯れるルメリアを前に止まった騎士達は、一斉にその場に跪く。
「ルメリア王女殿下。第三騎士団長リーゼロッテ以下二十名、御迎えに参上致しました。お客人のヴィルム殿達にも我々の警護が付きますので、御同行願います」
「御苦労様。リズ、貴女なら心配いらないとは思うけど、決して失礼のない対応をしなさい」
チラリと動くルメリアの視線を追った先には、クーナリアの手によってようやく解放されたリスティアーネの姿があった。
「はぁ。あの馬鹿者め、また何かやらかしましたか」
「えぇ、客人に対して盛大にやってくれたわ。私の為にやってる事はわかるんだけど、どうも加減がわかってないのよね。武力だけなら優秀なのだけれど」
「しかし今回の件は姫様にも責任があるのでは? リスティを供に選んだのは姫様ですよ」
「あら、言ってくれるじゃない? ちゃんと報告はしたはずよ?」
「部屋に書き置きだけを残して行く事は報告とは言いません。リスティが自ら報告するとは思えませんしね。陛下や重臣達にそれを伝える者の身にもなって頂きたい」
呆れた様に片手で顔を覆ったリーゼロッテは、盛大に溜め息を吐き出した。
実はこの王女殿下、リーゼロッテの言葉から考えられる通り、正式な使者ではない。
王女殿下であるルメリアの護衛がリスティアーネ一人だったのも、彼女が狂愛的な忠誠心を持つが故に勝手な報告をさせない為であった。
そのせいでヴィルムと一悶着を起こし、危うく敵対する所であったのだが・・・。
「さて、現時刻をもって騎士リスティアーネを王女殿下の護衛より解任する。自宅に戻って王城からの沙汰を待て」
「なっ!? ちょっと待てリズ! 何故私が姫様の護衛から外されなければならんのだ!?」
「相変わらず上官への口の聞き方がなってないなリスティ。だから国内トップクラスの実力がありながらも下級騎士のままなのだ。連れていけ!」
リーゼロッテの命令に従い、リスティアーネの両脇に二人の騎士が陣取る。
「そうそう。暴れるようなら、二度とルメリア王女殿下と接点のない閑職に回してやるからな。大人しくしておけよ?」
すでに暴れ出しそうな状態のリスティアーネだったが、リーゼロッテの言葉を聞いて、渋々二人の騎士に連れられていった。
彼女の姿が見えなくなってから、ヴィルム達の方へ向き直るリーゼロッテ。
「初めまして。ヴィルム殿、メルディナ殿、クーナリア殿。挨拶が遅れて申し訳ない。私はこのヒュマニオン王国で騎士団長を務めさせて頂いている、リーゼロッテという者だ。貴殿らを王城まで案内兼護衛する任務を仰せつかっている。よろしく頼む」
「ヴィルムだ」
「メルディナです。噂に名高いリーゼロッテ様にお会いできて光栄ですわ」
「ク、クーナリアです。よ、よろしくお願いしますです!」
リーゼロッテは人の良さそうな笑みを浮かべながら順々に握手していく。
警戒心を顕にしていたヴィルムにも、大して気にする様子もなくその手をとった。
「では、ご案内します」と、ルメリアとヴィルム達を乗せた馬車を中心に陣形を組み、王城まで進んでいく。
なお、ハイシェラはルメリアの命令により、城壁の外に待機。
ルメリアの飛竜と認識されたハイシェラには、監視役兼世話役の兵士達が二十人程付けられる事になった。
* * * * * * * * * * * * * * *
王城に辿り着いたヴィルム達は、すぐに王の間に近い控え室に案内された。
ルメリアの伝令を受けたゼルディア王が、本日の政務や謁見を全て中止し、ヴィルム達との会合の準備をしたとの事だ。
滅多に見る事のない豪華な調度品に、メルディナとクーナリアは落ち着かない様子。
ヴィルムは壁に寄り掛かって何かを考えているようだ。
そうこうしている内に一人の兵士から呼ばれ、王の間に繋がる大きな扉の前に案内される。
「失礼のないようにな」
忠告してくる兵士に目配せし、開かれた扉を通るヴィルム達。
飛び込んできたのは先の控え室にあった物とはレベルが違う美しい調度品の数々。
星を散りばめたような光を放つシャンデリア。
歩む度に柔らかな感触が伝わってくる、金糸がふんだんに使われた赤いカーペット。
見た者の視線を捕らえて離さない、力強い迫力が漂ってくる絵画。
この部屋だけでどれだけの金子が使われたのかが想像出来ないくらいに美しく、きらびやかだった。
そんな中、ヴィルムは街を散歩するかのように歩いていた。
メルディナとクーナリアは落ち着かない様子だったが、ヴィルムに引っ張られる形で後ろを歩く。
玉座の十数メートル手前で立ち止まったヴィルムは、僅かに顔をあげて王の姿を捉える。
顔付きこそ五十代を思わせる壮年の男性だが、その身体から発せられる威圧感は相当なものである。
豪華絢爛な衣装に身を包みつつも、まるで戦場の最前線に立っているかのような雰囲気だ。
王と言うよりは大将軍と言った方がしっくりくるだろう。
「アンタが、この国の王様かい?」
まるで知人と話すかのような口調で、国王に話し掛けるヴィルム。
「なっ!? 王に対してなんたる無礼!」
「常識を知らぬ冒険者共でもここまでではないぞ!?」
「さっさと跪かんか!」
瞬時に騒ぎ始める重臣達。
側に控えていたリーゼロッテは表情にこそ変化はないが、ヴィルムを見据えている。
いくら客人と言えども自らの王に対するあまりの振るまいに我慢出来なかったのだろう。
「よい、静まれ」
ゼルディアの発した言葉に反応した彼らは、ピタリと水を打ったかのように静まり返る。
ゼルディアの鋭い眼光が、ヴィルムを射抜く。
おそらく、相応の実力者でもなければこの眼光だけで身を竦ませているだろう。
「面白い。我の威圧に耐えるでもなく抗うでもなく、ただそよ風の如く受け流しておる。それなりの実力者であれば反射的に身構える。その実力もなければ身を強張らせているだろう。バゼラードに聞いた話よりも、遥かに高い実力を持っておるな」
平然としているヴィルムを嬉しそうに眺めるゼルディア。
「試すような真似をして悪かったな。貴殿の様な強者を見るとどうにも気が昂っていかん。我がヒュマニオン王国の国王、ゼルディア=ヒューマニオだ。言葉使いや礼儀を改める必要はないぞ。自然体の貴殿と話がしたい」
特に悪びれた様子も見せず、言葉や礼儀に拘らないあたり、やはりルメリアの父親である。
「冒険者のヴィルムだ。今回は姫さんからの依頼でこの国まで来た。確かに引き渡したぜ?」
「あぁ、聞いておるよ。全く、あのお転婆娘め。どこで聞いていたのかわからぬが、勝手な事をしおって・・・。まぁ、こうして貴殿に会えたのだから、細かい事は構わぬか」
どうやらゼルディアもルメリアの行動力には手を焼いているようだ。
「随分と買い被ってくれているようだが、俺はアンタ達が言う所の“忌み子”だぜ? この国に来るまでで人間の“忌み子”に対する扱いは酷いもんだったが、その国王であるアンタが友好的なのはどういう了見だい?」
「くっくっくっ、惚けるのが上手いな。我の考えている事などわかっておるだろうに」
楽しげに笑うゼルディアは、重臣達の集まる一角に合図を送る。
ゆっくりと姿を現したのは、以前にファーレンに外交官として来訪していたバゼラードだった。
ヴィルムの隣まで歩いてきたバゼラードは、まず国王に対して一礼する。
「陛下。此度はヴィルム殿に謝罪を行う機会を頂き、誠に感謝致します。しばしの間、陛下の面前で醜態を晒す事を御許し下さい」
その発言にゼルディアが頷くのを確認したバゼラードは、ヴィルムに向き直って座り込み、頭を下げた。
「ヴィルム殿。貴殿を忌み子と蔑んだ事、また精霊獣様に対して無礼を行った事、改めて謝罪致す。気が済まないと言うのであれば、この首を差し出しても構わない。奴隷になれと言うのであれば、喜んでこの身を落とそう。だから、これから陛下が御提案される事案について、我々人間に対する感情を除外した上で一考して貰えないだろうか」
そう言ったバゼラードは更に深々と頭を下げる。
すでに額は床に触れており、それでもなお、押し付ける様に謝罪の姿勢を続けている。
ファーレンでこそ、あり得ない事の連続から感情に振り回されてしまった彼だが、国の為、延いては王の為であるならば、自分の存在すら犠牲に出来る。
それこそがバゼラードという男の本質だった。
「俺は他人に“忌み子”だ何だと言われようが気にならない。あの時はアンタが騒いで話にならないから黙らせただけだ。人間には人間の規定がある事は知っている。だから、それを咎める気は更々ない」
周囲の重臣達は、忌み子だと蔑まれ続けてきたヴィルムがそれを気にしてないと言った事に驚いていた。
ゼルディアですら、僅かに眉を顰めている。
ヴィルムは淡々と続ける。
「だが、俺は人間の規定に従うつもりはない。国王の頼みだろうが奴隷の頼みだろうが、気に入れば受けるし、気に入らなければ断る。それでも良いって言うなら、話くらいは聞いてやるよ」
「人間の作った規定で忌み子として育てられてきたのだ。今更、貴殿を縛り付ける様な恥知らずな真似は出来んよ。ヴィルム殿、本当に、申し訳なかった」
一度上げた頭を再び下げるバゼラード。
そのやりとりを見ていた重臣達は、ようやくヴィルムが同じ人間でありながら、人間として生きてきた訳ではない事を知る。
「陛下。醜態を晒した事、深く御詫び致します」
「よい、我としても感じるものはあった。礼を言う。下がってよいぞ」
「はっ」
国王に向かって一度拝礼したバゼラードは、元にいた場所へと戻っていった。
ヴィルムは改めてゼルディアに向き直る。
「それで? 俺に頼みたい事ってのは何だ?」
「うむ。貴殿の冒険者としての噂を聞き、最初は貴殿を傘下に加えたいと思っていたのだが━━━」
「断る」
間髪入れずに拒否するヴィルムに、重臣達の厳しい視線が刺さる。
「そう急くな。傘下に加えたいと思っていたのだが、バゼラードの話を聞く内に気が変わってな。貴殿と友誼を結びたい。この通りだ」
玉座に座りながらも、ヴィルムに向かって頭を下げるゼルディア。
「ヘ、陛下!?」
「王が頭を下げるなど! お止め下さい!」
国王たるゼルディアが、一介の冒険者であるヴィルムに頭を下げた事で重臣達に動揺が走る。
「黙れっ!」
重臣達を一喝するゼルディア。
その一喝はまさしく王の威厳に溢れたものであり、重臣達はそれに従う他なかった。
「お前達はバゼラードの言葉を聞いて何も感じなかったのか? 先のバゼラードの言、我々人間が勝手に作った規定の為に、ヴィルムは普通の人間として育てられる環境になかった。確かに忌み子は危険であっただろう。消滅が起こる理由もわからず、生活圏外に捨てるしか方法がなかった事も認める。だがそれこそ我々の勝手な言い分だろう。我々が作り出した環境の影響で、両親以外の人間と接する事なく育てられてきたヴィルムの助力を得たいと思うのであれば、頭を下げて頼むのが筋ではないのか!」
ゼルディアは己を恥じていた。
“忌み子”と呼ばれていようと、“消滅”を起こす危険があろうと、彼らはヒュマニオン王国の国民と同じ、人間なのだ。
他の国民を守る為に制定した規定は、同じ国民を犠牲にするもの。
小を捨てて大を生かす。
為政者としては正しい判断ではあるが、その扱いを当たり前と考え、利益になるとわかれば手のひらを返し、ヴィルムを傘下に加えようとしていた自分が情けなく思えた。
バゼラードが、気付かせてくれたのだ。
「ヴィルムよ、我が国に恭順せよとは言えん。だが貴殿の力が必要な時は、その力を貸して貰いたい。無論、我が国の力が必要な時は極力対応する。だから、頼む」
ゼルディアの言葉に嘘偽りはなく、彼の眼はただ真っ直ぐにヴィルムの姿を映していた。
「ちょっといいか?」
ゼルディアが頭を下げ、間が空いた所でヴィルムが口を挟む。
国王が頭を下げてまで頼み込んでいるというのに、返答を遅らせるような真似をするヴィルムを見て、込み上げる苛立ちを何とか飲み込む重臣達。
「何だ?」
ゼルディアが聞き返すと、ヴィルムは淡々と話し始める。
「俺はすでに人間を殺している。依頼のあった山賊だけでない者達もだ。俺は自分の家族や仲間を害する存在に容赦するつもりはない。メルディナとクーナリアがいなければ、もっと大勢の人間を殺していただろう。だが俺はそれを悪いとも思わないし、この考えを変えるつもりはない。それでも、俺と友誼を結びたいか?」
「何・・・?」
ゼルディアは表情を曇らせる。
「「待って下さい(です)!!」」
飛び込んできたのは、今まで黙って聞いていたメルディナとクーナリアだ。
「ヴィルが殺したのは奴隷商団です。捕らえられていた私達を助ける為に殺したにすぎません!」
「そうです! お師様は何も悪くないんです!」
二人が必死に弁明する事で納得がいったのか、若干空気は軽くなったようだ。
しかしヴィルムは二人の弁明を遮る様に続ける。
「確かに奴隷商団の連中は二人を助ける為に殺した。だが、俺はこれからも家族や仲間を守る為であれば、人間だろうが魔物だろうが関係なく殺す。逃げ出そうが命乞いをしようが、な。その価値観が人間に理解出来る訳ないし、理解してもらおうとも思ってない。それでもいいと言うのであれば、仕事という形で協力はしよう」
ヴィルムが話を終えると同時に、王の間に静寂が訪れる。
大事な者を守る為なら誰であろうと容赦はしない。
そう言った信念を持つ者はそれなりに存在するだろうが、ヴィルムの言葉にはより深い重みがあった。
ヴィルムが本当にそういった場面に出くわした時、彼は躊躇いなく実行に移すだろう。
そこで問題になってくるのがヴィルムの実力だ。
バゼラードから聞いた、“忌み子”と呼ばれる者がその身に有する、莫大を通り越して異常とも言える魔力量。
冒険者としての活動を始めてから、短期間でCランクにまで登り詰める高い能力。
極めつけは、伝説上の生物とされた精霊獣と契約している事。
一個人の持つ戦闘力としては強大すぎるのだ。
ゼルディアは大きく息を吐くと、玉座にその身を預けて天井を仰ぐ。
(最初はこちらが試すつもりだったが、いつの間にか試される立場になっていたか・・・)
もう一度、深く深呼吸したゼルディアは、改めてヴィルムに視線を移し、口を開いた。
「あいわかった。あくまで依頼という形をとらせてもらおう。ヴィルムの・・・いや、ヴィルム殿の提案に感謝する」
その回答が意外だったのか、ヴィルムは少し驚いた表情になる。
「へぇ? 無理矢理にでも従うように強制してくるかと思ってたが、随分と思いきった判断をしたもんだな」
「ヴィルム殿や精霊獣についてはバゼラードから聞いておる。貴殿とやり合うのであれば、我が国の戦力を全て導入せねば勝負にすらなるまい。たかだか意地だけの為に民の命を賭ける事は出来んよ」
そう言ったゼルディアは、少し複雑そうな笑みを浮かべる。
出会った瞬間に抑えきれなかったとは言え、威圧を掛けてくる程に好戦的なゼルディアが、一度も刃を交えずに実質的な降参宣言する事は屈辱以外の何物でもないだろう。
忠臣の言を信じ、民の為に無謀な争いを避ける姿勢は、ゼルディアの器の大きさを物語っていた。
そんなゼルディアの姿に家族を案じるサティアの面影を感じたヴィルムは、僅かに表情を綻ばせる。
「アンタの気持ちはよくわかった。これから━━━」
「お待ち下さい父上!!」
「よろしく頼む」と言い掛けた時、ヴィルム達が入ってきた扉とは別の、玉座側にある扉が勢いよく開かれた。
最初はゼルディアが敵対する予定だったんですけどねー。
いつの間にかいい人っぽくなったバゼラードに釣られてゼルディアも善人寄りになってしまいました。
次回は久しぶりにヒノリ姉さんが登場する予定です。
※仕事の都合上、不定期更新になってしまい、申し訳ありません。




