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【93】


事態が収束を見せたのは、ヴィルム達が外に出てから半刻程経過した頃であった。


現在、エルフの里に住まう者達は全て拘束された状態にあり、彼らは等しく同じ人物を睨み付けている。


「さて、ようやく話を聞いてもらえそうだな」


彼らの視線を集めているその人物━━━ヴィルムが誰に向けて言う訳でもなく呟いた瞬間、一気に燃え広がる烈火の如く、怒りに満ちた罵詈雑言が飛び出した。


「ふざけるな! 私達を全員拘束しておいて話だと!? 馬鹿も休み休み言え!」


※元々、攻撃を仕掛けてきたのは彼らの方である。


「そうだ! 話を聞いて欲しいのなら、まずはお前が洗脳した精霊様やメルディナちゃんを解放しろ!」


※いつの間にか、彼らの中でヴィルムはメルディナ達を洗脳した極悪人という事になっているらしい。


「精霊様やメルディナを盾にするなんて、貴様はそれでも男か!? 恥を知れ!」


※そもそも彼らはメルディナ達を盾にするまでもなく捕縛されていました。


それらの罵声には支離滅裂なものまで混じっているが、最早彼らにそんな事は関係ないらしい。


もちろん、拘束はされているものの、口は自由なので魔法で攻撃しようとする者は複数人いるのだが、その全ては眠たげな瞳をしたフーミルにあっさりと無効化されていたりする。


「メルディナちゃん! 正気に戻るんだ!」


「精霊様! どうかそのような奴に負けないで下さい!」


メルディナやフーミル、ミゼリオを正気に戻そうと声を張り上げる者もいるが、元より正気な三人が反応する訳もない。


クーナリアやオーマが何とか宥めようとしてはいるものの、とても効果があるようには見えなかった。


「・・・なぁ、エルフ族ってのは思い込みが激しいのか?」


騒ぎ出したまま全く聞く耳を持たないエルフ達の様子に、呆れのあまりに半眼になったヴィルムが、同じく呆れのあまりに頭を抱えているメルディナに問い掛ける。


「うぐっ!? 私も同じ事したから否定出来ないわ」


ヴィルムに食ってかかった忘れたい過去を思い出した(本日二度目)事で、顔をひきつらせたメルディナはがっくりと項垂れた。


(メルの両親や故郷の人達をブン殴る訳にはいかないし・・・仕方ないな)


手詰まりとなってしまったヴィルムは、大きく溜め息を吐くとポツリと呟く。


「姉さん達に、頼むか」




* * * * * * * * * * * * * * *




「「「「まことに申し訳ございませんでしたァッ!!」」」」


鍛え上げられた軍隊のように、一糸乱れぬ動きで、頭を地面に擦り付けるエルフ達。


その見事な土下座の先にはヴィルム達、そしてヒノリやラディアの姿もある。


先程、彼らは目の前で精霊獣(ヒノリとラディア)が召喚された事に加え、二人を召喚出来る程に膨大なヴィルムの魔力を感じ、驚愕のあまりに絶句した。


騒ぐ者がいなくなり、召喚されたヒノリとラディアが彼らの話を聞きつつ、ヴィルム達が危険な人物ではない事、メルディナ達も操られていない事、そしてヴィルムは自分達の愛する家族である事を丁寧に話した所で、先程の土下座に繋がる。


途中、二人も洗脳されてるのではと言い出す者もいたが━━━、


『お主らが生きとるのがよい証拠じゃろ? もし本当に儂らが洗脳されとるのであれば、今頃は・・・のぉ?』


というラディアの言葉と殺気を受け、硬直すると共に沈黙してしまった。


ようやく、狂わんばかりの怒りに呑まれていたエルフ達が大人しくなった事で、彼らを落ち着かせようと奔走していたクーナリアとオーマは安堵の息を吐いている。


「頭を上げて下さい。誤解さえ解ければ、メルの同郷である貴方達に危害を加えるつもりはありません」


ヴィルムの言葉を受け、恐る恐る顔色を伺いながら頭を上げるエルフ達。


怯えに近い表情をしている彼らに対し、ヴィルムの方はほとんど普段のものと大差はない。


限られた生活圏で生きるエルフ達が情報に疎いのも無理はないという考えがあっての事なのだが、もし彼らがメルディナの関係者でなければ容赦なく叩きのめしていた事だろう。


メルディナの両親と交わした会話からエルフ族の傾向をある程度掴んだヴィルムは、彼らを強く刺激するような言葉は避けつつ話し始めた。


言葉足らずな箇所はヒノリやラディアのフォローを受け、証拠のひとつとして以前回収していた首飾りを見せた所で、数人のエルフ族が動揺を露にする。


「お、おい。俺、ハイエルフ様があれと同じ首飾りを付けていたの見たぞ?」


「わ、私も。ちょっと前に御挨拶した時、確かに付けていらしたわ」


「じゃあ、ハイエルフ様達が精霊様を捕らえようとする者達と手を組んだって話は・・・」


その動揺はみるみる内に全体に行き渡り、大きなざわめきに変わっていく。


しばらく議論が続いていたが、彼らの声が収まると同時に一人の老エルフが立ち上がった。


「里長のヤーサリーと申します。この度、我々の勘違いで多大な御迷惑をおかけしました事、里を代表して謝罪致します」


「いえ、こちらも配慮に欠けていました。一通りの話は聞いてもらえたので、これ以上の謝罪は必要ありません」


「正直な所、ハイエルフ様が精霊様に危害を加える存在というのは信じ難いのですが、精霊獣様の言に加えて証拠となる物まであってはそういう訳にもいきません。少々、今後の対応も考えねばなりませんな」


歴史的にも永い間信じてきたハイエルフ達と即敵対するという判断は出来ないのであろうヤーサリーが言葉を濁すが、その心情は理解出来る為、ヴィルム達が非難する事はない。


サーヴァンティル精霊国に侵攻してきた勢力とハイエルフ達が繋がっているのは濃厚ではあるものの、それがどんな繋がりまでかはわかっていないからという事もある。


「もうすぐ日も沈みます。せめて、今日の所は里に泊まって行って下さい。歓迎致します」


「お気遣いありがとうございます。御言葉に甘えます」


話を終えた所で出されたヤーサリーからの提案に、迷う事なく返答するヴィルム。


改めてメルディナの家に招待されたヴィルム達は、久しぶりの寝床で旅の疲れを癒すのであった。


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