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野沙羅事件  作者: 東豪志
3/3

行方不明な少女(2)

「なんでこんな奴が校長先生になれるんだ?」

担任先生を待っている間は矢野やのは小さく毒づいた。

この沈黙な空間なら校長もはっきり聞こえるはずだったが、校長は無視を決め込んだ。これ以上口論しても意味がないと思っているのだろう。

『こんこん』

ノックの音に、校長が「入れ」と短く答えた。

入ってきたのは、長い前髪が分厚いメガネの半分を隠すような男だった。今風に言えば、陰キャオーラが全開といった感じだ。

「待たせてすみません、一年C組の担任、本田敬一ほんだけいいちと申します。」

外見と裏腹に、声は意外と穏やかだった。

「初めまして、常盤彰人です、探偵をやっています。」

「探偵?」

本田は戸惑った顔を俺を見た。

「実はあなたのクラスに在籍している夏目さんが行方不明になっている。」

校長が本田に説明をした。

「え?HRの時は姿が見えなかったけど、まさか行方不明だったとは。」

時系列としては、咲希が行方不明になったのは先週の土曜日だ。門限を過ぎても帰宅せず。両親とも連絡が取れなくなった、その夜警察に相談に行き。俺のとこに来るのは日曜日の正午頃だった。

通知がないならわからなくてもおかしくはないが、あの両親は学校に連絡しないはずがない。

そう思って校長に視線を向けると、俺の目から逃げるようにそっと目を逸らした。

俺は本田に改めて事情を説明した。

「わかりました、ですが知ってる通り僕は何も知りません。お役に立てないと思います。」

「今回話を聞きたいのは夏目咲希と親しい友人たち。交友関係や校外の知り合いについて何か知らないと思って。」

「ですが今は授業中なので、終わってからでもよろしいですか?」

「ダメだ。どっちが優先するべきか理解できないのか?」

「そうですね、わかった。」

情報はまだ消化していないみたいだけど、切り替えが早くて助かる。

「それと別室を用意してくれ、校長室では生徒も話しにくいでしょう。」

「では、相談室を使ってください。」

「今から佐藤さとうを呼びます。」

本田の背中を見送った後、先ほどまで対応してくれていたあ職員が俺たちを相談室へと案内してくれた。




相談室にたどり着く時夏目咲希の友人佐藤はまだ来ていなかった。

「こちらに座ってお待ちください、これから別の用事がありますので失礼致します。」

職員が軽く頭を下げて去っていった。

部屋を見回すと、椅子と机以外なんもない簡素な空間だった。余計な物がいないなら集中もできるが、ストレスも溜めやすい環境とも言える。

座ってから2,3分くらい経つと入口のガラス窓に本田の姿が見えた。

「お待たせしました。こちらは佐藤孝恵(たかえ)、僕が知る限りクラスでは夏目咲希と一番仲の良い生徒です。」

本田が隣にいる女子生徒を紹介した。佐藤も軽く解釈を返す。

佐藤を座らせた後も座る気配がない本田がいた。

「ごめんなさい、今日交流会があってこれから明成高校に行かなければならない。いま暇な先生もいなくて、一人でも大丈夫ですか?」

心配そうな本田を見て,先の対話を思い出した。なぜ授業が終わるまで待つ必要なのかって、情報の整理ができないと思い込んで本田の意図を汲めなかった。探偵としての洞察力が未だに足りないと痛感した。

「大丈夫ですよ、すぐ終わるから。」

矢野が軽く返事した。

「そうですね、矢野さんがいると心配することも無さそう。」

本田は微笑んで佐藤に別れの挨拶をすると相談室を後にした。

確かにJKと二人きりはまずい、いちよう校長室で行うこともできるがあの校長に邪魔されたくもない。矢野がいるだけでスムーズにすることができた。

「孝恵ちゃん、畏まらなくていいよ。私は矢野エミ、エミって呼んでいいよ。ちなみに彼は常盤彰人、探偵。」

「探偵さん、咲希は本当に行方不明になったのか?」

孝恵は怯えなからも心配そうに訪ねた。

「そう。両親とも連絡が取れない、だから君に咲希について聞きたいことがいくつある。」

「実は金曜日の昼に咲希から『赤い夏椿を見に行かない』って誘われた,でも土曜日は母さんの誕生日だったから断っちゃって。」

俺が質問する前に手かかりに思うことが口にした。

「咲希の父も、娘が赤い夏椿を見たいと言っていた。でもそれは嘘の可能性がある。咲希は学校でいじめられていた可能性は?」

「嘘じゃないよ、咲希から赤い夏椿の写真が送られてきたよ。」

孝恵が自分のスマホを操作して、俺たちに写真を見せてくれた。

「やはり綺麗だなぁ。」

写真に写っていたのは赤い椿だけ,肝心の夏目咲希の姿はどこにもない。確認できるのは、彼女のアカウントから発信されたということだけだ

「なるほど、なら君以外誘った人いるのか?。」

「いないと思います、学校では雑談だけなら何人もいるけど。休日まで一緒に過ごすほど仲良しな友人は私くらい。」

「学校ではねぇ。なら咲希は彼氏いるのか?あるいは咲希に好意を寄せている男子はいる?」

「いないじゃない,いたら彼氏と行くでしょう。」

孝恵からの情報を見る限り、赤い椿が鍵である可能性は極めて高いと見て良さそうだ。

「それもそうか、ならその赤い夏椿はどこにあるのか知っている?」

「ごめんなさい…誘いを断ったから、これ以上は教えてもらえなかったんです。」

申し訳なさそうに頭を下げる孝恵だったが、何かを思い出したように顔を上げて俺を見た。

「ミキーのインスタ、そこで赤い椿の写真を見た咲希は自分の目で見てみたいと。」

孝恵が再びすまほを操作し、ミキーという人物のインスタアカウントを見せてくれた。

俺も慌てて自分のスマホを取り出し、インスタを起動しようとしたが…インスタのアイコンはどれだっけ?

「私に任せて。そもそも常盤さんのスマホにインストすらしてないでしょ。」

苦戦している俺を見て、矢野が呆れたようにため息をつきながら手慣れた様子でアカウントを検索し、登録まあで済ませてしまう。

「そのインスタでミキーに連絡は取れるのか?」

「もちろん、DM送ってみるね。」

DM?

俺が戸惑っているとき矢野が急に表情をくもらせた。

「ヤバいかも…」

「あの赤い夏椿の投稿が最後になってる。それ以前はほぼ毎日投稿してたのに。」

投稿日は金曜日、つまり3日間更新がないということだ。

「理由があるかもしれない、今は返信を待つしかない。」

証拠はないが、最悪な場合、そのミキーも咲希と同じように行方不明になっている可能性もある。となれば、咲希の安否はさらに危うくだろう。

「ありがとう、孝恵ちゃん。君からもらった情報をしっかり生かして、咲希ちゃんを見つけ出すよ。」

「もし何か思い出したら、すぐに連絡して。」

連絡先を交換した後、これ以上有益な情報は得られそうにないと判断し、俺が立ち上がろうとすると、矢野が孝恵に向かって丁寧に頭を下げた。

孝恵は不安げな顔のまま、小さく頷いた。

学校を出た後、矢野が首を傾げながら言った。

「赤い椿が一番有力な手掛かりなのに、どうして常盤さんは他のことも聞いたんですか?」

「なぜなら、大きな手掛かりは必ずしも真実とは限らないからだ。たとえば、彼氏がいると仮定しよ、その彼氏はヤンキー系だった場合、薬物乱用や犯罪に巻き込まれる可能性も一気に上がる。」

「え、こうなったらキリがないじゃん。」

「そう、事実が確認できるまで全ての可能性を無視しない、さっきの質問は、他の線を潰しておくためのものだ。」

「なるほど、探偵って面倒くさいですね。」

納得した矢野がふっと表情を緩めた。


赤い夏椿は確かに最も有力な手掛かりだ。しかし肝心の所在地はまだ分からない。ネットで「赤い夏椿」などを検索しても、該当しそうなスポットは出てこない。

それに赤い夏椿。花について詳しくないが、椿とは違うみたい。余裕があれば調べると頭の隅に入れとく。

この事件、思ったより根が深いかもしれない。


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