行方不明な少女(1)
依頼を受けた翌日、本来なら学校に行くはずな少女夏目咲希は、まだ行方不明なままでした。
昨日から手持ちの情報をできる限り頭に叩き込んだ。
警察はまだ動けない。こういうケースは結局「子供の反抗期による家出」だと九割方見なされ、行方不明届を出しても甘く見られるのは無理もない。だが、案件として本格的に動くべきかどうかの見極めは、俺の仕事だと言える。
反抗期であるなら友人と一緒にいる可能性もある。まずは学校の人間関係を詳しく知るため、学校へ向かうことにした。
俺の高校時代、この学校は県内での評価があまり良くなかった記憶があるが、時代が変わレバ評価も変わるのだろう。
通学路には大勢の生徒が歩いていた。同じ方向へ進めば迷うこともない。
まだ六月中旬だというのに、汗が無尽蔵に湧き出てくる。ハンカチはすでにビッショ濡れ、歳のせいか少し辛くなってきた。十字路にきた時、ようやく風が吹き、汗を運び去ってくれた。
「気持ちいい…」
隣の矢野が風を抱きしめるように両手を広げた。
俺が同じことをやれば不審者確定だろうな、とふと思った。周囲の生徒の視線ガキになり左右を見回したが、こちらに気をと留めている者はいないらしい。
代わりに足取りがどんどん速くなり、やがて走り出す生徒も見え始めた。
時計を確認すると、もうすぐ授業開始の時間だ。
「どんな時代でも、ぎりぎりまで学校に着く生徒は大勢いる。俺も昔はその一人だったよ。」
「いらない情報ねぇ。」
矢野が俺の独り言を拾って、呆れたように返した。
恥ずかしくなった俺はそれを無視して、目的地へと足を進めた。
学校に着いた時、校門は誰もいなかった。
「おはよう、どちら様ですか?」
事務室の職員が、俺たちを入れたと察知したみたいに声をかけてきた。
「こんな者なので。」
俺は名刺を両手に取り、職員に渡した。
「え?探偵ですか?」
やはり怪しまれるのか。
「はい、実は一年C組に在籍してる夏目咲希さんのお父さんから依頼されて、咲希さんは一昨日から家に帰ることがない上に連絡も取らなんです。よければ担任の先生と話しがたいですが。」
「そうですか。」
在籍な生徒が行方不明にあんまに関心しない見たい。
「まずは校長室に行ってください、案内します。」
校長室にたどり着くと、職員に「ちょっと事情を説明してくれ。少し待っていてくれ」と言われた。
職員が先に中に入り、約1分ほど経ってから入室を許可された。
「おはようございます、校長せん...」
「まだ一日しか経っていないのに、随分と大袈裟じゃないか?」
話し始めた途端、校長が苛立ったように遮った。
「何を言ってるんですか? 今、失踪した生徒がいるんですよ。」
矢野の声が少し尖った。明らかに苛立っている。
校長はデスクに肘をつき、ため息混じりに言った。
「うちの学校では、不登校や家出をする生徒は珍しくない。しっかり対応しているから心配はいらない。後で親御さんに連絡して、きちんと説明しておくよ。今は一旦、お引き取り願おうか」
……生徒の安否より、自分の保身と出世を優先する。そんな教師は腐るほどいる。今、目の前にいるこの男もその一人だけのこと。
情より利に動くタイプなら、こちらも同じ土俵で話すしかない。
「言いたいことはわかりました。でも、よく考えてください。もし今回が本当に事件だったら……隠し通せると思いますか?」
校長の表情が一瞬で険しくなった。細めた目が、俺をじっと見据えてくる。
「何を言っている?対応していると言ったが。」
「夏目さんは俺のところに来る前に、すでに警察を訪ねていた。最初は協力的な姿勢を見せるのが、君にとって最大の利益になると思うが。」
校長は明らかに嫌そうな顔をしたが、すぐに切り替えた。自分の利益が絡むと、判断が早いらしい。
「……わかった。本田先生を呼ぼう」
校長は内線電話に手を伸ばし、短く指示を出した。職員が担任を探しに部屋を出て行く。
部屋に残された俺と校長の間に、重苦しい沈黙が落ちた。
校長はソファに深く腰を沈め、指でこめかみを軽く押さえながら、俺を観察するような視線を向けてきた。




