第 84 章 リーダーとしての重圧
リリーは机に座り、目の前に散らばる集計表や市場分析資料を見つめていた。数字は良好だった —— むしろ予想以上の好調さだ。カーター・エンタープライゼスはヨーロッパと北米市場で目覚ましい成長を遂げ、ウェルネスプラットフォームもアジアでゆっくりと確実に浸透しつつあった。
だが成功の裏で、リリーは何か違和感を拭い去ることができなかった。
社内からの不信の囁きは何度も耳に届き、心身に負担が蓄積し始めていた。多国籍企業の経営実績を持つ、より経験豊富な CEO を迎え入れ、世界展開を任せるべきだという噂がささやかれていた。
比較的若く、伝統的なキャリアを歩んできたわけではない自分のような人間が、この成長段階を率い続けることへの疑問が、リリーの自信を揺るがし始めていた。
彼女はずっと自らの理念、一から築き上げた企業の使命を信じてきた。だがグローバル企業を経営する重圧に、社内外から絶え間ない視線と批判が加わり、彼女は心身ともに疲弊していた。
ドアをノックする音が考えを遮った。サラだった。
「お疲れさま」
サラはオフィスに入り、言った。
「コーヒーを持ってきたわ。顔色からして、必要そうだったから」
リリーは弱々しく微笑み、友人からカップを受け取った。
「ありがとう。ただ…… 少し抱えきれなくなってきたの」
「分かってるわ」
サラは向かいの椅子に腰を下ろした。
「負担が大きいのは当然だけど、あなたは本当に素晴らしい仕事をしている。誰もが不可能だと思ったところまで、カーター社を導いてきたのよ」
リリーはため息をつき、こめかみを揉んだ。
「もうそれだけでは十分じゃないのかもしれない。社内の人たちは、この海外展開を率いる能力を疑い始めている。これからの局面に対して、私の経験が足りないって。もしかしたら彼らの言う通りなのかも」
サラの表情が柔らかくなった。
「リリー、自分のすべてを捧げてきた会社から、そんな批判を聞くのは辛いのは分かる。でもあなたはいつも正しい道を見極めてきた。誰に対しても証明する必要なんてない。カーター社が繁栄しているのは、紛れもなくあなたのリーダーシップと理念のおかげなのよ」
リリーは疲れを宿した瞳で彼女を見つめた。
「会社の成長ばかりに集中して、ただ息をつくことさえ忘れてしまったわ。今はただ、未来のために正しい選択ができているかどうかばかり考えてしまう」
「大丈夫、あなたは正しい選択をしているわ」
サラは毅然と言った。
「もし自分を見失いそうになったら、いつでも私たちが支える。あなたを信じ、あなたの理念を信じるチームを築き上げてきたのはあなた自身なの。一人で頑張りすぎなくていいの」
リリーは知らずに息を詰めていたのを吐き出した。
「あなたがいなかったら、私どうしていたか分からないわ」
「心配しなくていい」
サラは微笑んだ。
「私はずっとここにいるから」
日が過ぎ、リリーは国際展開が順調に進むよう、休む間もなく尽力した。中国、日本、韓国での提携は既に確定したが、ここからが本当の難関だ。新たな市場に適応しつつ、企業のアイデンティティを守り続けなければならない。
成果を求めるプレッシャーは強まるばかりだったが、リリーはカーター社を特別な存在にしてきた原点を見失うわけにはいかなかった。
ある深夜、アジア市場の最新業績予測を確認していると、スマホにネイサンからのメッセージが届いた。
「調子はどう?ずっと君のことを気にかけている。時間があれば、今夜一緒に夕飯をどうだい」
メッセージを見てリリーは微笑み、心に温かさが広がった。すぐに返信した。
「とても慌ただしい日々だけど、あなたとの夕飯の時間は作るわ。少し休みが必要なの」
その夜遅くアパートに帰り着いた頃、彼女はくたくたに疲れ切っていた。ネイサンは温かく抱きしめ、額にキスをして迎えてくれた。
「大丈夫?」
彼女の瞳に宿る疲れを見て、ネイサンが問いかけた。
リリーは穏やかに微笑んだ。
「ただ疲れただけ。抱えている仕事が多いけど、何とかやりくりしてるわ」
ネイサンは用意しておいた食事の皿を置き、彼女の隣に座った。
「一人で全部背負い込まなくていい、リリー。君は強くて有能な人だけど、世界中の重圧を一人で抱える必要はないんだ」
「時々、どうしても一人で頑張らなきゃいけない気がするの」
リリーは静かに打ち明けた。
「すべてをまとめようと頑張ってるのに、あちこちから引っ張られて大変なの。それに今は、私のリーダーシップを疑う人もいて…… 自分の判断に自信が持てなくなるのも無理はないわ」
ネイサンは彼女の手を包み込んだ。
「リリー、君は何もないところからこの会社を築き上げてきた。どんな困難にも立ち向かい、乗り越えるたびに強くなってきた。君の成し遂げてきたことは、他の誰にもできない。これから待ち受けるどんな事態にも、君は十分対応できる。助けや助言が必要な時は、いつでも僕がそばにいる」
リリーの瞳に少し涙が浮かんだ。
「どうしていつもこんな風に支えてくれるの。辛い状況でも、ずっとそばにいてくれる」
ネイサンは彼女の手を優しく握りしめた。
「君を信じているからだ。ずっと前から信じてきたし、これからもずっと信じ続けるよ」




