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第 5 章:境界線を越えて

時が過ぎるにつれ、リリーはますますカーター・エンタープライズの世界に深く根を下ろしていった。ネイサンが彼女の能力を信じた判断は正しかった――彼女は高いスキルと創造性、揺るぎない責任感をもってキャンペーンを牽引し、経験豊富なチームメンバーたちさえも感心させた。プロジェクトはゆっくりと、確実に形になりつつあった。だが事業が進むにつれ、もう一つの変化が生まれていた。リリーとネイサンの仕事上の関係は、かつてない領域へと踏み越え始めていた。

過酷な長時間の会議が終わったある深夜、リリーは再びネイサンのオフィスにいた。全面ガラス窓の外に広がる街の明かりが部屋に長い影を落とし、すべてを柔らかく、非現実的な光で包んでいる。ネイサンは窓際に立ち、背中を向けたままガラスに手を添え、街並みを眺めていた。

「本当に良い仕事をしてくれた、リリー」

ネイサンは低く、物思いに耽るような口調で言った。

「私の予想を超える出来だ」

その言葉に誇らしさを覚える一方、今夜の空気はどこか違っていた。ネイサンはいつもよりも疎遠で、思索にふけっているように見える。心に重たい何かを抱えているかのようだった。

「ありがとうございます。あなたのご指導がなければ、ここまで辿り着けませんでした」

リリーは軽やかな雰囲気を保とうと、穏やかに答えた。

ネイサンは振り返らなかったが、彼の圧倒的な存在感が部屋全体に満ち、言葉にならない思いが空気に充満しているのが分かった。沈黙を破るべきか迷った瞬間、彼が再び口を開いた。

「君にこのキャンペーンの責任者を任せたのには、理由がある」

ついに彼女の方を振り返り、揺るぎない瞳で見つめる。その表情から本心は読み取れない。

リリーの心が一瞬躍った。新しい視点や創造性を買われたのだと思っていた。だが、それ以外の理由があるのだろうか。ネイサンは仕事の能力を超えた何かを、自分の中に見出しているのだろうか。

「ずっと君を見守ってきた」

ほとんど囁くような声で続ける。

「君は他の人間とは違う。ただ出世を求めて駆け上がろうともせず、別の何かに突き動かされている」

リリーは唾を飲み込み、重たい言葉が全身を覆うように感じた。

「その…… どういう意味でしょうか」

不安を隠しきれない細い声で問い返す。

ネイサンは一歩近づき、瞳を離さず彼女を見つめ続ける。

「君は単なる野心家ではない。仕事に誠実で、成果や全体の未来を真剣に考えている。そここそ、私が君を認めている部分だ」

リリーは息を呑んだ。ネイサンは感情を表に出さない寡黙な男だ。だが今夜、彼はほんの少しだけ心の内を見せてくれている。その事実が、彼女を戸惑わせ、同時に怯えさせた。

彼の言葉がどれほど心に響いているか伝えたかった。だが思いをまとめる間もなく、ネイサンの声が響いた。

「このプロジェクトは、もう君にとって単なる仕事ではなくなった」

声色が少し掠れ、重たく響く。

「仕事への取り組み方を見れば明らかだ。君は全身全霊を注いでいる…… そして、私にも」

リリーの鼓動が激しく速まり、思考が混乱していく。彼は一体何を言おうとしているのか。

「そんなことありません」

早口に否定し、一歩下がって冷静さを取り戻そうとする。声はかすかに震えていた。

「これはあくまで仕事です、ネイサン。ただのビジネスです」

ネイサンの瞳が濁り、たった一歩で距離を詰めてくる。あまりに近い距離に、彼の体温が伝わってくる。見上げた先に彼の姿があり、リリーはどう反応すべきか分からなくなった。

「もう、ただのビジネスではない、リリー」

低く、つぶやくような声で囁く。

「君だって、分かっているはずだ」

部屋の中の緊張感は耐え難いほど高まり、時間が止まったかのように感じた。数週間、バーでのあの夜からずっと積み重なってきた言葉にならない絆、二人の間に宿る熱い思い。仕事の関係を守ろうと目を背けてきたが、今この瞬間、もう否定することはできなかった。

リリーが言葉を発する間もなく、ネイサンが手を伸ばす。指先がそっと彼女の頬に触れ、羽根のように軽い感触が全身に衝撃を走らせた。息を呑み、長い間真っ白になった頭の中で意識できるのは、肌に触れる彼の手の感触、そして部屋に自分だけしかいないかのように見つめる彼の瞳だけだった。

「リリー」

剥き出しで危うい感情を宿した声で囁く。

「もう、ただの仕事だと偽り続けることはできない」

二人の間に激しい電流が流れるような緊張が漂い、気づかぬうちにネイサンは完全に距離を詰めた。唇が重なるキスは、最初ゆっくりと、慎重で、彼女が離れたがっていないか確かめるようだった。だがリリーは離れなかった。むしろ彼に寄り添い、手を彼の胸に添え、激しく打つ鼓動を感じ取った。

それは単なる欲望や激情から生まれたキスではない。二人がずっと無視できなかった、もっと深い絆によるものだ。すべてが変わる転換点となる、運命の一瞬だった。

やがて唇を離した二人は息を切らし、わずかな距離を隔てて立っていた。その隙間を埋めるには、あまりに心が揺れていた。

「私……」

言葉を紡ごうとするものの、続きが出てこない。このキスが何を意味するのか、この先何が待っているのか、まるで見当もつかなかった。

ネイサンは一歩下がり、後悔と決意が入り混じった表情を浮かべる。

「これ以上はいけない。だけど、もう止めることもできない」

リリーの頭は混乱し、感情が嵐のように渦巻いて制御できなくなる。外界の景色は霞んで消え、未来は見えない。だけど一つだけ確かなことがあった――彼女の人生も、キャリアも、この瞬間から二度と元に戻ることはない。

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