第 158 章 均衡を掴む
ネイサンと心を交わした後の日々は、リリーにとってこれまでとはまるで違って感じられた。彼の言葉を心から受け止め、ささやかながらも意味のある変化を起こし始めたのだ。カーター企業の急速な事業拡大を指揮し続けながらも、自らに線引きを設けるようになった。夜はスマホを**邪魔モード**に設定し、週末は自分自身と向き合う休養に充て、そして何より大切なのは、ネイサンのための時間をしっかり作るようにした。
数ヶ月ぶりに、リリーは息をつく余裕を得た。会議、発売イベント、出張が絶え間なく押し寄せ、心身ともに圧倒されていた日々。だが今では、自分のペースを掴むことができた。企業を経営するだけでなく、大切な人との絆もちゃんと育んでいけるようになったのだ。
この変化に、ネイサンもすぐに気づいた。二人の電話は長く、心の通い合う内容になり、久しぶりに週末の小旅行まで計画し始めた。こんなふうに時間を共に過ごすのは、随分昔のことのように思える。
「リリー、会話の途中でメールを確認したり、電話に出たりせず、ただ純粋に話し合えるなんて、いつ以来だか思い出せないよ」
ある深夜の電話で、ネイサンが穏やかに言った。
「分かってる」
リリーは微笑みながら認めた。
「本当に長すぎたわ。もう二度とこんな風に疎かにしたりしない。あなたは私にとって、何よりも大事な存在なの」
ネイサンの声が柔らかくなった。
「それは分かってるよ。君が成し遂げているすべてを、心から誇りに思ってる。そして覚えていて、僕はどこにも行かない。どんな状況になろうと、僕たちはずっと一緒のチームだ」
彼の言葉はリリーの心を温め、一瞬、全世界の重圧が肩からすっと消え去ったように感じた。成功のために愛を犠牲にする必要も、愛のためにキャリアを諦める必要もない。心を込めて歩めば、どちらも手に入れられるのだと、リリーは悟った。




