第130章 サンパウロ進出の決断
ついにその時が来た。バルセロナのパイロット事業の成果を数週間かけて検証した末、リリーはここ数ヶ月ずっと避け続けてきた決断に直面していた——世界で最も競争が激しく情勢の不安定な市場の一つ、サンパウロへカーター企業を進出させるかどうか、という選択だ。
バルセロナからの数値結果は有望で、取締役会はこれまでになく強く大型市場への拡大を迫ってきている。四方から圧力が高まっていたが、リリーはリスクを十分に検討せず安易に決断を下すつもりはなかった。
彼女は机に座り、最新の報告書に目を通していた。サンパウロ市場は政情不安、インフレ率、予測不能な規制など、複雑な要因が絡み合い情勢が不安定だ。それでも成長の可能性は計り知れないほど大きい。もしカーター企業が無事に市場参入を果たせれば、他企業が憧れるような世界的な影響力を手に入れることができる。
だがリリーは、このリスクを冒す価値があるとは思えなかった。土台を固めず新市場に無理に踏み込むことが、壊滅的な結果を招きかねないことを知っていた。
「リリー、話がある」
サラがオフィスに入ってきて、リリーの思索を遮った。
「取締役会が回答を求めている。サンパウロ進出を強く推しており、今すぐ決断を下すよう迫られてる」
リリーはゆっくり息を吐き、相反する思いが頭の中で渦巻いていた。
「分かってる。だけど軽々しく決められる案件じゃない。リスクが高すぎる。現地に信頼できるパートナーも確保できていないのに、新市場に入るためだけに、これまで築き上げてきたすべてを危険に晒したくない。サンパウロは我々を栄華に導くこともあれば、没落させることもある諸刃の剣だ」
サラは向かいに座り、真剣な面持ちで言った。
「気持ちは分かる。だけど君はいつも、成長には大胆なリスクが必要だと言ってきたじゃない。サンパウロはまさにその好機なのに、待てば待つほど損をする。競合は既に動き出している」
リリーは瞳を細めた。サラの言う通りだと分かっている。だがキャリアを通じて学んだ一つの真理がある——慌てて物事に飛び込んでも、良い結果になることは滅多にない。
「取締役会には私から話す」
リリーは揺るぎない声で告げた。
「だけどこれが正しい決断だと確信できるまで、もう少し時間が必要だ。スピードのためだけに、我々の信念を妥協するつもりはない」




