第 118 章 新興市場、前途に漂う不確かさ
カーター企業はついにアフリカと南米への事業拡大を正式にスタートさせた。取締役会の承認は下り、今やリリーとチームが計画を実行に移す時だ。だが心の奥底には拭えない不安が渦巻いていた。これらの市場は情勢が変動しやすく、これまで直面したどのリスクよりも高い障壁が立ちはだかっている。
リリーはオフィスの机に座り、戦略報告書をじっと見つめていた。進出を狙う地域は消費需要だけでなく、**政治情勢自体も変化の只中**にあった。アフリカや南米の複数国では近年政権が不安定で、今後数ヶ月の情勢変化は予測すらつかない。
その時スマホがバイブした。最高執行責任者のサラからのメッセージだ。
「リリー、ナイロビとサンパウロの現地パートナーとの最終契約条件について話し合う必要がある。法制度面で懸念点がいくつか出てきたので、スケジュールを調整した方がいいと思う」
リリーはすぐ返信した。
「30分後に向かう。一緒に全内容を見直そう」
会議室へ向かう道すがら、頭の中は様々な思いで駆け巡った。持続可能性、誠実さ、社会的責任——これらカーター企業の理念をずっと信じてきたが、新たな市場への進出は、予期せぬ形でその信念を試そうとしている。既に現地競合からの反発も生まれ、政府の規制も想定以上に厳しい。一部地域では汚職の懸念も浮上しているが、リリーは企業の倫理基準だけは絶対に譲らないと固く決意していた。
会議室に着くと、サラは既に書類の山をめくりながら待っていた。
「リリー、状況はこうだ。ナイロビは順調に手続きが進んでいるけど、サンパウロは様子が違う。予想以上に行政の煩雑な手続きが多く、プロジェクトの進行が滞っている。ローンチの日程を繰り下げる必要があるかもしれない」
サラは表を指し示しながら説明した。
リリーは数値を慎重に読み込み、眉をひそめた。サンパウロの成長可能性は計り知れないほど大きいが、それを上回る困難が立ちはだかっている。慎重に臨まなければならない。
「適切なパートナーが確定しないまま、サンパウロに突入するのは避けたい」
リリーは強い意志を込めて言った。
「政治情勢が不安定な今、誰と提携するかは一層慎重に選ばなければならない。拡大のスピードを優先するために、我々の理念を犠牲にするリスクは冒せない」
サラは頷いた。
「同感だ。だが取締役会からの圧力は強まる一方だ。早く成果を出すよう迫られている」
リリーはため息をつき、経営者としての重圧が身に染みて押し寄せた。企業の基準を守るか、投資家が求める成長を実現するか、板挟みになっている。単なる利益の問題ではない——カーター企業がどんな企業であり続けるか、その在り方を問う選択なのだ。
「サンパウロのスケジュールは延期する」
リリーは最終的に決断を下した。
「適切なパートナーを確保できず、規制の障壁も乗り越えられない状況なら、無理に前に進む価値はない」




