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第 100 章 前へ踏み出す第一歩

リリーは広い会議室の最前に立ち、世界各国から集まった地域マネージャーたちを前にしていた。

これは、カーター社の改訂版戦略を発表してから初の公式全体会議だ。

部屋には懐疑的な雰囲気と期待感が入り混じっている。創業当初から会社を支えてきたベテランのマネージャーもいれば、事業拡大のために新たに採用された人材もいる。

戦略の成否は、自分の理念をどれだけ伝えられるかにかかっているとリリーは自覚していた。

単なる事業拡大だけでなく、成長しながらも企業文化と価値観を守り抜くことこそが核心だ。

取締役会には妥協しない姿勢を示したが、今度は社員全員の賛同を得なければならない。

「皆さん、おはようございます」

リリーは落ち着いた声で切り出した。

「この一年、私たち全員にとって困難な日々だったことは承知しています。しかしカーター・エンタープライゼスは、私たちの最大の強みである『人と人とのつながり』を失うことなく、成長と拡大を続けられると信じています」

一瞬間を置き、言葉を出席者の心に染み込ませた。

「新たな市場に進出するにあたり、この会社を立ち上げた原点を忘れてはなりません。私たちの目標は利益だけではない。顧客に本物で、一人ひとりに寄り添った体験を届けることです。それが私たちのブランドを築き上げてきた根源であり、これから成長を続ける上でも、ずっと守り続けるものです」

会議室は静まり返った。

地域マネージャーたちは互いに顔を見合わせ、彼女の方針に戸惑いを隠せない様子だ。

だがリリーは穏やかで自信に満ち、揺るぎない決意を込めて一人ひとりの視線を受け止めた。

「技術やデジタルマーケティングを軽視しろと言っているわけではありません」

彼女は続けた。

「ただ、バランスを保つ必要があるのです。デジタルツールは顧客体験を豊かにするために活用し、置き換えるために使ってはいけません。地域ごとに文化やニーズは異なるため、それぞれに合わせた手法を採用します。ローカルインフルエンサーとの提携、小規模イベントの開催、そしてブランドの根幹である対面でのつながりを大切にしていくのです」

数人のマネージャーは頷いて賛意を示したが、依然として逡巡する空気が残っている。

効率と成長ばかりを考えるよう訓練されてきた彼らにとって、スピードを緩めて個別の体験づくりに力を注ぐ考えは、直感に反するように思えたのだ。

「簡単な道ではないことは分かっています」

リリーは声を柔らかくして言った。

「だからこそ、私を信じてほしい。私たちはかけがえのないものを築き上げてきました。成長を追い求めるあまり、その魂を失いたくはないのです。本来の自分たちらしさを守り続ければ、自然と結果もついてきます」

長い沈黙の後、アジア太平洋地域の女性マネージャーが発言した。

「おっしゃりたいことは理解できます」

彼女は思慮深く言った。

「私たちの地域でも業績は順調ですが、もっと現地の文化に寄り添ったキャンペーンができるとずっと感じていました。これまで世界共通の指標ばかりにとらわれすぎていた。マーケティングにもっと人間らしい温かみを取り戻すべきだと、私も同感です」

リリーは支援の声に感謝し、微笑んだ。

「まさにその通りです。まずはアジア太平洋地域から新戦略を試験導入し、そこから得たフィードバックをもとに、他地域の方針も磨き上げていきます」

会議室の空気が一気に和らいだ。

ゆっくりとマネージャーたちが賛同の頷きを重ね、張り詰めた緊張感が消えていった。

会議の終わりには、過半数のメンバーの支持を得ることができた。

満場一致とはいかなかったが、確実に正しい方向へ一歩進めた。

成長を求めながらも、会社の魂を犠牲にしない道が存在することを、彼女は皆に納得させたのだ。

その夜、オフィスを出たリリーのスマホに、ネイサンからメッセージが届いた。

「会議はどうだった? 君を誇りに思うよ」

リリーは思わず微笑んだ。

「順調だったわ。やっと正しい道に進み始められたと思う」

「君ならきっとできると分かってた。厳しい決断を下す強さを、いつも持っているから」

感謝の気持ちが胸にいっぱいに広がった。

ここ数週間、ネイサンはずっと自分の心の支えとなり、精神的にも実務的にも支えてくれた。

必要な時にいつもそばにいてくれる彼の存在は、リリーにとって何よりも大切だった。

すぐに返信を打ち込んだ。

「いつも信じていてくれてありがとう。あなたがいなければ、ここまで頑張れなかった」

返信はすぐに届いた。

「いつでも味方だよ。本当に誇らしい、リリー。このまま進み続けて」

彼の言葉を読み、安らぎが心を包んだ。

取締役会や社員を説得する、最も困難な段階を乗り越えた。

これからは計画を実行に移す時だ。

これからも課題は待ち受けているだろうが、長い間ぶりに、自分が正しい道を歩んでいると自信を持てた。



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