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異世界ドラゴン村で育った人間は当然の如く常識外れだった  作者: 農民ヤズー


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人間の魔法の師匠を手に入れた

 

 ――◆◇◆◇――


「失礼します。どなたかいますか?」

「あー、はーい」


 最悪の気分だ。

 今の俺は衛兵と共にギルド『竜の爪先』までやって来ていたのだが、万引きをして捕まった子供がこれから警察と共に親に会いに行く気持ちが今なら理解できる気がする。


 できる事ならここから逃げ出したいが、今から逃げたところでどうにもならないのでおとなしくしているしかない。


「はいはい、どちら様で……って、衛兵? なんかうちのメンバーがやらかしたりしましたか?」


 兵士の呼びかけで奥から出てきた女性……多分ギルドの一員であろう人物は兵士の姿を見るなり驚き、その隣に俺がいることで困惑の表情を見せ、俺の顔と兵士の顔を何度も見比べている。けどそうだろう。いきなり見知らぬ子ども兵士と共にきた……それも俺の方はまるで連行されるかのような顔でいるんだから、驚かないわけがない。


「実は――」


 困惑しながらも問いかけた女性に、兵士は嫌な顔をすることなく事情を説明し始めた。


「ああ、君がガロンの言ってた。災難だったね。この街もそれほど治安が悪いわけじゃないんだけど、まあその手の輩はどこにでも湧くから仕方ないね。ああいうのは魔物と同じだと思っておくしかないよ。まあ、ゴブリンよりは知能があるだけに無駄に厄介さがあるんだけどさ」


 俺と彼女は初対面だが、どうやらガロンから話は通っていたようで得心がいったとばかりに頷き、じっと俺の顔を見つめている。


「それで、こちらのギルドが身元引受人ということでよろしいでしょうか?」

「あー、はいはい。構わないよ。サインでもするのかな?」

「こちらにお願いします」


 そうして兵士が差し出した書類に女性がサインをすると、あとは何事もなく兵士たちは去っていき、後には俺と女性だけが残された。


「あの……すみませんでした」


 面倒をかけまいと潰したのに、逆に面倒をかけてしまった。しかも対応したのはガロンではなく見知らぬ初対面の女性。なんだかとても気まずい。


「いいさ。ガロンにツケておくから」


 なんておかしそうに笑いながら言ってくれたことで、少しだけほっとする。

 けど、それはまわりまわってガロンから俺へのツケになるんじゃ……いや迷惑かけたんだから仕方ないけどさ。


「……それよりも、それは魔法の入門書かな? 学校に通うわけじゃないんだろう?」


 女性はそう言って俺の持っていた本を指差したが、よくわかったな。これ、他の国の言語で書かれてるのに。あ、いや。杖の方を見て魔法関連の本だと思ったのかも。


「あ、はい。ただこっちの魔法様式を知りたかったといいますか……」

「ふーん。……それじゃあ私が教えてあげようかい? これでも魔法使いなんだよ、私は。その本も読んだことがあるんだ。もっとも、もう何年も前の話だし、私が呼んだのはこの国の文字の者だったけどね」


 ああ、この人魔法使いだったのか。着崩した服だけじゃわからなかったけど、この本について知ってたみたいだから本当に魔法使いなんだろう。


 確かにそんな人物に魔法について教えてもらえるのであればとてもありがたい。

 でも、流石にそんな面倒をかけるわけにはいかないだろう。


「いや、さすがにそこまでは……」

「いいっていいって。どうせ暇してるんだし、先輩風をふかさせてくれよ。それによその国の、というかよその大陸の魔法についても聞きたいしね」


 よそのって……俺、自分がいた大陸の魔法のことなんて知らないんだけど、ドラゴンの使う魔法でもいいのかな? それでいいんだったら……まあ……いいか?


「それじゃあこれから教えてくわけだけど、まずはその固い話し方をどうにかしようか。私はエンジェ・エルレース。もっと普通に話してくれて構わないよ」


 そうして俺はエンジェからこの国の魔法と、ついでに文化や常識についても学ぶことになった。

 ……もしかして最初からギルドで教えてくれる人を頼んだ方が早かったんじゃないのか?


 ――◆◇◆◇――


「それじゃあここの魔法は〝魔力というエネルギーを用いた技術〟に関する学問というわけなんだ」

「そうだね。魔力そのものが何か、という結論は出ていないけど、それを使って設計やら計算やらを行って魔法陣を構築し、そうしてようやく発動するってものさ。グランのところは違ったのかい」


 この国の魔法について教えてもらったけど、最初は概論から教えてもらうことになった。まあいきなりぶっつけで実践とか言われても困ったからいいんだけどさ。


「俺のところ、というか俺の学んだのは、魔力そのものに干渉する技術だな。魔力は変化しやすく、変化させやすい物質だ。ちょっと手を加えればどんなものにでも変化してしまう万能の物質。だから計算なんてしなくても、強い意志があればたやすく変化する。要はイメージの問題だな」


 ドラゴンは小難しい理屈なんて使わない。だって存在そのものが魔法の塊なんだから。ドラゴンは呼吸も歩行も飛翔も、その全てに魔法が宿る。だからこうしようと考えただけで不思議な現象が……魔法が生じる。

 でも、それはドラゴンだけの特権ではないのだ。魔力を持っている者であれば全員魔力に干渉することができるわけで、理論上は誰でもドラゴンと同じ魔法を使うことができるのだ。ただ、ドラゴンほど簡単にできるわけじゃないってだけ。


 俺の場合は……まあ難しかったけど、なんだか最初からできそうな気はしてた。多分〝死〟っていう空気に触れたことと、転生っていう常識の埒外の体験をしたことで〝不思議なもの〟を知覚し、干渉する能力が高かったのだろうと思う。要は、普通の存在じゃなかったわけだ。


「イメージか……確かに私たちが使う魔法も、計算や術の構成はあっていても、完成予想のイメージがしっかりしていないとミスをする時がある。詠唱は術の構成の一部ではあるが、そのイメージを固めるためにも作用しているともいわれているな」


 多分、アスリートが体を動かすのと似てるんじゃないかと思う。アスリートだって速く走ったり強く力を入れるために、力学を学んだりするだろう。人体の構造を理解し、効率のいい動き方を学び、必要な力を得るために体を鍛えるが、その鍛え方だって計算をしているはずだ。


 でも最終的には自分の体を動かす感覚であり、成功するイメージのはず。魔法もそんな感じだと思う。


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