師匠もついてくるらしい
「だが……その考え方は……うーん」
「どうかしたか?」
教えてもらった魔法の使い方を自分なりに理解していると、エンジェがうなり声をあげたのに気が付いた。何か問題でもあったのだろうか?
「……いや。確か以前聞いたことがあるドラゴンの使う魔法の原理が、想像による魔法の行使だといわれていたんだ。もちろん実際にドラゴンが戦う様子を間近で見ているわけじゃないからこれも仮説にすぎないが、どこか似たものを感じてな」
あ……まずい。
ドラゴンの魔法に似てるって? そりゃそうだろうさ。何せ正真正銘ドラゴンから教えてもらった魔法なんだから。似てるっていうか、ドラゴンの使う竜魔法そのものだよ。
「あ、あー……まあ、似たような発想をする存在はどこにでもいるってことじゃないか? ドラゴンを真似してドラゴンを殺す剣を習得した、なんて一族もいるくらいだし」
ごめん、ライラ! でも普通に使ってたし、教えても問題ないよな? 本人も隠してるって感じのことは特に言ってなかったし。
「なに? そんな一族がいるのか?」
「いるみたいだよ」
「ドラゴンを殺すためにドラゴンを真似る、か……それは興味深い」
そうつぶやいたエンジェが考え込みだしたので手元の本を読んでいると、建物の奥からグランが姿を見せた。
「あ? なんだ、グランがいるのか。お前、今日は街を見学するってライラが言ってたのにこっちに来たんだな」
「ああ、それなんだがね――」
グランの声で考え込んでいたエンジェはハッとしたように顔を上げ、俺がここにいる理由を話し始めた。
自分のことだから自分で説明するべきなんだろうけど……兵士に連れられてここに来たっていうのも恥ずかしいし、説明してくれて助かった。
「……おいおい、何やってんだよ。お前ならもっとうまくできたんじゃねえのか?」
「あれでも俺的にはうまくやったつもりだったんだよ。ただ、思ったよりも相手が弱すぎたってだけで」
話を聞いたグランは呆れたように息を吐いてから問いかけてきたが、俺としては最善を尽くしたつもりだ。結果的に面倒をかけることになったけど、だからってあいつらをこのギルドまで連れてくるのもダメだろ?
もっと魔法に精通していたら洗脳とか治癒とかできたのかもしれないけど、俺の使える魔法って強化か攻撃かのどっちかだし。治癒もできないこともないけど、自分を対象としたものだから怪我人を治すことはできない。
なのでどうしようもなかったのだ。だから俺は悪くない。
「まあいい。どうせ後で会いに行こうと思ってたんだからちょうどいいな。出発する準備できたぞ」
「出発?」
出発って……どこかに出かけるんだろうか?
「そうだ。お前らを隣の街まで送るって言ったろ。お前らの事情的にも早く行けるならそれに越したことはないだろうし、できるだけ早く準備してやったんだぞ」
「え、それは助かるけど、じゃあ明日にでも出発ってことか?」
街から街への移動は大変だって聞いてたし、昨日の今日で出発の準備ができるとは思わなかった。一週間くらいはかかるものだと思ってたんだけどな。
「いや、流石にそれはな。準備できたって言っても調整とか終わったってだけで、出るのは二日後だ。これでも早く出られる方なんだぞ」
あ、なんだ。やっぱり明日じゃないのか。でもそうだよな。明日だったら流石に早すぎると思った。
「わかってるよ。ありがとう」
「おう」
でも明後日には出発か。そうなると、この街でやるべきことは早めに済ませておいた方がいいな。……やるべきことって何かあったか? 正直なところ何もなかった気がする。魔法の勉強用の本だって買ったし、基礎知識に関してはこれでいいだろ。
後は……旅の装備や必要なものはガロン達が揃えてくれるし、正直俺のやることってなくないか? せいぜいがこの街の特産を買うとかおいしいものを食べるとかその程度だろ。あ、いや。特産は無しか。だって買ったところで邪魔になるだけだし。
「その隣町というのは、ドラットのことかな?」
そんな話をしていると、エンジェが興味深げな様子で問いかけてきた。
「ん? ああ。こいつらが故郷に戻るために手伝ってやるって言ったからな」
「なら、私も同行させてもらってもかまわないかい?」
「そりゃあ構わねえけど、珍しいな。お前が街から出たがるなんて」
「なに、普段なら長距離の移動なんて面倒だと思うし、今も思うけど、今回は弟子がいるからね」
「弟子? んなもんとったのか?」
「ああ、ほらここにいるだろう? かわいいかわいい私の弟子だ」
そんなことを言いながらエンジェは俺のことを指差してきたけど、俺って弟子だったんだ。今ここで少し話をしただけなんだけど……。
別にいいけどさ。それに、教えてもらったんだから完全な間違いってわけでもないし。
「弟子って、そいつかよ……。つってもそいつは……」
俺としてはなんとも思わないのだが、ガロンは何か思うところがあるのか顔を顰めながら話している。
口ごもってしまい最後まで言葉にすることはなかったガロンだが、まあ言いたいことはなんとなくは理解できる。それはエンジェも同じだったようで、頷きながら口を開いた。
「わかっているさ。既に他の者から魔法を学んでいる者で、一人前といっても差し支えないだろう。そんな者を弟子と呼ぶのはこの子の師である者に対していささか不遜、不敬だといえるだろう。だが、この国の魔法技術について教えたのは事実であり、この子がまだその技術を習熟していないのも事実だ。学びが不十分なまま使用し、私が教えた魔法によって危険に陥ることは見逃すことはできない」
それだけが理由でガロンは口ごもったわけではないだろうが、だが同行を願い出る理由としてはまっとうなものだ。
「だから同行中に教えるってか? 魔法なんてんなすぐに教えられるもんでもねえだろ」
「それは君がバカだからだよ」
「んだとテメエこの野郎……」
自分へとかけられたあんまりな言葉にガロンはほほを引くつかせてエンジェを睨みつけるが、エンジェはそれを気にすることなく肩を竦めて話をつづけた。
「だが実際、ろくに魔法を使えないだろう? 魔法なんて覚えなくても道具をやりくりすればどうにでもなると強がり、自身が使える魔法など、せいぜい身体強化とちょっとした遠距離攻撃ていどなもの。違うかな?」
「……違わねえけどよ」
ああ、ガロンが魔法を使わなかった理由ってそんなのだったんだ。勉強する機会がないとか才能がないとかそんな感じだと思ってたけど、要は偏見か。いや、この場合は冒険者としてのこだわり……プライドっていうべきか?
「まあそれほど時間のかかるものでもない。この子はすでに別の理論とはいえ、魔法を使えているのだから。あとはこちらの基礎理念や概論を教えれば、魔法を使えるようにはなるはずさ。魔法を使うことにおいて最も重要なのは魔力に対する影響力、つまりは魔力操作能力なのだからね。それで言ったらこの子はすでに達人の域にいる」
「そりゃあそうだろうよ。何せそいつは……」
と、そこまで言ってガロンはハッとしたように言葉を止めた。
こいつ、油断しすぎだろ。今俺がドラゴンのところで育ったとか竜魔法を使えるとか言いそうになってなかったか?
「ん? 何か言ったかい?」
「いや、なんでもねえよ。けど、そういうことなら後で調整するように言っとくわ」
「ああ、頼んだよ」
そうしてガロンが頭を掻きながら離れていったが、どうやらエンジェが同行することは確定のようだ。
「良かったのか? あんまり旅みたいなことは好きじゃないんだろ?」
引きこもりってわけではないけど、あまり街から出ない暮らしをしてきたようだ。
この世界の人は自分の生まれ育った村や町を離れずに一生を終える場合が大半みたいだし、それほどおかしなことではないらしいけど、それでも意図的に外に出ないで暮らしてきた人を強引に連れ出そうとするのは本意ではない。
「構わないよ。理由は今言った通りさ。……まあ、しいて付け加えるなら、私から魔法を教える代わりに、君の魔法を教えてほしいというくらいだね。ただこれは流派や所属組織の教えや規則で教えることができない場合もあるだろうから、無理にとは言わないさ。本当についでの話でしかないよ」
ドラゴンの魔法を教える、か……
ドラゴンの……いわゆる竜魔法はかなり強力で危険なものだ。それは俺が手加減してもライラにもっと手加減をしろと怒られることからもわかるだろう。強力というよりも、強力すぎる。
そんな魔法を簡単に他人に教えるわけにはいかないのだが……
「……わかった。なら、俺が使ってる魔法について教えるよ。別に、誰に止められてるわけでもないしな」
エンジェなら大丈夫だろう。少し話をしただけだが、それでも彼女ならば無茶な使い方はしないだろうという思いがあった。
「本当かい? それは助かるよ。お礼として、こちらの魔法をしっかりと教えてあげようじゃないか」
こうして俺は人の使う魔法に関する師匠を得ることとなった。




