22.別荘での一週間
上手くいかない。マリアンヌは形が悪くなるのも構わず、爪を噛んだ。
最初の掴みは良かった。でも、その後が上手くいかない。カーライルは自分の態度が新鮮に見えて、心惹かれているはずなのに、少し彼を誘う振りをする度にマーガレットから注意と言うなの嫉妬が入る。
それはいい、想定内だ。
問題は、その後のマックスの一言。この一言で、カーライルは皇太子としての矜恃と自覚を取り戻りてしまう。
仕方が無いので、ギリアンを攻略し、邪魔な二人が居ない状態で会える場を確保した。
当初はマックスも攻略し、皇太子の気持ちを後押しして欲しかったのに、婚約者と仲が良すぎて、入り込む余地がない。
それに、マリアンヌの態度に新鮮味を感じてくれなくて、どうしようもない。
どうしてだろう?婚約者は大人しくて、目立たない、伯爵令嬢だと言うのに……
それから1ヶ月、マリアンヌは更に困っていた。
カーライルの婚約者が、すっかり元気になってしまった。
元々、皇太子の婚約者で、常にあの三人に囲まれていたマーガレットは、他の女子生徒との間に壁があるような状態だった。
それが、ある時から、急にマックスの婚約者と親しくなり、暗かった表情が明るくなった。
そして、今では、多くの女子生徒に囲まれ、毎日楽しそうに過ごしている。
皇太子も彼女のそんな笑顔に、惚れ直したのか、二人は親しさを隠さなくなった。
更に、彼女達は【ギリアンとマリアンヌを応援する会】を、発足したらしい。
どうして?
マリアンヌはとても困っているのに、当のギリアンは、彼らの後押しを得て、毎日、積極的に迫ってくる。
あの男に言われたような、冤罪をマーガレットに被せる余裕もない。人が多すぎて、どうしようもない。
最初こそ興味本位だった、マリアンヌに対する態度も、すっかり親しげで、今度、クラス全員で、マックスの別荘におよばれする事になった。
和気あいあいだ。
ミリーを思い、表情が陰ると、マックスの婚約者のルルーシュが声をかけてくれる。
「困った事があれば、相談してね。マックスが大抵の事は解決してくれるから。」
本当に解決してくれるのだろうか?マリアンヌのミリーの事も?
マリアンヌは今度の別荘行きに、全てをかけて見ようかと思っている。そこならあの男の手も届かない。
最初で最後のチャンスかもしれない。
マリアンヌはあの男に別荘に行くと伝えた。思った通り、あの男はマリアンヌに、軽々しく返事をするな。ミリーがどうなっても良いのかと、恫喝してきたが、断れる状況では無い事を伝えると、散々マリアンヌを罵倒した後、別荘行きを承諾した。
必ず戻り次第、報告をするように、と、命じて。
長期休暇に入ったら、直ぐに出かけることになっている。それまで、あと少し。
長期休暇に入ってすぐ、マックスのクラス全員で、別荘に向かう。大型馬車を数台ハモンド侯爵が用意してくれて、全員で一緒に向かうことになったので、学生は全員興奮状態だ。
カーライルとマーガレットだけは別の馬車にしようとしたが、本人達に断られてしまった。
この別荘行きはルルーシュの提案だった。マリアンヌが何かに酷く焦っているのは、男爵に何か脅されているのでは無いかと感じたのだ。それを聞き出すためには、安全な場所である必要がある。
ルルーシュにとって、安全な場所とは、ハモンド侯爵の息のかかった場所だけだ。
ここならば、マリアンヌの話を聞くことが出来るかもしれない。
学生達は、護衛が、ハモンド侯爵率いる騎士団メンバーと知り、正式な騎士達に直に触れ合える事に大喜びだ。
それも日頃は皇族を守る近衛騎士団。
皇太子を守る為と、ハモンド侯爵が大盤振る舞いで騎士を配置してくれたのだ。
女子生徒は、その煌びやかな制服姿に目を輝かせた。
別荘は静かな山の中にあり、爽やかな気候で、過ごしやすい。
各自部屋を割り振られ、荷物を解いている。
ルルーシュはそっとマリアンヌの元を訪れた。
「マリアンヌさん、入ってもいい?」
「どうぞ。」
マックスには部屋の前で待ってもらっている。
「少し、話をしてもいい?」
「ええ。」
「私ね、ずっとマリアンヌさんが、何か思い詰めているように見えてるの。もしかして、男爵に何か脅されたりしていない?」
「え?」
「違うなら良いの。ここは、私達以外、ハモンド侯爵が認めた以外の人は入って来れない、要塞みたいな場所だって、マックスから聞いたの。だから、何を話しても、あなたが恐ろしい思いをする事はないのよ。」
「ルルーシュ様。」
「私たちはあなたの力になりたい。男子学生を誘惑しているのも、本意ではないのでしょ?」
マリアンヌは悩んだ。話をするつもりでここに来たのに、いざとなったら、気持ちが揺れる。
しっかりしろと自分を鼓舞するが、これは自分一人の事じゃない。
「私ね、まだ平民だった頃のマリアンヌさんを見かけた事があるの。気が強くて、生命力に溢れてて、凄く綺麗だった。」
マリアンヌの目が丸くなる。
「そんな、頃の、私?」
「マックスに一緒に聞いてもらう?」
やはりダメかなと、ルルーシュが諦めようと思った時、一人の女性が部屋に入ってきた。
「お姉さん。」
部屋に現れたのは、孤児院に務めるミランダだった。