21.ギリアンの想い
マリアンヌと行動を共にするようになり、1ヶ月。
今日は次の試験の為、殿下とマリアンヌとギリアンの三人で勉強会をした。
ギリアンから見ると、最近のマーガレットは口うるさい家庭教師のようだった。
言葉遣いが悪い。
男性に近すぎる。
などなど。
本当に不適切であるならば、マリアンヌがあれほど学生達に好かれるわけもないのにと思う。
殿下がマリアンヌに優しくなさるから、妬んでいるのかもしれない。それこそ、公爵令嬢として、恥ずかしい行いだと思うのに。
可哀想なマリアンヌは、マーガレットが居ると表情が暗い。
いつもおどおどと卑屈になっている。殿下やギリアンが取りなそうとするのだが、マックスが杓子定規にマーガレットの正当性を説くので黙るしかない。
正しいのは二人の方だと分かってはいるが、そのせいでマリアンヌが寂しい学園生活を送らなければならないのは、どうなんだろう。
実の両親から離され、一人、突然貴族社会に放り込まれたマリアンヌに同情する気持ちは持てないのだろうか。
ギリアンは昨日の空き教室で一人泣くマリアンヌを思い返した。
可哀想なマリアンヌ。
声も出さずに涙を流す彼女が切ない。
「どうしたんだい?マリアンヌ。」
「な、何でもないです。」
「誰かがあなたを咎めたの?」
「い、いえ。私は皆さんのようにはできないから、何を言われても仕方がないんです。勉強だって、ついて行くのがやっとだし。どうして、私、こんな事になっちゃったんだろうなって。使いこなせもしない聖なる力なんて、無ければ良かった。」
「マリアンヌ。」
「私、だめですよね。何にもできなくて、劣等感に苛まれるばっかり。ギリアン様は頭が良くて、良いなぁ。」
「そうじゃない。」
ギリアンは最初の試験だけは様子見で順位を下げたが、次の試験からは学年二位をキープしている。一位はずっとカーライルだ。あと少し本気を出せば、もしかしたらその成績を抜けるかもしれない。
しかし……。
「私は数学ではマックスに叶わないんだ。どんどん難しくなっているのに、あいつは勉強する姿も見せず、婚約者と過ごしていると言うのに、満点に近い点をとる。最近では殿下すら抜いて数学では一位なんだ。更に二位は婚約者だ。私は毎回父上に嫌味ばかり言われているよ。」
「でも、数学だけです。他の学問はギリアン様の方がずっと。」
「それはそうなんだが。」
「きっとこの先、この国を引っ張って行くのはギリアン様です。経済だって、外交だって、ギリアン様の得意分野ではないですか。」
「マリアンヌ。」
「ギリアン様は、こんな情けない私にも優しい方です。」
「それはあなたが優しいからだ。」
「私、が?」
「そう。ねぇマリアンヌ、殿下と三人で勉強しようか。」
「良いんですか?嬉しい。」
「明日から、毎日一緒に勉強しよう。もし、殿下がご都合が悪ければ、私が図書室で見てあげる。どうかな?」
「お願いします。」
マックスとマーガレットが居なければ、マリアンヌも伸び伸びとできるだろう。マリアンヌの喜ぶ顔を見ながら、ギリアンは自分の提案に満足した。
図書室の奥の定位置で、マックスとルルーシュは一緒に勉強をしていた。
数学だけはついていけるが、他の科目はマックスに復習として教えて貰ってやっとなルルーシュだ。教師よりもマックスが教え上手なので、助かっている。
二人は婚約者だと周りに知れ渡っているので、二人でいても他の人に何か言われることもない。
彼らがいる場所は、彼らからは近づく人が見やすい席で、話を聞かれる心配も無いところが気に入っている。
「ところで、マックス、マリアンヌ様はどうなの?」
「どうと言われても……。俺にはわざとなのか、うっかりなのか判断がつかないが、時々貴族らしからぬ奔放な態度をとるので、マーガレット様が窘めていらっしゃるな。最初は殿下もそんな態度を楽しく思っていらっしゃったようだったが。」
「そうなの?」
「ああ。ギリアンは好ましく思っているようだ。貴族らしくなくて、新鮮なんだろう。少しわかる気もするが。」
「え?!マックスも?」
「ルルーシュの自由な所が好きだから。」
「わ、私?」
「俺の好きの基準はルルーシュだから。」
この人は真面目な顔で、なんて事を言うのだろうと、ルルーシュは赤くなるのが止まらない。
「度々、注意はされているが、どうだろうな。マーガレット嬢が注意するのを少し煩くも思っておられるようだ。」
「言われても仕方が無いわ。この間もハンカチを拾って貰ったのを見かけたんだけど、拾った男子学生の手を両手で握ってお礼を言ってた。彼には婚約者がいるのに。」
「それは良くないな。」
「私、ミランダが好きなので、色々な話を聞くのね。彼女が実のお姉さんみたいに親しくしていた女性の話を聞いてると、会いたくなるほど、かっこいいのよ。」
「どうかっこいいんだ?」
「ミランダを守るためには、年上の男の人にも立ち向かって行くんですって。それでいて、食べ物がない浮浪児を見かけると、自分の食べ物を分けてやったり、ミランダが病気になった時なんかは、勤め先の主に直談判して、医者を呼んでくれたりしたんですって。」
「そうか。」
「ねぇ、会ってみたくなるでしょう?」
「そうだな。」
「私は平民だからって差別したくはないけど、やっぱり、婚約者のある男性に触れるのは良くないと思う。私はマックスが触れられたら……イヤ。」
「うん。ありがとう、ルルーシュ。」
「うん。」
「ルルーシュに頼みがある。」
「なあに?」
「マーガレット嬢と引き合せるから、友達になって欲しい。」
「マーガレット様と?私が?」
「最近、とても寂しそうにしていらっしゃる。君ならマーガレット嬢の心を解してあげられるんじゃないかな?」
「わかった。マーガレット様にはずっと憧れてたの。お話しできると嬉しい。私ね、前世で読んだ物語では、マーガレット様が素敵で大好きだったのよ。」
「頼んだ。」
「任せて。それで、いつ紹介してもらえるの?」
「明日はどうかな?」
「わかった。」
ルルーシュは憧れのマーガレットに会うために何を用意しようかと思いを巡らせた。マックスに聞いても、いらないと言われるだけだから。




