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人間嫌いの魔人間と脳内嫁の聖女  作者: めんどくさがり
8.魔王のおしごと
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六十柱目 Lady to top on the LADY

 俺たちがホーリ・リードから帰ってくると、国内がやけに賑わっていた。

 剣仙の管理している北区の村は人はそんなに多くないが、それでも目立つ賑やかさだった。


 山の方へと向かっていくにつれ、賑やかさも増していく。


「いい加減気になってきた」

「どっかの異教が変な催し物でも始めたんじゃないか? 出店とか出てるかもしれないな。私オクトフライ食べたい」


 オクトフライ……たこ焼か。

 まあ楽しいことは良い事だし、祭もどんどんやればいい。

 そう思って中央区まで行って、ようやく祭の詳細が判明した。






「さあさあ! 中央区予選第三回! 好きな女に賭けるっすよ! 大損こいても大丈夫! かけ金最高額のギャンブラーには敗者と一発ヤレるぞ!」

「お前の仕業か」


 ステージの上で活き活きと司会を務めるクロを見て、そんな言葉が口から漏れた。

 簡素なステージに群がる大勢の野郎共と、ステージの上に立つ女性が三人。

 中央に立ってるのは馴染みの金儲け大好きマガツクロ。

 左に立っているのはキラッキラに活き活きとした表情で、自慢で豊満な体を揺らせる皇位インプリアルサクブスのフェチシア。遠目から見ても分かる乳揺れは、いかなる男の目を奪う。

 右に立っているのは、なんとシローネンのシロ。幼いが健康的な肉付きと共に、大葉を重ねたようなスカートの隙間から見える小麦色の太腿とても犯罪的なセクシーさをかもし出している……。


 が、流石にこれは勝負ありだ。見るに耐えない。


「さてさて皆さん、準備はよろしいっすか? 金を最もかけた者だけが、敗者とヤれるんすからね。よーく考えてください?」


 クロのヤツ、相変わらず上手いことやってるな。

 なんだか知らないがこれは美女コンテストらしい。

 美女コンテストではあるが、最も投資した人間がヤれるとなると、金に糸目をつけないヤツも出てくる。

 買ったやつは大儲け。負けるとしても女体を好きに出来るという可能性を考えると自然と金を落してしまう。

 どこらへんでクロがその金を掠め取るのかは分からない……。


 だが今回ばかりは欲をかきすぎたな。

 俺は問答無用で安っぽいステージまで進んで昇る。


「随分と景気が良さそうだなクロ」

「あ、お客さんステージに上がっちゃ……て、番長!?」

「シロ、なんでこんなアホみたいな催しに。そういうキャラじゃなかっただろ……」

「あ、あー、違うんっすよ番長。シロちゃんが参加したのはしかたなかったんっす。フェチシアが……」

「ならフェチシア。とりあえずこの状況を収めろ。予選とやらは中止だ」

「……仕方ないわね」


 フェチシアはふわりと客席へと飛び降りて、次々と搾精を開始する。

 客席の男性は困惑しながらも、響く嬌声と繰り広げられるフェチシアの絶技を前に、逃げることすら叶わない。

 精を飲み干し、性の海を泳ぎまわるフェチシアが会場を静かにするのに5分とかからなかった。





 独特な匂いが立ち上る会場を後にして、俺は城の自室で事情を聴取した。


「つまり、俺たちが不在の間に美女コンテストを開催したと……にしてもよくここまで参加者を集めたもんだ」


 ベッドに腰掛けながら、手渡された参加者リストを眺める。

 ちゃっかり黒の太陽の嫁全員参加してるし、レディファーストの奴等もいるぞ。


「なんであいつら参加してんの? 女体を見世物にするなんてアマゾネスが許すとは思えない」

「それは……その……」

「景品が番長だからっすよ」

「はっ?」

「優勝者は番長を一日好きに出来るっていう景品っす。アマゾネスはたぶん番長の子種が目的なんだと思うっす。それを阻止しようと黒の太陽の四人も参加したんすよ」


 なるほど……じゃない。なんで俺の同意も無く俺自身が景品にされてるんだよ。一応ここの王様で魔王だろうに。


「参加者を集めたいっていうんで私が提案したっす。あらゆる女を色香で凌駕してこそ真のサキュバスだって」

「お前はなんてことを……」

「あと催し物なら金も拾えると踏んで敗者にペナルティを設けたっす。それが敗者にベットした最高額の男はベッドに連れ込めるっていう」

「ギャグはともかく、開催してしまった以上いまさら中止ってわけにもいかない。リステアが参加者にされてないことが不幸中の幸いか……」


 そうなってたら今頃こいつらは神様が埋まってるところに放り込まれてるところだ。

 しかしどうするか……。


「とりあえず黒の嫁は全員辞退させろ。そもそもフェチシアなら優勝するだろ問題なく」

「まあね。でも私の狙いはそこじゃないの」

「なんだって?」

「貴方が負けそうなほうに全額賭ければ、そいつは全部あなたと寝ることになる。ハーレムを拡張するチャンスってわけ」

「ハーレムを拡張してどうする」

「その中でトップに立つことが、この皇位インプリアルサクブスの野望ってこと」


 サキュバスの誇りがそうさせるのか。まあもはや、ただ精を貪り食うだけじゃマンネリなのだろう。

 こういう催しで趣向を変えようというのは試行錯誤の結果というわけだ。


「俺は精力絶倫でもなければ色食いでもない。あまり巻き込んで欲しくないんだが」

「いいじゃない、貴方の愛欲を見くびってるわけじゃないけど、この先必ずマンネリは起きるわ。使い捨て性処理器具みたいなノリで使ってやれば。魔王の相手が出来るなんて光栄でしょ。だからこうやって景品に釣られて参加してる女の子がわんさかいるわけだし」


 まあ、それもそうだ。

 そもそもなんで景品が俺なのにこんな参加者集まってるわけ? あいつら俺のことをそういう目で見てたの?


「……悪くないな」


 どんな形にせよ、注目され、求められるというのは悪くない。

 じゃあ俺はどうするべきか? この催しに対して、俺はどういう立場をとるべきか……。





「と、いうことで! 景品兼審査委員長の魔王レクト番長さんっす!」

「どうも」


 つまりこういうことだ。

 今、特設ステージの客席よりも近い審査員席に座っている。


 つまり、俺の気に入った女は、審査委員長である俺が買い取る。

 こうすれば俺はサキュバスが言う様にハーレムを格調できるし、望まない相手とヤらされる不憫な女を救って……いや、掬ってやれるわけだ。

 流石に全員というわけにはいかない。それをすると八百長とか疑われそうなので、娼婦とかは適度に参加者へと回す。


 ぶっちゃけ倫理的にどうなのかと考えるところもあるが、悪魔側に立つ真人間が今更善人面するのもおかしな話だし、フェチシアも言っていた。


「リスクも承知で一人の男を好き勝手しようって女たちよ? 自業自得でしょ。リスクが嫌ならあっちの国で慎ましやかに結婚するか、色々行き遅れて誰にも相手にされず絶望に暮れるがいいわ」


 女のことになるとブッキーどころじゃない辛辣な言葉が飛び出すので、女が怖い生き物であることを確信せざるをえない。

 ちなみに俺を好きに出来るということは、俺の体を好きに出来るという意味だけではなく、資産を譲渡してもらうとかそういうのも含んでいるため、金目当てで参加している娼婦やビッチも多いらしい。


 ぶっちゃけサキュバス相手によく勝てると思うよな。鬼と相撲とるようなもんだぞ。


「そして本戦では新たな審査員が追加されるっす! まずはこの方、揺ぎ無き正妻の余裕。レクト番長の最愛の嫁、クリスティア・ミステアさん!」

「よろしくお願いします」

「なんでだよ!」

「愛する人の好みを把握できればと思ったので」


 隣に座るリステアは澄ました顔で言う。

 まあ、リステアがそういうなら構わないが。


「淫魔業界の最大手、リーリトカンパニーの女社長リーリトの系譜にして傲慢と奔放の悪魔、リリルカ・リリコル・リクル・リムルちゃん!」

「いえーい!」

「……あー、まあ紹介で納得した」

「幼女や少女の魅力が分かると異常者扱いされるのはいつの世も変わらないが、私なら堂々と語れるんだぜ」


 そういえばリムルは原初のサキュバスとして名高いリリトの娘、そのうちの一柱。

 審査員としての登用は妥当性がある。


「で、あとはゲストの方々っす」

「絶品の女が集まるって聞いたから来てやったんだが? さっさと女を出せよ」

「どうも、レディファーストの専属悪魔リルンと申します。本日はよろしくお願いしますね」


 女見たさにレクスが煽る。

 なんで呼んだんだよ……というメッセージを込めてクロを見つめる。


「えー、レクスはいわゆるヤリ手で、勇者時代はかなりの聖女を食ってきた女体の専門家っす。リルンさんはあの淫売経営で最近調子がよい娼婦館の管轄をしています。女の子から美熟女まで幅広く魅力を開設して頂きたいと、ええ、はいそれでは」


 クロもノリノリで司会進行を務めている。楽しいのだろうか。


 しかしまあ、正教ではこんな倫理に反した企画は通らなかっただろう。

 この魔境だからこそ、女性は女性の魅力を主張し、男性はそれを遠慮なく享受できるわけだな。


「では本戦のルールを手短に。今回は各地区で行われた予選の優勝者六名のなかから最も美しい、可愛い、エロイ!って思った女に投票してくださいっす。配られた投票用紙に投資金額を記入することで、最高金額を振り込んだお客さんには投票したけど敗者になってしまった参加者と一発ヤれる権利をプレゼンツ!」


 気合入ってるな。

 それにしてもこんなリスク高い大会によく参加しようと思えるな。

 一攫千金を夢見ているのか、自分の体によほど自信があるのか。なんにせよ人の欲望は頼もしいほどに深い。


 さて、どれほどのものが揃ったのか、見せてもらうとしようか。


「ではでは早速本編、もといアピールタイムを始めてしまいましょう。エントリーナンバー1番! 今大会の企画者。自称皇位インプリアル、魔界で最も有名でマーベラスグラマラスなサキュバス。フェチシア!」


 ピンク色のライトと共に、舞台のカーテン裏からフェチシアが姿を現す。

 一歩一歩、モデルような歩き方をする旅に、自慢の美巨乳がたゆんたゆんと揺れる。

 衣装は紐のようなスリングショットの水着から、大きな乳房が零れ落ちそうではらはらする。

 というか、あれでどうしてポロリしないんだろう。魔法とかで固定しているのだろうか。

 ていうかあそこまで揺れるならいっそ見えてほしい。


 身を屈めれば反転した二つの山脈の狭間には深淵が吸い込まれそうな闇を湛えている。

 身を起こし上体を逸らせば、無防備に曝け出される丸い柔肌が小刻みに震える。

 キメ細やかな肌も相まって、その肉の果実に色々と埋めたくなる。


 後ろを向けば、なんと背中を向けてなお乳房の端が見える。

 横や下からならまだ分かる。だが後ろから見える乳は存在感がありすぎる。


「これもう優勝だろ」

「癪だが同意権だ。あんなのいくら聖女かき集めても敵わねぇ。お前なんて仲間連れてやがるんだよ」

「いやー、相変わらずフェチシアはエッロいよなぁ」

「サキュバスですからね。姉さんにも少しは見習っていただきたいんですけど」


 我ながらよくあんな誘惑に耐えたものだ。愛欲強すぎか。

 数多くの聖女を食ってきたレクスのお墨付きに加え、リーリトの系譜である二人も絶賛。

 ただ、一人を除いて。


「リステア?」

「限界ギリギリまでの露出度、女体を熟知した見せ方、なるほどこれに抗ったレクトには本当に……なんでそこまで無理したんですか」

「えっ」

「ですが……ええ、色香はあっても花が無いように思えます。女性としてではなく、女体として、つまり肉としてしか考えていないところが色欲らしく、しかし愛には至らないといったところでしょうか。

「お、おおっ……」


 リステアが至極真面目に開設を始めたぞ。もはや俺の知らない独自の成長を遂げているのか、リステア。


 とはいえ、感想は明瞭にして、分析は的確。

 良いところはきっちり褒め、悪いところは容赦なく指摘する。

 ぶっちゃけちょっと怖い。


「もしかして、ちょっと対抗意識芽生えたりしてる?」


 リステアは少し俯いて、俺の居ない方に顔を逸らす。


「……少し」

「あーもう可愛いなぁリステアは!」

「はいそこイチャイチャしない。参加者の評価をしてくんさいよ」


 怒られてしまった。

 しかしそうだな。仮にどんな美女が出てきたところで、リステアに勝ることなどないのだから。

 言うまでもない、分かりきった美しさもしばしば口にした方が良いと言うが、あまり繰り返しても口説くなる。


「では続いてエントリーナンバー2! 皆さんご存知レディファーストの娼婦館より、人気No.1のあの方が登場! 今年で娼婦引退を宣言した彼女の人生は誰が落札できるのか!? 人呼んで、娼婦館の良妻賢母!」


 個人名ではなく通名と共に現れたのは、ネグリジェ姿の女性が姿を現す。

 豊かさ溢れ出るデカ乳とデカ尻、ふっくらとした肢体を手で撫で回す。

 自分の体を抱き締めるようにすると、腕で柔らかな胸が浮き彫りになり、持ち上がると観客の熱は更にあがる。

 フェチシアのような攻めたてるようなアピールではなく、相手を誘い込むようなやり口。


「なるほど、これはいい。体のパーツが全部柔らかそうで抱き心地が良さそうだ」

「うーん、破廉恥……娼婦ってのも意外とやるんだなぁ」

「そりゃ私の管轄ですからね。これくらいのレベルじゃないと」

「あーいうタイプは熟した聖女で食い尽くしたからなぁ。あんまりそそらねえ」


 別に俺が被害者じゃないからいいけど、レクスはそういえば人の聖女さえ食っちまうって話を聞いたことがあった。

 あれは本当のことだったのか。


「人のものを勝手に取ったら泥棒だぞ」

「ざっけんじゃねえよレクト。悪魔のお友達、悪徳の魔王レクトが泥棒はいけませんってか?」

「いや……別に」

「レクトは寝取られ系は趣味じゃねーんだよな。独占欲強いから」

「なるほど、なら難儀だぜ。そこのリステアもいずれは俺のものになるんだぜ?」


 俺はごく自然な流れで闇に手を伸ばし、剣を掴む。

 引き抜こうと思った時には、レクスの剣は俺の喉元にあった。


「いいぜレクト、俺はいつでもテメェをぶち殺す用意が出来てるんだぜ?」

「そうかい」


 レクスの剣などどうでもいい。

 刃先が皮に触れようが、俺は剣を引き抜く。


「リステアを奪うなどと宣言された以上、なんであれ一度地獄に叩き落さないと気が休まらん」

「チッ、いいなテメェ、最高に殺り甲斐があるなぁッ!」

「レクト、剣をしまってください」


 リステアの言う事には逆らえない。

 とりあえず剣は闇の中にしまっておき、席に座りなおす。


「おいおい、女の言いなりかよ。間髪も入れずに見事なもんだ」

「私はレクトのものです。他の誰の物にもなりません」

「最初は皆そういうんだぜ? 大抵翌朝にはひっくり返ってるけどな」

「翌朝までに、貴方の自慢のモノがきちんと備わっていれば良いのですけれどね。惜しくないというならどうぞ、如何様にでも」

「あの、審査員さん、審査をしてほしいんすけど、審査」


 するとリステアはカチリと切り替えて審査モードになる。


「はい、非常に抱き心地が良さそうですね。フェチシアのような完璧なモデル体型とは違い、人間としての心地よさと包容力を兼ね備えていると言えるでしょう。また属性からしてフェチシアは攻め、こちらは受けでしょう」

「リステアさんはなんで同性の評価が真面目で的確なんすか? 実はレズ?」

「レクトの好みを把握するのも、嫁として重要なことです」

「体型を自在に変えられるわけじゃないっすよね……まあいっすかね!」


 我が嫁ながら、嬉し怖ろしい。

 頼りがいがあるし、頼られ甲斐もある。


「レクトはどう思いますか?」

「まあ確かにリステアの言うとおり、若干あまり気味の肉のほうがそそるというのはある。きっと獣の様に盛れるだろうな。俺も嫌いじゃない。特に、あれだ。あの尻がいい」


 注目するべきは大きいが形も悪くないあの尻だ。

 太腿も十分に肉が乗っていて、しかし色気を損なうほど盛られては居ない。


「あれは自然と腰が惹き付けられる。娼婦館のNo.1というのも頷けるな」


 さて、次は一体どんなのが来るのか。

 こんな見世物小屋みたいな場所でさえ、野心と欲望を堂々と掲げ、成し遂げんとぶつかっていく。


 ああ、なんと愉快で残酷で光輝で闇黒なことか。

 なるほど、これがダクネシアが目指した理想の一端か。


「ちょーっとトラブっちゃいましたが、続けていきましょう! では、エントリーナンバー……えっと」

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