平等な世界
出産予定日まで、あと1週間ちょっと。私は麻里と一緒に入院時の準備をしていた。
私『なんか、今日は朝から変な感じなんだよね・・・もしかしたら、今日産んじゃうかも(笑)』
麻里『えーっ!!それなら、今日は佐村に休んでもらえば良かったのに!!』
私『でも・・・ソロのスタートダッシュが成功したから・・・ちょっと待って・・・。』
麻里『来た・・・?』
私『い、いや・・・大丈夫・・・サムも大事な時期だから、頑張ってもらわないとね・・・あー、そろそろマズいかも!!』
麻里『そろそろって・・・夕方まで我慢してたの?』
私『我慢というか・・・昼頃から本格的にズキズキはしてたんだけど、まだ耐えられたから・・・うう・・・タクシー呼んで・・・。』
麻里は事前に控えておいた番号でタクシーを呼んだ。
麻里『タクシーを呼ぶなんて、マネージャーの仕事みたい・・・まだ、時間があるから佐村に連絡しようか。』
私『今日はスタジオライブで、ちょうど、今頃の時間帯の収録だって言ってたから、電話には出ないんじゃないかな・・・。』
麻里『この前、佐村『8ミリで歴史的瞬間を録ってやるぜ』とか、言ってなかった?
私『多分覚えてないよ・・・サム、酔ってたし・・・あー・・・うー・・・怖くなってきた・・・。』
麻里『タクシーも呼んだから大丈夫だって!!くじけちゃダメ!!』
私『わかってる・・・でも、サムの声が聞きたいな・・・予定日はまだだったのに・・・。』
あくまでも予定日ですよって、医者からは言われていたけれど、夫婦揃って油断してたみたい。ああ・・・吐きそう・・・。
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人見と佳奈は岸谷の車で日比谷の栽培場に来ていた。門には鍵がかかっており、インターホンを押すと日比谷本人が家から出てきた。
日比谷『岸谷以外の二人は入れ。』
人見と佳奈が招き入れられた。
人見『中は意外と普通なんだな・・・。』
佳奈『栽培場言うても、ただの民家やもん・・・。』
日比谷は紙が置いてある机に2人を座らせた。
日比谷『坂井佳奈・・・このサインが見えるか?』
佳奈『う、うん。これ、私の字やもん・・・。』
日比谷『外部に情報を漏らした場合、相応の対応を取らせてもらう。というのも、読めるな。』
人見『相応の対応って、どういうことだ?佳奈は栽培場の情報を漏らしたりしてないぞ。』
日比谷『お前が来たのは佳奈が情報を漏らしたからだろ?』
人見『・・・俺が強引に聞き出したんだよ。お前に話があってな。色葉のときみたいに取り巻きはいないのか?』
日比谷『あれから、しばらく潜伏して、今年戻ってきたんだよ。バイトは雇っている。香は服役中だしな。つまみ食いするか?』
日比谷は佳奈に向けて言った。
人見『やめろ。佳奈は、それを断ち切るために日々を過ごしているんだ。』
日比谷『さあ、どうだろうな。吸いたいだろ?打ちたいだろ?』
佳奈『・・・。』
日比谷は佳奈の腕を掴んで服の袖をめくり上げた。
日比谷『この傷は一生消えない。その目も、心も、正常になる前に・・・。』
佳奈『さっきから何なん!?私たちはこの街から出て行けって言いにきただけや!!』
日比谷『俺が出て行っても、他の業者はまだまだいる。』
人見『佳奈、お前は黙っていろ・・・そんなことはわかってるんだよ。俺にしてみれば知り合いが2人もお前のせいで・・・。』
日比谷『白瀬色葉は俺の草を転売していたし、坂井佳奈は俺の所に草を求めてきたんだろ。俺は宣伝活動なんかしていない。バイト募集はしていたけどな。』
人見『出て行く気はないということだな・・・岸谷のように、まともな人生に乗り換える気はないのか?』
日比谷『利益が出なくなれば、そういう道も考えるだろう。ただ、この大都会で店を開くと儲かるんだ。病んでる奴や、病みたい奴が蟻のように大勢いる。甘い物に馬鹿は群がってくるんだな。』
佳奈『・・・。』
日比谷『話は済んだか?』
人見『ああ。俺たちもこんなところに長居はしたくない。佳奈、帰ろう。』
佳奈『・・・うん。』
2人が外に出ようとすると日比谷が呼び止めた。
日比谷『相応の対応を取らせてもらうと言っただろ。』
人見『開かない・・・?』
佳奈『あ!?じゅ、銃を持ってる・・・。』
バンッ!!
佳奈『あ・・・い、痛い・・・痛い!?』
日比谷は佳奈の太ももを撃った。
人見『佳奈!!』
日比谷『さあ、相応の対応は取らせてもらった。鍵も開けた。帰っていいぞ。』
佳奈『脚が・・・私の脚が・・・。』
人見『くそっ!!早く、ここから出よう!!』
佳奈『ダメ・・・。』
人見『えっ・・・。』
バンッ!!
人見『うっ・・・。』
日比谷『そういえば、お前も情報を知ったんだったな。』
佳奈『なんでや・・・人見は関係ないやん・・・。』
人見『また、脚かよ・・・ははは、肩もやられてたらデジャヴ以上だな・・・。』
佳奈『なぁ、人見・・・私、最期の数ヶ月、人生で一番幸せな時間やったかも・・・ちゃんと私を理解して叱ってくれたし・・・。』
人見『何を言いだすんだよ・・・脚を撃たれたくらいじゃ人は死なない・・・痛いけどな・・・。』
佳奈『でも、銃口はまだ私の胸を・・・。』
バンッ!!
人見『佳奈!!』
佳奈『こんな、私に手を差し伸べてくれて、ほんまに嬉しかった・・・ありがとう・・・あー・・・痛みが引いてきた・・・。』
人見『しっかりしろよ!!一緒に暮らすんだろ!!まともになって子供を育てるんだろ!!』
佳奈『天国は平等やって・・・誰かが言ってたんや・・・だから、天国で待ってる・・・最期の数ヶ月はまともに・・・生きてたつもりやから・・・神様も許してくれると・・・お・・・も・・・う・・・。』
人見『嘘だろ・・・。』
日比谷『そろそろ、銃声を聞いた岸谷が扉を蹴破るな。』
人見『最初から、こうするつもりだったのか・・・。』
日比谷『白瀬の身代わりだ。あのとき殺せなかったからな。』
人見『ふざけんなよ!!佳奈は・・・佳奈は!!』
日比谷『帰ったら、出産おめでとうの後に伝えてやれ。白瀬色葉のせいで坂井佳奈が犠牲になったと。』
人見『俺を逃がすつもりなんてないんだろ・・・そんなことを俺が離せば、自分が不利になるのだからな。』
日比谷『良くわかってるじゃないか。それじゃ、背後からではなく、正面から撃とう。』
バンッ!!
人見『な、なんで・・・こうも躊躇なく撃てる・・・。』
バンッ!!
人見『うっ・・・佳奈・・・て、天国は皆、本当の意味で平等なんだな・・・どちらかを上げて、どちらかを下げるような、見せかけだけの平等な世界じゃないんだよな・・・。』
日比谷『弾が切れた。俺も岸谷に殺されるだろう。2人とも殺っちまった。』
人見『天国が本当に平等な世界なら・・・お前も子供を身籠ることが出来る・・・夢が叶うな・・・クスリや草に逃げて・・・身を滅ぼすこともないよな・・・。』
人見は脚を引きずりながら、佳奈に近づいた。
人見『ちょっと・・・早過ぎるかもしれないけれど・・・結婚しよう・・・今から指輪・・・間に合わないか・・・言葉だけでもいいだろ・・・待ち合わせ場所は・・・綺麗な泉の前で・・・わかるだろ・・・アダムとイブの像が建ってる・・・あの・・・。』
日比谷『死んだか。』
ガチャ!!
岸谷『・・・。』
日比谷『見ての通りだ。』
岸谷『俺は1人だけだと言ったはずだぞ。』
日比谷『ああ。佳奈は個人的な契約の分で・・・。』
岸谷『なら、俺との契約違反だな。』
バンッ!!バンッ!!
岸谷『どっちにしろ、お前は殺すつもりだったけどな。情報は金を出せば買えるし、随時、情報を得るために色葉と同じマンションに人を住まわせることも出来る。色葉が出産することも知っていただろう。入院中に襲撃する計画もあったはずだ。』
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人見『う・・・ん・・・?』
麻里『あっ、人見・・・。』
人見『えっ・・・俺、生きてるのか・・・?』
佐村『心配かけんなよ・・・ったく・・・。』
私『私を救ってくれて、ありがとう・・・。』
人見『あれ・・・なんで、皆、制服なんだ・・・ここは・・・保健室か・・・?』
公子『バイクで転倒したなんて・・・嘘はダメだよ・・・人見くん・・・。』
増岡『俺が貸したビデオ返せよ・・・。』
室伏『そのビデオすげえよな。無修正の洋物だぜ・・・。』
人見『うう・・・うわ!?』
急に閃光が走った。人見が目を開けると目の前には光のトンネルが広がっていた。
人見『なんなんだよ・・・佳奈が待ってるのか。』
人見は光の中に入った。光に包まれると、何故か懐かしい感じがした。まるで温かい腕に包まれているような・・・。
人見『出口か・・・。』
出口に近づいたその時、人見は気を失った。しばらくの間、少年時代の夢を見ていた。
つんつん
人見『ん・・・。』
誰かが鼻をつついた。
佳奈『起きた・・・。』
人見『か、佳奈・・・?』
佳奈『うん・・・ここ天国なんかな。』
人見は周りを見渡した。広い草原が広がっている。空は青く、遠くには街が見えた。
人見『天国だ・・・ここは天国だ、多分。』
佳奈『私の腕見て、醜い跡が無くなってる。』
人見『・・・なら。』
佳奈『子供を産むことが出来るかも。』
人見『・・・皆、平等な世界だもんな。』
佳奈『・・・。』
人見『結婚しよう。』




