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フロウラの末裔  作者: みっつっつ
第15章 人のいない駅‬
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11 林道・・・アリス

 これまで:リシャインの街づくりが進む中、ミットはタイタロスの生簀でジャスパー狩りを楽しんだ。

 あたしの方はリシャインで移住民の一時滞在場所を作って、リカルドとやってくる人たちの得意だったり、やりたい仕事の斡旋や住居なんかの世話をしてる。人数がもっと増えたら街でやって行くはずの仕事だけど、今は手伝わないと仕方がない。


 そんな中でレアル村の3男坊以下7人と娘さんが3人が、本川沿いに下って移住して来た。

 途中で会ったのが眉だけのシルバ隊だから、さぞビックリしたろうと思う。


 一時滞在所で希望を聞いて残っていた下流の農地2軒に男7人と、うち1人の恋人だと言う女を割り振った。

 娘さんの一人はなんと長男のアレックを追いかけて来たんだと。アレックも満更ではないようで、あれはうまく収まるかな?


 あたしは家作りの合間に、山に囲まれたリシャインなので、家の材料にする木の伐採のための林道と、材木運搬用の荷台の低いトラクを作っている。

 ガルツさんがあちこちの支店で移住者募集をしてくれているから、あたしも当分は忙しい。トラクで食料や道具類、生活雑貨なんかが大量に送り込まれて来るので、その販売場所も必要だった。


「リカルド。今日も移住が50人くらい来るって。1番町の住宅が手狭になって来たから、2番町に家をまとめて建ててくよ」

「ああ、そっちは頼んだ。昨日大工を見つけたから、内装や家具を頼んでみるよ。商店街も準備が進んでる。4日もあれば半分くらいは開店できそうだ」

「ああ、お店ね、良くリシャイン通貨での買い物を認めさせたね」

「ガルツ商会のおかげだよ。俺一人じゃどうしようもなかった」


 リシャイン通貨は街の借金、言ってみればただの紙切れだ。もちろんシロルとシルバが細かい文様を描き込んでいるので、この世界の技術では偽造は難しい。

 街から移住者に一律一人50万シルをその通貨で準備金として支給して、当座の生活資金にしてもらう。

 1年後にガルツ商会が全て額面で買い上げるとリカルドが説明して回ったので、今のところ外から来た商人たちも受け取ってくれている。


『回収はするつもりだが、この投資を捨てたにしても街がひとつ開くんだぞ?債権者がうるさいからあれだけど、丸裸にされたって俺は構わねえ。やれるだけやってみろ』


 この間のツーシンでそんなことを言ってガルツさんは笑っていたよ。とにかく目処は1年だ。


   ・   ・   ・


 お昼を過ぎてすぐに、木こりさんと言っていいのかわからないが、林道を作って山の手入れをしてくれるという男、たしかネイデルさんと言ったか、庁舎の受付に駆け込んで来た。


 いつものように小型の作業車で山に登り、道のルートに邪魔になる木を切り倒していたところ、見たことのない大きな黒いトカゲと出会ったらしい。


 作業車は言ってみれば道路班の作業仕様トラクの小型版で、作れる道幅は3メルと退避所、最大射程100メルは一緒だけど、小回りが利くのでこういうグネグネ道を作るのはこの方が都合がいい。町の発展のためには木材資源の確保が急務なんだよ。


「受付でも話したが俺は邪魔になる木を倒そうと頑張ってたんだよ。そしたら30メルほど離れたところに立派な角の雄鹿が目に入ってよ。

 あー、鹿がいるんだ、なんて見てたら黒い影が飛びかかるじゃねえか。チラッと見えた感じじゃトカゲっぽかったよ。あれだけの角となれば、鹿も大きい筈だが、一発で仕留めちまったのよ。

 俺は泡食って作業車で逃げてきたよ」


 話を聞く限りじゃキラキラトカゲ(アガマ)っぽい。ミットに行ってもらおう。


「ミット、聞こえる?」

『なにー?なんかいー話ー?』

「いい話なのかなー、西の山に伐採用の道作ってるのは知ってるでしょ?あの先でトカゲ(アガマ)が出たっぽい。角の立派な雄鹿が一撃だって」

『へー?それはすごいねー。狩り方は分かってるから、あたいの敵じゃーないと思うけどー。またあのドロン使うねー。あと網もー』

「用意しとくよ。明日でいいかな」

『あいよー。切るよー』


 手が空いたらシルバに材料を用意してもらってドロンと網を作り直した。この間のは邪魔になるだけなので、とっくに素材に戻しちゃってるからね。


    ・   ・   ・


 寝坊助のミットが珍しく朝食の終わりに現れ、意気揚々とドロンに乗って跳んで行った。


 それを見送ってあたしは庁舎で6人の部署で書類のまとめをやってる。あたしの部署は総務と言って、何でも屋だ。一応あたしの決裁で対応が決まる。だからしょっちゅう割り込みが入るので報告書がまとまらない。

 この報告書は確か8日前に手をつけたはず。なのにまだ半分しかできていない。むう。


「部長、こちらの案件の対応はこれでいいでしょうか?西の外れの合流部の計画なんですが…」

「ああ、排水処理か。建設はみんなシルバたちがやってたから、街にはマニュアルがないんだね。作らせるよ。

 で、ここだけど、合流は水をぶつけるんじゃなくて向きを揃えるようにしてあげて。大雨なんかで水量が増えると暴れちゃうから。洪水の原因になるよ?そうね、こんな感じにしてくれる?用地はここまで確保してちょうだい」


 あたしはマノさんが図面に描いてくれた修正案をなぞって指示を出す。


「はっ。直します」



 さて、どこまでやったっけ。紙の上にピッと赤いラインが乗った。マノさんが手伝ってくれるのはこう言う補助と図面描き、計算まで。そこから先はあたしが断った。あの早口で途切れる解説を聞いてもねえ。


 結構厚みを増してきた書類を分類しながら、書き写して行く。これもいい人がいたらやってもらいたいなあ。


『アリスー、聞こえるー?』

 あたしは小声で聞き返す。

「ミット、なんかあった?」

『あれキラキラトカゲ(アガマ)じゃなかったー。剣が通るし、鈍いのは良いんだけど、でっかいんだー。解体を頼みたいー。数も結構いるしー』

「むうぅ……」


 あたしは部署の6人に向かって

「西の山に出たトカゲを運ぶ手配を始めます。お昼までに3人、林道を運転できる人を集めてください。あたしはこの件で状況を確認に行きます」


 指示を出すと、部屋から出る。ミットがそこで待っていてすぐに西の山へ跳んだ。大きな木には黒いトカゲが血抜きでぶら下がっている。体長2メル半。

 その奥の木ににも同じくらいの?

 マノさんの赤い表示は3メル47セロと出てる。あらら、おっきいね。


「他に4頭仕留めたよー。この辺りはこれで大体だけど、この山だけでも結構いるし、ここって山だらけだからねー」

「そんなに居るんじゃ、ミットがやってちゃ大変かな?」

「そうだねー。後々も出るだろーし。あれは?船に乗せてたレールガンー。短い槍を打つだけなら小さくても良いんじゃないー?」


 あたしがちょっと考えてできそうかなと思ったところで、改造案の図面が赤い線で空中に描き出された。

 あたしは頷いた。


「あとはー、トカゲ解体の道具って作れないー?皮と肉だけ干し肉にしちゃうくらいのー?」


 そう言うのはいっぱい作ったね。でも解体用は初めてかな?面白そう。


「やってみるよ。どうしよっか?仕留めた6頭を解体しちゃう?」

「そうしてくれれば片っ端から運んじゃうよー」


 じゃあ近間の一頭から始めようか。ミットにあたしを持ち上げてもらって、ロープの掛かった一本の後ろ脚、そこだけ飛ばして上から順に触って行く。

 あたしの両手首辺りに待機しているすごい数のナノマシンが、トカゲに向かって飛んで行ってるんだそうだけど、あたしには見えない。

 あとは解体しながらマシンが降りて行くので見ているだけ。


 まず上の方から皮が捲れるように剥がれて来た。地面に着くとある程度広がるけど、あとは積もって行く。

 あたしが手伝って広げてあげると、今度は水分を飛ばした肉が薄く束ねられた形で上から順に落ちて来る。広げた皮の上で弾んで転がるのをあたしが集めてまとめて行くと、縛った脚以外は筋で繋がった骨だけになり、肉の加工は腹部まで降りて来た。


 表面に見える肉が落ちたあと、内臓がずるりと剥がれ落ち袋詰めになって前へ倒れると、肋骨で止まってぶら下がる。首元で切断されたのかズルズルと肋骨を乗り越えて袋が降りて行った。

 見ると筋を加工したものなのか、紐状のものが内蔵の入った袋を吊っていた。袋が無事に地面に横たわると紐がプチっと切れた。


「へー。ずいぶん丁寧な仕事してくれるねー。さっすが、マノさん。数え切れないくらい解体やってるから、これくらい当然かー?」

 なんか、ミット、ハードル上げてない?


 ミットが脇の土をボコッと持ち上げた。深さは1メルほどもある。できた穴に内蔵袋と残った骨を蹴り転がして、持ち上げた土を戻す。ちょっと盛り上がってるけど、まあ、問題ない。


 そんな調子であたしたちは2ハワーほどかけて、6頭を庁舎の冷蔵庫に転移で運んでしまった。

 あたしは改造型作業車を作り始めた。屋根の上に短いと言っても2メルはあるけど、レールガンを装備した車両を4台。短槍も10本付けてあげよう。1日に撃てるのは5回がいいとこ、あとは予備だ。小さいけど冷蔵庫も積んだ。あちこち詰め込めば1頭分くらいは載りそうだし。


 解体の道具もブラシの形に作って使い方を教えた。これで肉と皮は回収できるはず。


 あ。いけね。運転手さんを3人集めちゃったんだっけ。伐採木の運搬に回ってもらえるか聞いてみよう。


   ・   ・   ・


 トカゲ騒ぎに作業車を短槍で武装させてから10日ほど経ったけど、あちこちで遭遇があって4頭が肉になった。大きいのと当たって積み切れなくて、現地の(つた)で籠を編んで肉を積んで来たやつがいた。


 あれは林道屋の臨時収入になるので、みんな横や後ろに括るカゴを工夫し始めたみたいだ。

 見るからに邪魔くさいんだけど、まあ、何か言ってくるまでは放っておこう。

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