8 リシャイン・・・ミット
これまで:ミットに喝を入れられたリカルドはレアル村に行って家族に自分の畑を見せ説得した。甲斐あって移住を承知した一家に全小作の家を誘致するよう依頼した。
「ところでさー、リカルド街長ー。ここの街、名前決めてくんないかなー?あたい、話にくくってさー」
「あー。そうだよね。ぱぱっと決めてよ。ガルツ商会の取り決めだと、近くの町の名前で乗り場を呼ぶんだよね」
あたいが振った話にリカルドはしきりに首を捻っている。
「ええっ?うーん。シャイン?ハイショーン?」
「あー、弟さんねー。そう言うのもありかなー?」
リカルドはちょっと首を傾げた。
「リシャインにしよう。俺たち兄弟が目指した街だ」
アリスが一つ頷いて続けた。
「でね。シルバ隊の追加が明日来るんだ。当面は支流の拡幅と盤下げでいっぱいだけど、そっちはシルバに任せて大丈夫。けど計画書や図面は目を通しておいて欲しい」
「俺、字はあんまり得意じゃないぞ?」
「絵図ならいいでしょ?シルバに頼んどくよ」
「あたくしも手伝いますわ。この街の地図も作ります」
「うん、シロル、頼んだ。あたしはリカルド用のジョーヨーを作っちゃうよ。それで街の絵図を見ながら一通り回ってもらわないと」
アリスはリカルドにトラクの資材庫から材料を出させて、1ハワーとかからずジョーヨーを作ってしまったよー。愛の力は偉大だねー。
その後はアリス教習所だねー。あのセンセーは厳しいよー?でもペダル踏みつけてハンドル回すだけなのに、なんであんなにフラフラするんだろーねー?
クロミケが畑の世話をして、あたいはナックと遊んだりノンビリさせてもらった。
夕方までリシャインのまだ何にもない街を2人であっちこっち走り回って来たようで、シロルの持たせた紙のおっきなチズが書き込みだらけになってたー。頑張ったねー。
リカルドの運転も最初のノロノロ運転とは大違いで、ちゃんと道を見て走ってたよー。
「ミットさん。明日は一度レアル村に行って来たいんだ。誰か連れて来て畑の世話をさせたいから」
「あいよー」
夕飯の後はシロルとシルバは今夜中にも来ちゃうだろうシルバ隊の作業計画を始めていた。アリスは書き込みだらけの紙のチズを抱えたリカルドの手を引いて家に行ったし。
あたいはナックを連れてサイナスに跳んだ。
・ ・ ・
ネギラに起こされてあたいはトラクにナックを連れてリシャインに跳んだ。シロルがテーブルにあたいらの朝食を置いてシルバと他の作業をしていた。
「おはようございます、ミットさま。片付きませんのでお早くお召し上がりください。
アリスさまはリカルドさまと街を見て回ると仰ってました」
「ふーん。熱心なことで結構だねー。さあ、ナックー。朝ごはん食べよーかー?」
あたしはナックをシルバに預けて昨日の続きだねー、と思ってたらアリスからツーシンが入った。
『やっと来たの?ねぼすけ。ちょっとレアルまで行って来てよ』
「あー、そうだったっけー」
あたいは上空に跳んでリカルドのジョーヨーを見つけると、隣の山との境目の沢を見て歩いているアリスたちのそばに跳んだ。
「こんなとこ見てどーしたの?」
「あ、来た来た。沢の水がどんなもんか気になってさ、水の量とか見てたんだよ」
「ミットさん、すぐ行けますか?」
その言い方がちょっと気に入らなくて、あたいはレアル村はリカルドの家の納屋に直接跳んだ。
「親父。どんな塩梅だ?」
ネディアさんが居間から顔を出した。
「ああ、リカルド、ミットさん。お父さんは村の寄り合いに行ってるよ。全小作が居なくなると働き手が足りなくなるって、大きい家が反対して大変なんだよ」
「なんだよ、それ。食うや食わずでいいように使っておいてそんなこと言うのかよ。
じゃあ兄貴のどっちか借りられないかな?俺の畑の世話を頼みたいんだ」
「グレスとナスタルを連れてお行き。ちょっと待ってな、弁当を持たせるよ」
「あー、ネディアさん。お昼はこっちで用意するよー」
「ミットさん。悪いけど2人を連れてってくれるかい?俺は寄り合いに行ってくる」
「あいよー」
あたいが寄り合いとやらに乗り込んで、引っ掻き回すのもちょっと違うと思うし、今日のとこは大人しくしとこー。
「やあミットさん。俺はグレスだ。こっちは弟のナスタル」
「昨日は失礼したよー。世話はロボトがやってるんだけどねー、リカルドが手伝って欲しいってよー。あんたの住む家も見たいだろーし?」
「ああ。お世話になるよ」
「ナスタルだよ、お姉ちゃん、お願いねー」
そんなことを喋っている間にリカルドは肩を怒らせて家を出て行った。ネディアさんが心配そうに見送ってるよ。
あたいはリシャインのリカルドの隣の家に跳んだ。でもこの人達って全然驚いたりしないねー、リカルドより順応が早いよ。
「ここと向こうの家、どっちにするか知らないけど、まあ一緒だからねー。ゆっくり見たらいいよ」
「畑の世話は?」
「今日はクロミケがやってるから大丈夫だよー。作りはリカルドの家と一緒だけどねー。用意する家具とかもあるでしょー?」
「ああ、そうだな。こうして見るとあそこにはたくさん家具があったんだな。あれはどうしたんだ?」
「あれはみんなアリスが用意してやったんだよー。放っとけないって言ってねー」
「グレス兄ちゃん、僕もここに一緒に住んでいいかなあ?」
「行ったり来たりすればいいさ、近いんだし」
「うん!」
平家だけど部屋数は居間の他に4部屋もあって結構広い家だ。小さいお日様発電があるからベンキーも使えるし、お風呂は温泉!
あたいもじっくり見るのは初めてだけど、アリスのやつ、リカルドに住まわせたくってだいぶ奢ったなー?
共同の温泉場もきっとこじつけたんだねー。
グレスたちはひとまわり部屋を見たら畑を見にいった。沢水を利用した用水路なんかを熱心に見てた。
でも、グレスって後ろ姿がカッコいいねー。腰回りがキュッと絞った感じとか、歩く時の脹ら脛の動きなんかが気になっちゃった。顔はリカルドに似て、ちょっと顎が厳ついけど目が優しいんだ。
きっといい人がいるんだろーねー。
お昼はリカルドの家の前に停めてあるトラクに行って、シロルのご飯をみんなで食べたよ。ナックはアリスが相手しててくれてたみたい。ご苦労さん。
午後も半ばにリカルドに呼ばれて、レアルの納屋に跳んだ。
声をかけたらクーロイ親父さんが顔を出した。
「やあ、ミットさん。すまねえな、うちのために何度も来てもらって」
「いやー、別に構わないよー?こっちにテト班のトラクが来るまでのあと1月ちょっとは仕方ないしー。でー?どうだったー?」
あたいは気になってたことを早速聞いてみる。
「どうもこうもねえや、あの業突く張りども!」
「おー、街長さん、お怒りだねー。で、どーする?成敗しちゃうー?」
「なっ!成敗ってなんだよ?」
「そりゃあ……ボタン付きにして改心してもらうとかー?」
リカルドはあたいがちょっと口籠ったので怪訝な顔をした。
「ボタン付きってのは?」
「首の後ろにボタンを付けるんだよー。頭の中に56本だっけ、ほっそい銀の線が入って行って、すっごくいい人になるよー?」
「なんだかそれも危なそうな話だな?
まあ、今回は成敗ってのは無しで行くよ。どうせ一月もしたら道路が繋がるんだろ?希望者の受入も全小作が出ていくのもこっちの勝手だ。土地を返せばいいだけだろう?」
「いや、そうも行くめえ。大事な金ずるだしな。街道で足止めくらいはするだろう」
「ふーん?街道を通らなきゃいいんだよね?」
「まさか?ミットさん?」
「人と荷物を一気に運ぶよー。リカルド、案内しなー」
レアル村の上空70メルくらいかな?あたいはワタワタと慌てるリカルドを宥めて案内させる。
「ほれほれ、しっかりせんかー。どの家か言いなー」
口をパクパクさせ声が出ないようだけど、リカルドはなんとか震える指で一軒の屋根を指した。見るからにボロい感じの屋根、雨漏りが酷そうだよ。
庭先に降りると背中を押してリカルドに説明させる。
「リカルドです。さっきの寄り合いで話した通り、リシャインでは受入準備はできてます。これから引っ越すんで準備してください」
「ええっ?これからですか?荷造りも何も全く手がついてませんよ?」
「あたいはミットだよー。部屋の中のものはみんな持っていくから向こうで要らないものを捨てたらいいよー。他に持っていくものがあれば一箇所にまとめなー。台所からいくよー?」
「えっ?何ですって?いったい?」
「んー?リシャインに引っ越しはいいんだよねー?」
「あ、はい。それは是非とも」
「あんたが奥さん?一緒に移動しちゃうから向こうで片付けなー」
あたいは台所のものを何から何まで空中に持ち上げた。ゴミも埃も何も全部だ。分ける方が実は大変なんだ。
んー、持ち残しはないねー。
奥さんを巻き込んで上流から4軒目の家の居間に跳ぶ。
「ここが新しい家の居間だよー。正面が台所だから適当に片付けなー。他に部屋が4つあるからねー。あたいは次を運んでくるよー」
よーし次は居間だか寝床だか分かんないけど、子供も一緒に行くよー。
「おっと。アリスー、聞こえるー?4軒目に引っ越し始めちゃったから、家具頼んでいーかなー?」
『えーっ?もう始めちゃったの?ミットったら相変わらずだよ。分かったよ、トラク持っていくよ』
「ごめんねー。荷物運び忙しいから切るよー」
元の家は部屋は二つしかない。子供は5人に婆さんが居た。よくこんな狭いとこで8人も寝起きしてたね。
「次のは奥の部屋に降ろすねー」
部屋の壁には棚があって、いろんなものがごちゃごちゃに載っている。
「あんた達この部屋の物をみんな持ってくから向こうで整理しなー。ほら、こっちに寄ってー」
5人の子供と荷物を持って跳んで来て、一部屋にまとめて置いた。
「あっちにお母さんがいるから聞いてやんなよー」
後は親父と婆さんだねー。
戻るとリカルドが手伝って納屋の前に一山できている。
「婆ちゃん、あと持っていくものはあるかい?これで最後になるよ?」
「裏に埋めた壺があったかのう。この辺りじゃったと思うんじゃが」
「婆さん。そりゃあ今朝っからさんざ探したじゃないか。もう諦めえや」
「いーや。確かこの辺じゃ」
「ふうん?ちょっと見てみるよー?」
あたいは家の裏をかなり広めに土を持ち上げてみる。最初は掌一つ分の深さで。次はもう少し深く。4回目で壺っぽい底が土の塊の下に見えた。土を一旦戻してそこだけ持ち上げる。
「ほれ見い。有ったじゃろう」
婆ちゃんは得意顔だけど、これはちょっと探せないねー。
壺には不恰好な朽ちかけた人形が入っていた。磨くと綺麗な小石や、木彫りの何の動物か分からない、でもよく磨き込まれたもの。きっと大事な思い出なんだろう。
「おお!懐かしいわい!」
婆ちゃんが大事そうに抱える壺ごと親父が抱えて納屋の前まで行った。
「これで全部かい?」
「ああ。全部だ」
「じゃあ行くよー」
あたいはリカルドも一緒にリシャインまで連れて跳んだ。家の畑寄りの物置の前に出ると、「とりあえずここにしまいなー。婆ちゃん、玄関はあっちだよー」
よーし。これで一軒目の引越し終了ー。
「アリスを呼んどいたから、家具やらは何とかしてくれるよー。あたい達は次に行くよー」
「ああ。分かったよ」
なんか諦めたようにリカルドが返事するけど、あたいはそのくらいじゃ止まらないよ?
夕方までに5軒終わらせてやった。シロルが嬉々として、40人以上にもなった新しい住民の夕食を作っていた。あたいはその夕食の配達、アリスは7軒分のタンスや椅子とテーブル、ベッド、なんかを大量に作っていたので、それの配達もあってちょっと疲れちゃったよー。
アリスの目がめっちゃ睨んでる。
「あんたそれ、誰のせいだと思ってるかな?」
「うえっ?ごめんって。
ごめんね、みんなー」




